【第一章完結】ミッシングリンク・ディテクティブ!
おぎゃバブ天馬
プロローグ
Case 0.プロローグ
「──過激なSMプレイによる事故死、これが事件の真相だ!」
私はそう、一幕の推理を告げた。
「SMプレイ……って?」
容疑者ダミアン氏がそう言う。無理もない。ここは”異世界”であるのだから、そういった名称が、そこまで浸透していないのかもしれない。
「あんた、急にしゃしゃり出てきて、訳分からないこと言って、なんなのよ!」
容疑者アンジェラ婦人は烈火の如く、怒りを表す。
「私は──探偵だ」
咄嗟に、自然に、言葉が躍り出る。
私は、新たな自分を、迎合する。
「異世界の、シャーロック──いや」
過去の
「シャーロット・ホームズだ!」
そして……声を張り上げて、言い放った。
この瞬間。
探偵が存在しないこの異世界で──私は、産声を上げた。
◆
意識がハッキリしている。
地に足をつけ、立っている。
そして、景色が高い……背が伸びた? 気がする。さらに見慣れないピンク色の髪がチラチラと視界に映る。手を見てみると、長年連れ添った、摘まめるほどの皮もない手ではなく、か細いが、肉付きがある。
自分が自分じゃないみたいだ──。
それが、何もない白い空間で目を醒まして、最初に思ったことだった。
「ふむ……病院みたいな場所だ」
よもや、我が家と形容していい病室。不治の病を課せられ、生まれてから死ぬまで──そこで過ごすはずだった。
最近では、宣告された余命が近づき、もはや虫の息であったが。
どうしてか、五体満足、思考はクリア。
「プイキュアが助けてくれたのか!?」
そう思った、そんな時。
壁と思しき──それくらい真っ白な空間だったから曖昧だが──正面に筆が走るように、何かが描かれていく。乱雑な動きだが、しっかりと、それは形を成していく。
そして、立体化し。具現化し。
「君には、デスゲームに参加して欲しいんだウホ!」
それは、そう言った。甲高い声だった。
「ゴリラ──いや、オランウータン?」
見たままの感想を口に出す。私と背丈は同じくらいだが、全身が毛に纏われている。
が、顔はピエロのように、アルカイックに笑っていた。
「そう。だって、オランウータンも、殺人を犯すウホ! だからゴリラじゃないウホ!」
「なるほど」
よく分からないけど、納得した。オランウータンも殺人を犯すのを本で見たときあったからだ。
「え、どうしてデスゲームの主催者がオランウータンだってウホ?」
「私は何も言ってないぞ」
「それはね……デスゲームといえば、マスコットキャラ。マスコットキャラと言えば、デスゲームだからだよ! あ、ウホ!」
「微妙に噛み合ってなくないか、会話」
だから、自分で噛み砕くことにした。
デスゲーム──漫画や映画などのテーマで扱われる──参加者同士が、殺し合いをさせられる、という……それに巻き込まれたらしい。
──デスゲームといえば、マスコットキャラ 。だからオランウータン、か。
創作物オタクの私としては、なんとなく分かる。確かに、デスゲームモノにマスコット的なキャラはよく出てくる。
「いやマスコットと言えばデスゲーム、ではないだろ」
だけど冷静に、そう思った。
「これから、君には異世界に転移してもらって、他の参加者──転移者と殺し合いをして欲しいんだウキ」
「統一しないな語尾」
そして、異世界転移というのも、創作物でよくあるジャンルだ。全く文化の異なる世界に、転移させられるという。
「ルールその1、他の参加者について、自分で探らなければならないウホ」
「本当に人の話を聞かないな君は!」
それはいっぱい悲しかった。
「ルールその2、参加者はそれぞれ
そして、とオランウータンは続けて。
「君こそが選ばれし──JOKERウホ」
「JOKER……凄そうだが、ババ抜きなら除け者にされそうだ!」
「そういうことウホ。つまり──君だけ、何も能力を持たずして、戦わなければならないウホ」
「不利だな私! そんな能力格差のあるデスゲームモノ見たときないぞ!」
「ルールその3──」
「おい無視するな!! 無視をするというのはな、無視をされた人が寂しがるということなんだぞ!」
それでも、オランウータンは私を無視して続けた。
「デスゲームが開始されたのなら、最後の一人になるまで終わらないウホ」
「そこらへんは定型なんだな……なのに私は無能力者……」
というか、さっきから変な言い回しに聞こえる説明だが……気のせいか?
