11話『お茶会』

 ――あぁ、この感覚。お酒を飲みすぎて倒れてしまった時の感覚に似ている気がする。



 俺が初めてお酒を飲んだのは確か二十五の年だと思う。


 元々お酒には興味なかったし、飲みたいと思ったこともない。

 そもそも友達のいない俺に飲む相手もいないし、そんな機会もなかったから特にだと思う。


 家でゲームとアニメを見ているだけの日々。

 ......別に戻りたいとも思わないような無価値な人生だ。


 でも不意にあっちの世界を思い出してしまうのは、少しは未練があるという事なんだろうか――。




「ん......ここは......」


 目を開けると、見覚えのある白い天井が視界入ってきた。

 ここはアルトの部屋か。


 天井も壁も真っ白なせいか、なんか寝起き一発目からなんか気持ち悪くなってきた。


「ぐぇえー」


 気分が悪い。

 本当に二日酔いのような感覚だ。


 頭も痛いし、胃もなんかキリキリする。

 手足は麻痺してるような感覚だし、今にも吐きそうなくらい、本当に気分が悪いする。


 まさにこの世の終わりみたいだ。


 これが魔力切れの代償なのか......。

 次からは気を付けようと思う。



「おっせェぞ、たかだか魔力が切れたくらいで倒れてんじゃねェ」


 隣から掠れた声と聞き覚えのある口調が聞こえてきた。

 見ると――メノがベッドの横に椅子を置いて、そこに座っていた。


「め、メノ兄さん!? なんでここに!? ぼ、ぼぼぼ僕にとどめを刺しに......!?」


「んな悪趣味じゃねェよ、舐めてんのかてめェ。別に俺様が殺そうと思えば寝てる間にてめェは死んでんだろォがよ」


 確かに、と俺はなんか納得した。


「そ、それはそうですね。殺さないでくれてありがとうございます。本当にメノ兄さんは優しいです」


「記憶喪失になって性格がキモくなってんじゃねェかよ」


「それは置いといて、なんでメノ兄さんがここにいるんですか? 確か僕、戦いの後に......倒れて。あ、そういえば僕って負けました......?」


 そうだ。思い出した。

 俺は決着がつく直前に魔力が尽きて倒れてしまった。

 でもこむぎもメノの魔法で潰されていたような気がするし......。



「ァ? てめェも俺様も負けてねェよ。あいつの言ったルールだと、線を出るか降参を言った方が負けだろォが」


「え? それじゃあ?」


「俺様が大目に見れば、引き分けだな。だが、殺し合いならてめェの完全敗北だ、雑魚が」


「うわぁあああ、ありがとうございます! 次は負けませんから!」


「てめェ俺様の話聞いてねェのか! 大目に見たら引き分けだって言ってんだろがァ!」


 メノ兄さんは優しいらしい。

 こんな怖い見た目と声と、それに加えてこの性格だ。


 クラスでこの人に絡まれたら不登校になるレベルかもしれないけど、話してみたら実は優しかったですパターンだな。



「つか、誰が大目に見るって言ったんだァ? 引き分けでもいいが、てめェの能力の秘密を吐け」


「僕の能力の秘密?」


「惚けんな、あの力を使って付与術師の範疇ってのは笑えねェ冗談だぜ。まぁ安心しろ、俺様は口が固い。それにてめェの言っていた要求――この家から出てくって手助け、俺様が手伝ってやらんこともねェ」


「な!」


 この試合、俺は負けたにも等しい。本来ならメノの要求である《死霊術師》の能力の開示のみで、この話し合いは終わっていたはずだ。


 だが、メノは俺の要求である家を出る手助けをしてくれるという。


 メノは素直じゃないだけなのかもしれない。



「まぁ事の顛末を話すと、まず僕が目を覚ますとそこは洞窟でした。すごく怖かったですよ、めっちゃ暗くて、周り見えないんです。怖いなぁ怖いなぁって思いながら」


「うっせェ、端的に話せ。五分で終わらせろ」


 俺のおふさげ口調はすぐに怒られてしまった。


 メノには『転生したこと』と『《死霊術師》を得たきっかけ』の二つは隠して、能力の内容だけをメノに伝えた。


 話をしている時、メノは一切笑わず、冗談を言うこともなく。真剣に俺の話を聞いていた。


 アルトとメノは兄弟だ。でも俺とメノは違う。

 一方的な感情かもしれないが、俺からすれば友達に近い感覚だ。

 それが良い事か悪い事かは分からないが、メノと話す時は少し性格が明るくなってると思う。


 ......もしや、コミュ力の成長も有り得る、だと?



「――てな感じです、メノ兄さん」


「はッ、面白ェ......ハハ、ハハハハハッ!」


 話を一通り終えると、メノは我慢していたのか大きな声で笑い始めた。

 なんか怖い。


「そりゃァ、レナードもおめェのその力については教えられねェだろ?」


「まぁそうですね。今のところ、この能力について話せたのはメノ兄さんだけなので」


「落ちこぼれだったおめェが面白ェ能力を拾って帰ってきてんだ。喜べ、俺様がその力の指導してやるよ」


「え? メノ兄さんって本当は弟大好きのクソ優しいお兄ちゃん系キャラなんですか?」


「あァ?」


「嘘ですなんでもありません大変助かりますので今後ともご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」


 メノが俺の二人目の先生になってくれることが決定したところだった。


 俺の部屋の扉をノックして入ってきたのはエプロン姿のレナードと、メノの専属家庭教師であるシーナだった。



「アルト様、お昼ご飯を作って参りましたよ。起きてますか?」


「あ、うん。今さっき起きたところだよ」


 見るとレナードが持つお皿の上にはいくつかのおにぎりが乗っている。

 この世界にも米ってあるんだ......ってつい感心してしまった。


 後ろにいるシーナもお皿を持っているが、乗っている茶色の物体はクッキー的な何かだろうか?


「ありがとう、レナード」


「いえ、『魔力が無くなってしまった時はまずご飯を食べろ!』ですよ、アルト様!」


 そうして、気付いたら俺はメノたちと一緒にお昼ご飯を食べることになっていた。


 変なメンツではあるが、まぁメノもシーナも悪い人ではないということがわかった。


 シーナに関してはほとんど口を開かないのでどんな人なのかは具体的に分かってないけど、元々アルトを落ちこぼれと馬鹿にしていたような様子は今のところ見受けられないし、普通にクッキーもくれた。


 すごく美味しかった。


 メノはそんなシーナを気に入っているのか、俺たちの前で魔法の実力もクッキーの美味しさもベタ褒めしていた。

 バカップルの惚気を聞かされてる気分になった。



 ――そんなこんなで。戦いの後の昼食は、平和に幕を閉じた。

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