4.失態

扶川刑事は「肉一」鉢須賀店の殺人事件と森北の殺人事件に関連があると思っている。


扶川刑事は「肉一」の社長が殺された事件と、森北の殺人事件に、関連があると思った。

そんな時、県警本部捜査四課から、情報提供の要請があった。


光宗市の副市長が「関門組」県内一門の組員と接触していないか。

と云う内容だった。


光宗警察署の刑事四課が、麻薬密売グループの密売人とその購入者を逮捕した。

取り調べの段階で、かなり大きな、反社会組織の関わりが判明した。


そこで、県警本部捜査四課が、出張って来た。

捜査四課は、麻薬密売グループの摘発に着手した。


光宗署が取り押さえた密売人を県警本部へ移送し、取り調べを続けている。

更に、捜査員を増員して、県内「関門組」関連団体の壊滅を誓っている。


その過程で、光宗市の副市長という断片的な言葉を情報として掴んだ。

光宗市には、二人の副市長が居る。

どちらの副市長か、あるいは、両副市長なのかを断定出来る証拠は無い。


捜査四課では、当初、村井副市長ではないかという、憶測が先行した。


「村井屋」と「みなみミート」の関係。

「みなみミート」と村井副市長との関係。

捜査四課が、麻薬の密売人を取り調べた。


その際「みなみミート」は「関門組」との関係しているのではないか、との疑惑が浮上して来た。


特に、村井副市長の経歴から「みなみミート」との関係は濃厚だ。

「みなみミート」と「関門組」の関係があるとすれば…

という捜査四課の空気が、高まった。

村井副市長と「関門組」との関係があるという空気から、捜査四課の方針が固まっ


村井副市長に対する疑惑が、空気だけで深まっていた。

その憶測だけで「関門組」と関わっている可能性が高いと判断した。


扶川刑事は、どうも、この捜査員は、捜査四課の方針に批判的だと思った。


とにかく、捜査さは、村井副市長に、焦点を絞った。


「ええっ」

扶川刑事が驚いた。

捜査四課が、村井副市長に、注目していた事を初めて知った。


扶川刑事は、森北の事件に関与している。

と思っている。

村井副市長が、犯人か、どうかは、分からない。

でも、何か関係していると思っている。

これは、刑事の勘だ。


それならば、こうは、考えられないか。

村井副市長が、追突事故を起こした北尾さんの車に、同乗していた。


そして、同乗していた事を隠したかった。

理由は分からない。

だが、突然の出来事で、目撃されてしまった。

目撃したのが森北だ。

それで、村井副市長は「関門組」の組員に、森北を始末するように依頼した。


そして、森北は殺害された。

これだと、何となく、辻褄が合う。


ところが、長江副市長が、組員と接触した形跡がある、という情報を得た。

「関門組」組員を注視していた捜査員が、一瞬、組員を見失った。


詳しくは明かせないが、と断って、県警本部の刑事が喋った。

組員を見失った経緯だ。


大阪府警から、一報があった。

麻薬密売グループの情報だ。

「関門組」の組員が、光宗市へ向かっていると云う事だ。


それで、村井副市長に、捜査四課の捜査員二名が張り付いた。

そして、その組員にも、捜査員二名が、ずっと、張り付く事になった。


そして、組員が酢橘空港に着いた。

当日は、特に目立った動きがなかった。

夕食を市内の居酒屋で済ませる。

眉山市内のホテルに泊まった。

一歩もホテルから出なかった。


翌日、大阪府警から、二報が入った。

その夜、光宗市の副市長が、組員と接触する可能性がある。


夕方、組員がホテルから出た。

捜査員が後を付けた。

組員は、タクシーに乗った。

捜査員の一人が、ずっと、車で組員に付いていた。

だから、慌てる事はなかった。

しかも、行き先は、光宗市だ。

もう一人も車に乗り込み、タクシーを追跡した。


行き先は、光宗市の駅前だった。

組員は、駅前広場のベンチに腰掛けて、誰かを待っているようにも思えない。


暫くして、駅のホームに電車…じゃなくて、汽車が到着した。

眉山市

方面からの汽車だ。

こんな田舎…失礼。

こんなに、この駅で降りる人が居るんだ。


組員が、急いで、駅に入った。

そして、突然、駆け出した。

捜査員は、慌てて追い掛けた。


組員は、高架橋を駆け上がり、下りの

ホームへ降りた。

ホームの端へ向かって走っている。


捜査員は、二人とも後を追っていた。

しまった。

一人は、駅前から、駅の北側で待機すべきだった。


組員は、線路に降りて、線上を駆けている。

そして、線路と平行に続く北側の道路に出て、そのまま走り去った。


捜査員は、追い掛けたが、見失った。

暫く周辺を捜したが、発見出来なかった。


失態だ。

駅前の、組員が掛けていた広場のベンチへ戻った。

光宗市では、村井副市長を張り込む捜査員がいる。

捜査員は、村井副市長担当の捜査員に、連絡を入れた。


だが、その日、村井副市長は、六時過ぎに帰宅している。

そのまま、ずっと外出しなかった。

その後、村井副市長には、何の動きもなかった。


捜査四課の説明だった。

明かせない事もある。

と云っていた。


全部、喋ったのでは、ないのか。

辻褄が合っている。

これ以上に、まだ、何か、秘密にしないといけない事があるのか。


いや。ある。とすると何だろう。

説明を受けたのは、捜査員の失態した状況だけだ。


情報にあったという、言葉の断片「副市長」を信用したとすれば。

村井副市長は、当日、外出していない。

だから、組員が接触を試みたのは、長江副市長という事になる。


しかし、捜査四課は、長江副市長を注視していない。

捜査員が、張り付いていなかった。


でも、少し可怪しい。

言葉の断片「副市長」を信用したのなら、村井副市長が、怪しいとしても、長江副市長に、誰も張り付いて居なかったと云うのは、考えられない。

だから、明かせない事情とは、この辺りだろう。


組員が光宗市の副市長と接触したかもしれない日は、先々週の金曜日。

その日は、長江副市長の車に、北尾さんの車が、追突事故したを起こした日だ。


長江副市長は、警察に通報もせず、一旦、どこかへ疾走り去った。


今度は、捜査四課の捜査員が驚いた。

状況的には、組員が接触したのは、長江副市長かもしれない。


あくまでも想像だ。

考えられるのは、長江副市長が、その日、組員と会う約束になっていた。


警察に通報すると、警察官が現場に到着するまで、待っていなければならない。

更に、現場検証、事情聴取と、何時、解放されるか分からない。


そうなると、組員との待ち合わせ時間に間に合わない。

だから、現場から離れ、待ち合わせ場所へ急いだ。

そして、用件を済ませて、警察に通報した。


と、云う状況が想像出来る。

ふと、秋山の事が浮かんだ。

秋山なら、同じ事を考えただろう。


あっ。いや、捜査四課だ。捜査四課の刑事も、同様の想像をするかもしれない。


そんな時。

「肉一」の社長が殺害された。

初めは「村井屋」と「肉一」の古い確執を思い起こしていた。

しかし、もっと複雑に、反社会組織が絡む図式になって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る