「ルールその4、デスゲームには期日がある。開始から1年経過して参加者が2人以上いる場合、全員──元の世界に戻るウホ!」
「…………」
それは。
デスゲームモノとして、破綻しているようにうかがえるが……。
「つまり君は──あの生活に戻る、ということウキ」
私が黙っていると、オランウータンは言った。
言葉からして、私の境遇を知っているのだろう。
「別に、それでよかったのだがな」
一生、ベッドの上でも。孤独でも。病魔の痛苦に蝕まれ、大人になる前に死んでしまっても。
同室のサムさんは優しくしてくれたし、沢山の本に触れられてきたし、プイキュアを沢山見れたのだから。
「君の頭脳は、若くして
「ぼかぁっていう一人称、現実で聞いたときないな」
いや、僕はの派生みたいなものだから、一人称ではないか。
「ルールその5、異世界では、参加者は本来の姿──言い換えれば、今まで生きてきた姿とは違う姿で参加してもらうウホ。年齢や性別、性格は考慮せずに、ぼかぁの方でランダムに指定するウホよ」
ぼかぁは一人称だった。
それにしても、自分の顔は見えないが、そのルールは既に機能しているようで。だから自分の体に違和感があったのか。
しかしこの奇妙なルール……私のためにあるようなものに思える。
病魔に侵され──やせ細ったゾンビのような容貌の私のための。
それとも、他の参加者も、私のような境遇なのだろうか。
もしくは──元の世界で、参加者同士が知り合いである可能性があるのか。
「ルールその6、転移されるタイミングは、参加者によって異なる。つまり、転移してから長い時間経っている者も居れば、すぐの者もいるウホ」
「ほう。それは、ハンディキャップになりそうなものだが」
「うん、そうウホね。そこで、ルール7──参加者に事前に与えられる異世界の知識は、異なる。異世界はその名の通り、異なる世界。君達が生きてきた世界とは違った文明を歩んできている。転移の遅い参加者には、ぼかぁが与える異世界の事前情報が多いウホ」
そこで、とオランウータンは言って、右腕を天に向けた。
すると、みるみる粒子が集まっていく。少しして粒子が解き放たれると……紙の束がそこにあった。
「これは異世界のことが書かれたレジュメ」
「大学生みたいだな」
「で、このレジュメの内容を、転移する際にぼかぁの力で、参加者の脳内にインプットするウホなんだけど……情報量が異なる。それでハンデを埋めるウホ」
私はその言葉に、一つ思った。
「それ一回レジュメにする意味あるのか…!?」
森林環境的にもよくなさそうだ。
「ルール8、このデスゲームには、他にも様々な隠されたルールがあるウホ。それは、時間経過もしくはある条件を満たすと知らされるウホ」
「隠されたルール……」
「最後にルール9──己の信念を貫き、清く正しく、ゲームを楽しむウホ」
表情一つ、声色一つ変えずに、オランウータンは
私は、
「──いいだろう」
そう、淡々と返す。
結局このデスゲームは……現状のルールならば、私にとって、特しかない。
期限は1年──最悪、そこまで生きられるのだ。しかも、この健康体で。
「私は、清く正しく、真相究明しよう」
「……ウホ?」
依然、声に抑揚はないが、オランウータンに困惑の色が帯びた気がした。
「デスゲームの根底。私がJOKERの理由。未曽有な異世界──これらを探求するのは、さぞかし楽しそうじゃないか。こういう役回りも──デスゲームには必要な存在だろ?」
自然と、口角が上がる。
ミステリー小説──特にホームズシリーズ信者の私が、そんな奇怪な世界を実体験できるという高揚感があった。
本や同室のサムさんに教わった知識が、実践できるかもしれない!
しかし、それ以前に……。
「人を傷つけちゃいけないって、病院の先生や、同室のサムさんに教わったからな」
プイキュアからも聞いたときある。勧善懲悪、善因善果というやつだ!
「他の参加者は君を殺しにくるかもウホよ?」
「構わないさ。どうせもうすぐ朽ちるはずの命だったのだからな」
私の命を侵食するのが、病気でも、人間でも、関係ない。
「……君、やっぱり面白いウホ。JOKERに選んでよかったウホ」
そう言って、オランウータンは私に毛むくじゃらの手を翳す。
みるみると、蛍の光のような粒子が集約し、私の体を纏っていく。
「──君が世界の命運を分けるかもしれないね」
その言葉が届いた時には、粒子によって視界が遮られ、オランウータンの姿は見えなくなっていった。
そして──。
「うぷぷ」
オランウータンが小さく、笑った。
「それなんか聞いたときある!」
私の声も掻き消すように、粒子が全身を覆う。
意識が徐々に遠のいていく。
「レジュメ──インシテミル?」
そんな声が聞こえたときには……視界は揺らぎ、思考回路は遮断寸前だった。
そして……。
「──────!」
例のインプットだろう。異世界の情報が、書き込まれた。脳味噌をかき回されるような感覚に支配される。
その時、私は思った。
──異世界転移モノ……もっと読んでおけばよかったな。
大した情報が与えられなかったから。
だけど……。
──自分で探ってこそ、意義があるというものか。
胸中は、
天涯孤独の
かくして──私の余命1年の異世界生活は、
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