自作落語台本

@ana5rak5

元鳩 1.0

「なんや人間っちゅうのは楽しそうやのう」

「そうか?ワシはそうは思わんけどな。そんな事より、向こうから親子連れが来たで、あの子供、あれはエサやりたいっていいよるで」

「そんなん分かるか?」

「わからいでか。あの顔はな、エサやり顔や。ほれ見てみぃ。なんやグズグズ言い出したで。ほれ、エサ買うてるわ。さぁ来るでくるで!! ほら来た!!」

「おぉ〜エサやエサや〜…て、ちゃうがな。何やこの姿、情けない。ワシはなぁ、どっちか言うと、エサを撒く側になりたいわ」

「ヨォわからんけど、そない言うねやったら、ココは観音さんや。観音さんにお参りでもしてみたらどや?人間の言うには、観音さんにお願いすると叶うらしいで」

「なんやて!ほなワシ『人間にしてくれ』言うて頼んでくるわ」

「ほんまか?ワシの言い出した話ではあるけど、やめといた方がええと思うで。人間になったかてエエ事があるとは思えん。ハトよりも人間の方がツライに違いない。見てみぃ、あそこに居てるオッサン。どう見ても不幸や。不幸が服着て歩いてるよぉなもんや」

「いらんこと言うな。ワシは何としても人間になりたいねん。ワシは人間になったるんや!」

「そない言うねやったら好きにしたらエエわ。せやけど、観音さんにお願いするねやったら、お賽銭がいるで」

「何やお賽銭て?」

「あれ見てみぃ。観音さまのところで人間がなんか投げてるやろ。あれがお賽銭や」

「はぁ、なんや小さいもん投げてるなぁ」

「あれは金。小銭や。人間っちゅうのは何をするにも金が必要なんや。観音さまにお願い事するねやったら、お賽銭として小銭をあの箱に入れることになってんねん」

「ホンマか。しかし、そら弱ったなぁ。ワシ金なんか持ってへんで」

「そらないやろ。人間には大事な金でも、ハトには何の役にも立たんねやから。あんなんはカラスなら持ってるかわからんで。あいつら光るもん好きやからな」

「カ、カラスて!あんなもんに声かけたら命がいくつあっても足らん」

「まぁ人間になろうなんて願いは命懸けっちゅうことやろうな。ほな、ワシはむこうの人間に豆ねだりに行くわ」

「おい、ちょお待て!あかんあかん!」

「ん?……どちらさんでしたかな?」

「いや、もぉええわ……。あいつ、3歩歩いて忘れてもうたんやな… ホンマ鳩っちゅうのは難儀なもんやで。

あれ?ちょお待てよ。あの豆の箱のとこ。あれ金やないか!そぉか、人間は豆の代わりに金を置くねやな」


気のつくやつがあったもんで、大須観音名物…かどうかは知りませんが、このハトさん、餌ボックスに置いてある50円玉を咥えますと、ぶわぁ〜っと飛び上がりまして…

歩いたら忘れますからね…

観音様のところまでやってまいりまして…


チャリン

「観音様、お賽銭も入れさしてもらいましたんで、これで何とか願いを叶えてもらえまへんやろか。人間に、人間になりたいんです。どうか人間にしてください。お願いします」


てなことを言うておりますと、一筋の風がヒュ〜、鳩の羽がバラバラ〜っと、舞い上がりまして…

なんとこの鳩、人間になってしまいました。


「へっくし!なんや急に寒ぅなってきたな。仲間んとこ行くか。集まっとればそれなりにあったかいからなぁ。

(飛ぼうとして)いょっと!いゃっと!

あれぇ?なんで飛ばれへんねや?…


あ!ちゃうがな!!羽根がおかしいで!!


ワシ…ワシ…人間になってるがな〜〜。


50円で!?


やっすい観音さん…いや、親切な観音さん。おおきに、ありがとうございます。羽根が手になったから、こないして人間らしく手ェを合わせる事も出来るっちゅうわけや。いゃあ〜頼んでみるもんやなぁ。まさかこんなに簡単に人間になれるとは。はっはっは…。裸やないかい。

そらそうか、服着てる鳩なんて聞いたことないわ。せやけど、人間やったらなんか着てないと具合が悪い。あ、この落ちてるやつでも巻いとくか。よぉわからんけど、これでエエやろ。何とかなるもんやな。

さ〜て、せっかく人間になったんやから色々やりたいで。しかし頼る相手もないし、なんや勝手もよぉわからんからなぁ。あ!あれはちょいちょい豆投げてくれるオッサンや。あの人やったらハト当たり、もとい人当たりもエエし、なんか助けてくれるやわからん。ちょっと、おやっさん。すんまへん。おやっさん!」



(ジムを経営してるオヤジ、口入屋の代わり)



