16話『クエスト』
俺とレナードは急遽街を出て北西へ進むとある、小さな村へとやって来た。
人口は百人くらいの本当に小さな村だ。
小さいとはいえ、子供はいる。
問題は最近その子供を狙う魔獣が現れたという。その魔獣を探す、あわよくばそのまま倒してくれ、という依頼のクエストらしい。
「それにしてもなぜ子供ばかり狙うんでしょうね、不思議です」
「うーん、それが分かれば大体の魔獣の予想が付くんだけどね」
俺の問いにネアも首を傾けてそう答えた。
まぁその正体を調べるクエストだ。正体が分からないからこそ、探すことを第一目的とした依頼なんだろう。
「何他人事みたいに言ってんの、あなたも十分子供よ」
「あははー、またまたゼーラさんはご冗談が上手いですね。『一歳差で、なんなら身長同じですよね!』なんてツッコミ待ちなわけもないですよね、あははー!」
「ムカつく! ネア! こいつ殺していい!?」
ゼーラはどうしても俺を目の敵にしたいらしい。
「こら、最初にアルトくんに喧嘩を売ったのは君だろう。ゼーラの方が歳上なんだから気をつけた方がいい」
「む、分かったよ……ネアがそう言うなら気を付けますぅ」
拗ねているようだが、ネアの言葉には素直に返事をした。
そんな会話をしつつ、俺たちは村長にお願いされた村周辺の散策を開始した。
もうすぐ日が暮れる。
若干暗くなり始めた上に、村の周辺は森である。
なんかよく分からない動物の鳴き声も聞こえてくるし、普通に怖い。
「もし、本当に子供を狙うって言うんなら僕、囮になろうか?」
「な! アルト様何を言ってるんですか! さすがに危険です!」
「いやぁ、ゼーラの言う通り実際に僕は子供だしね。探してても出てくる気配ないから、いっそ囮になった方が早いかと思って」
「思って、じゃないですよ! 許しません! 私は許しませんよ、そんなこと!」
「大丈夫だって。《起源魔法》が使える魔法士が二人も待機してくれたら、仮に襲われても助かると思うけど?」
「それはそうですけど……」
というわけで、俺はレナードの決死な反対を押し切って囮になることになった。
もちろん囮というだけあって、一人でいるつもりだったんだけど――
「なんで私まで……」
「あははー、不思議だねー」
隣にゼーラもいた。
まぁ俺と身長が変わらないゼーラも傍から見れば子供だ。
それにレナードが心配しているのもあり、ネアが提案してくれた。
とはいえ、ネアが単に囮を増やすためだけにゼーラを俺の隣に置いたのではない。
ゼーラの
周辺の気配、音、匂い、魔力の流れなど。偵察者モードになったゼーラは五感の全てが研ぎ澄まされ、仮に魔獣が出ても少なくとも俺より早く気付くことができる。
ネアもまさな囮作戦をするつもりとは思ってもなかったはずだけど、そもそもこれは偵察クエスト。本来はゼーラの本領が発揮される役割でもある。
なので万が一があれば、非戦闘系であるゼーラを俺が守ることになる。
こむぎたちを隠し出しといてもいいけど、それで魔獣が寄ってこなくなっては本末転倒でもある。
大人しく待機しておくとしよう。
「そういえばさ、なんで君は洞窟で倒れてたの?」
「ふん。なに? いきなり」
「いや、気になっただけ」
「……そう。まぁ、単なる魔力切れよ。偵察モードに入ると魔力が消耗するの。一応魔法の類だから仕方ないけど。でも私、魔力が生まれつき少ないから。必要な場面で、偵察できなくなるのよ……」
口には出さなかったが、それは《偵察者》としてかなり致命的だというのは、素人の俺でもすぐに分かった。
「分かってる、色んなところで使い物にならないって言われたから……唯一ネアだけが私を拾ってくれた。――あんたに強く当たってごめんね、同じようなサポート能力なのにネアがあなたのことばかり褒めてたから……」
「別に僕は気にしてないけど」
「会う前は強いと聞いてもみんな冗談で馬鹿にしてるって勘違いしてた。けど、今も私の五感が感じ取ってる」
少し弱々しく、どこか悲しそうな表情のゼーラ。先程のクソガキ感は消えた。気付けば一歳差どころか、俺より一回り先を歩く大人のような顔つきに変わっている。
「――君、強いね。ネアの魔力量と同じくらい感じる。それに、変な魔力も感じる」
「変な魔力?」
「んー、魔獣から感じる魔力って言うのかな? 言葉に出すと変だけど」
こむぎたちのことだろうか。
確かにどこからこむぎたちが出てきて、そして消えているのか。俺はまだそこまで理解出来ていないけど、魔力を感じ取れるゼーラが言うなら多分間違いないだろう。
「それにしても静かだね。本当に魔獣なんて出るのかな? こんだけ静かなら平和だと勘違いしてしまうね」
なんとなく。
すごく嫌な予感が俺の脳裏に過ぎった。
この静寂には見覚えがあった。
「……ゼーラ、一つ聞きたいんだけどいい?」
「なに?」
「風の音って、今聞こえる?」
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