兵どもが夢の跡

大伴やはり

第1話

ーーー次はー次はーーA駅ーA駅ーー乗り降りの際はーー



 乾き、日照りが人間の弱さをあざ笑うかのような暑さを電車という安全圏から見続ける。


 高校三年生の、しかも、受験生の大事なそれはもう大事な夏休みを使ってまで、コンビニだって夜6時には閉まりそうな田舎に行かねばならない。

母方の祖母が亡くなり、家の整理を手伝えと母親に半幅強制的に、だ。

そんな悪態をついているうち、周りには人が居なくなり、いつの間にか乗っていた野良にしては大きな三毛猫とふたりっきりになっていた。

「、、、お前、無銭乗車だな」

電車が揺れる音に自分の声が不思議と響いた。


不機嫌そうに猫がにぁおと、返事をした気がした。


無人の改札口を通り抜ける。ビルの木々に囲まれ、人の波に飲まれ続け、いつも隣に他人が居続けている自分には少し、いやだいぶ、珍しい。

駅を出ると一台の軽トラが止まっていた。

「あっ、秋ー!!こっち、こっちー!」と俺の名前を呼び、洋装の喪服をき、大きく手をふりショートカットになっている母の姿が見える。少し小走りになりながら考える。あいも変わらず、歳の割には元気がありあまりすぎている。もう少し年にあった行動と言動をしてほしい。あと、いつ髪切ったんだ。息子をおいて一足先に祖母の家に行ったと思ったらいきなり、呼び出す。言いたいことは山のようにあるが、ぐっとこらえてしまう。

「どお?迷わなかった?都市部からだいぶ離れてるからさ。大変だったでしょ」

軽トラの荷台に俺の荷物を乗せながら、こっちの気も知らないでそんなことを聞いてくる。

「まあ、駅の乗り継ぎは少しだけ大変だったけど、、、」

だいぶ大変だった。とは言わない。母の明るい笑い声が小さな車内に響き、

「あんた、そんなこと言ってあんま乗り換えしないから大変だったんじゃない?」と痛いところをついてきた。ボロがでるといけないので、黙秘権を行使する。

「まあ、いいわ」

舗装されていない一本の田舎道を軽トラで走る。あまり好きではない祖母の家へ。

「今、あんまし状況が良くなくてさ。おばさん、紗季子おばさん、覚えてる?その人がさ、自分が姉で、一番長く暮らして介護してたんだから遺産の配分はなしで自分が全部引き継ぐべきだー!って言い出してね」

まだ、まだ走る。青い米の苗を横目に見ながら。

「だいたい、姉さんがおばあちゃん家にいるのって自分が就職活動失敗してーーーー


また始まる。興味のない、中身のない愚痴を聞かされ続ける。窓を見る。変化のない景色を見つめる。見つめ続ける。まだ、まだ道は長い。目を閉じる。

それから、いつの間にかショートカットになった母の話は聞こえなくなった。

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