「はいはい、誰ですかな?私を呼ぶのは…っと、うわぁ!!何ですかアンタは。裸にゴミ袋巻きつけてどぉしました?」

「いやぁ、ちょっとどうしていいのかわかりませんで」

「何を言うてますんや。あんた名前は?」

「名前?よぉわかりません」

「はあ?ほな、どこから来たんや?生まれは?」

「ちょっと覚えてないんです」

「なんや記憶喪失にでもなったんか?気の毒なことや。ほなまぁ、これも人助けや。アンタが記憶を取り戻せるヨォに世話してあげましょ。ちょっと歩かなあかんけど、私が経営してるジムがあるから、一旦そこに行って、医者やら警察やらに相談しよか」

「よろしゅうお願いします」

「ほな私についといで。と言いたいところやけど、さすがにその格好で歩いてたら大騒ぎになるな。私のジャージを貸したげるから、これを羽織りなさい。え?どうやって着るかわからん?あぁ、記憶喪失でそれもわからんよぉになったんか。しゃあないな。ほな着せてやろう。はい!これで良し、と。ほな行くからついといで」



(並んで歩く)

「しかし記憶喪失になった人は初めてみたが、だいぶ大変そうやな。いったいいつから記憶がないんや?覚えてる一番古いことはなんや?」

「へぇ、ちょうど今朝の事ですが、どうもうっかり3歩歩いてしもたみたいで、それより前の事を忘れてしもたんです」

「散歩してて記憶が無くなったんか?隕石でも当たったんか?しかし怪我してる風でもないしなぁ。ってどこ行くねん」

「へぇ、あの子供が豆菓子持ってるんでこぼすんやないかと思て」

「何を言うてますんや。それでこぼしたらどうする?」

「もちろん拾って食べる」

「アホな事しなさんな」

「いや、こども待ちは案外バカにできん。ほらこぼした!」

「こらこら、落ちた豆に突進するんやない!大丈夫かいなこの人は」



(ジムに着く)

「さぁ、ここが私のジムや。おぅ、今帰ったで。さあ、ちょっと休んだら、まずは医者に見てもらわなあかんなぁ」

「ここは、おやっさんの巣ですか。色んなもんがありますなぁ」

「巣てな言い方があるか。いや、ここに住んでるわけやない。ここは仕事場や。まぁええけど。ところで、身体の調子悪いとこはないか?」

「調子はエエです」

「それやったら、ちょっと体動かしてみるか?実はな、ワシはその人が体動かしてんの見ると、どんな人生送ってきたか大体わかるんや。なんか記憶を探るヒントになるかもしれん。ちょっと、この線に沿って歩いてみい」

「へぇ、(首を前後に動かしながら歩く)」

「こら、ふざけてたら分からへんがな」

「いや、別にふざけてまへん」

「ほなもっぺん歩いてみい」

「へぇ、(首を前後に動かしながら歩く)」

「それや!何やねん、その首は?」

「なんや言われましても、勝手に動きますんや」

「勝手に?なんや変わった人やな。そもそも歩き方だけやなしに立ち方もよぉないな。いっぺんピシッと立ってみ」

「こうですか?」

「そこまで胸はらんでもエエで」

「いや、これも勝手になりまんねん」

「エライ鳩胸やな」



「あれ?人間が飛んでる」

「飛んでる?あぁ、あれはトランポリンや。今月から導入したんやけどな、高こぉ跳べるんやで。なんや興味あるんか?」

「トラ……なんやよぉ分からんけど、今日はぎょおさん歩いたから、そろそろ飛びたいとこでしたんや」

「ほなやってみたらエエわ。記憶も蘇るか分からん。こっちぃおいで」

「ここでっか?うわ!なんやムニャムニャした地面ですなぁ」

「これがトランポリンや。さぁ跳んでみぃ」

「はい。いょっ!いやっ!…飛べまへんなぁ」

「いやいや、手ぇバタバタしてもあかんがな。トランポリンやから、自分で弾まなあかん」

「なんです?弾むて?」

「ちょっと説明すんの難しいけどな、そこの上で、こうボヨヨーンとすんねん」

「ボヨヨーンですか?」

「せや。ボヨヨーン、ボヨヨーン」

「ボヨヨーン、ボヨヨーン」

「口で言うてるだけではアカンがな。トランポリンなんやから、身体動かして、ちゃんと自分でジャンプせんと」

「なんです?」

「ジャンプや!ジャンプ!」

「友情!努力!勝利!」

「そら少年ジャンプや!何でそれは知ってんねん。

そういう事やなくて!改めて説明しよう思うと難しいなぁ。

ええか?トランポリンでとぼう思たら、自分で跳ねないとアカンのや!」

「ええっ!はねないとアカン!?はぁ〜、ほんならワシ、あきませんわ」

「なんでや?別にアカン事ないやろ」

「いや、あかん事になったんです。

さっき人間になったとき…


羽、なくなりましたんで」

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