14話『二度目の転職』
『魔石屋グロリアス』の店主アルフレッドが店の裏から持ってきてくれた赤く光る魔石に触れた瞬間。
その声は突然脳内に流れてきた。
久々に聞いた案内人のロボットの声。
【――条件の達成を確認しました。】
目を開けていると見えないが、閉じるとあの時のように文字が見えた。
どういう仕組みなのかは分からないが、それははっきりと見えている。
これが見えたということは《転職》が可能になったということか?
初めてこの声が聞こえた時は《付与術師》から《死霊術師》に転職する条件の達成が達成した――正確には俺が死んでこの世界にやってきた時だ。
【シークレット
死んでいたアルトの体に入ることで、死体を操る能力を手に入れた。詳しい条件とやらは分からないが、俺が《死霊術師》になれたのはアルト関連で何かがトリガーになったからだと予想はできる。
つまり今回の《転職》のトリガーはほぼ確実にこの魔石に触れたこと。
【《転職》が可能です。Yes or No】
仮に転職しても《付与術師》や《死霊術師》の能力が消えないのは前の転職でハッキリした。
俺が知らないだけかもしれないが、今のところ転職自体にデメリットがないのである。
なので答えは既に決まっている。
前とは違う――俺が強くなるためにはこの《転職》が必要だ。
――Yes、だ。
【《転職》を承認しました。】
前と同じ流れだ。
一つ違うとすれば、俺の気持ちだと思う。
【
《付与術師》や《死霊術師》の固有スキルの名前を見ただけでなんとなく内容が理解出来たけど、《
森羅万象って確かこの世の全て、みたいな意味があった気はするけど。
【
まぁ何はともあれ、今のところ俺の中の主戦力でもある《死霊術師》の能力もしっかり引き継ぐことができたらしい。
一安心である。
とりあえずレナードに頼み込んで、この魔石を買うことにした。
一万ゴールドはレナードの二ヶ月分の給料より高いらしい。出世払いということで承諾してくれた。
それにしてもレナードがそんなに貯金しているとは思わなかった。あればあるだけ使うような、少し子供っぽい性格に見えるからなのかは分からないが、少し俺のイメージと違った。
まぁ一万ゴールドという大金を借りてでも、この魔石にはその価値があると判断した。
自分の弱点を補えるだけで一万ゴールドは安いんじゃなかろうか。魔石の実力はどれほどか、実際に使うまでは不明だけど。帰ったらメノと一緒に試すとしよう。
アルフレッドに別れを告げ、俺とレナードはお店を出た。
喧騒が戻り、その中でレナードのお腹も鳴った。いや、《音滅の魔石》があるせいで聞こえなかっただけで店内にいた時からずっとレナードのお腹は鳴っていたかもしれない。
「アルト様ぁ、お腹空きましたねぇ」
「馬車の中で僕の分のおにぎり、半分あげたでしょ」
「それはアルト様がいらないと言ったからですよ!?」
体が小さいせいか、食欲自体ないわけではないが前の世界ほどご飯が食べられなくなった。
それに対してレナードは大食いだ。俺が目を引くくらいいつも大盛りのご飯を食べている。
多分前の世界ならフードファイターを目指せるんじゃないかって思うほどに。
「先にネアのところに行こうよ。忙しかったら会えないかもしれないし」
「そうですね、アルト様の休日ですもんね……すみません、私のお腹がうるさくて……一万ゴールド、大金だなぁ……」
「先生! 何が食べたいですか!」
この調子で行かれるとそれはそれで面倒くさいので、やっぱりネアのギルド拠点へ向かう前に適当なご飯屋に寄っていくことにした。
お金も借りたし、今後当分レナードには頭が上がらないと思う。
一番仮を作ると面倒くさい人に仮を作ったと、少し後悔した。
「では行きましょう!」
――ご飯を食べ、復活したレナードである。
街を散策していると、奥に大きなお城が見えた。
「レナード、あれってなんて建物?」
「あれが魔法学校ですね。この王国一の魔法学校と言われてます!」
「へぇ、すごい。ハ○ー・ポッ○ーに出てくる学校みたいだ」
「なんですかそれ?」
――怒られそうなので外見についてはあまり言及しないでおくことにした。
ネアのいるギルド拠点を目指して、外国のような建物が立ち並ぶ街を歩く。観光名所ランキング一位の場所も気になるけど、魔石屋で結構時間を使っていたらしい。
今回こそ寄り道なしで向かう。
「エルフはなし、と……」
歩いているのはみんな人間らしい。
少しは毛の生えた獣人や耳の長いエルフなどの種族がいるかと期待していたけど、この世界にはその文化はないらしい。
それにしてもポケットに入れた魔石が重い。
魔石と言うだけで本来は石である。《転職》したのはいいけど、いつもの如くトリセツがないので困ってしまう。
だが、俺にはファンタジー小説の知識がある。
《収集家(コレクター)》って言うんだから、この魔石をどこかにしまったりできるんじゃ?
「――『収納』」
どうやら正解だったらしい。
俺のなんとなく予想はいつも当たってしまう。
いや、魔法や付与術と同じで明確にイメージできているから実現しただけかもしれない。
前世の記憶もあってか、知ってる単語にはある程度対応できそうだ。
何はともあれ、魔石は俺の手から消すことに成功した。
どこに消えたかは誰も教えてくれないけど。
「――『開放(オープン)』。えー、魔石魔石っと……」
視界を埋め尽くすVRゲームのようなウィンドウ。その下に魔石は書いてあった。
――《固有スキル:
実に便利な能力である。
便利ではあるが、《付与術師》より非戦闘系の能力かもしれない。
「もう少しでネアさんのギルドに到着しますよ。アルト様大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫。考え事してただけだよ」
「それ、魔石屋でも同じこと言っていましたよ。人も多いですし、考え事し過ぎて迷子になりましたとかやめてくださいね! またアルト様が行方不明になったら私が旦那様に殺されますので!」
「……そうですね、気をつけます」
ついレナードに怒られてしまったが、その甲斐もあってか、三つ目の職業の使い方がある程度わかった。
悪い言い方をすれば戦闘には役の立たない能力だけど、ポジティブに考えるなら身軽になる便利な能力だ。
「着きました!」
レナードの案内のおかげで街に来た本来の目的である、ネアのギルドへと到着した。
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