第14話 マグヌスの苦しみ

 俺が元通りに回復したのは……結局、半年後だった。


やったことも悪質だったし犯行現場も帝国城だったので、裁判もなくすぐさまリヴィウスは貴族牢に閉じ込められたそうだ。で、俺が成人して跡目を継ぐまでは当主代理として成人したばかりのガイウス殿下がレーフ公爵の名代に命じられ、マグヌスが帝国城とレーフ公爵邸を行き来しながらその補佐をするそうだ。




 久しぶりに会ったマグヌスはげっそりとやつれていた。


「まさか……、まさか……でした」


まさかリヴィウスが帝国城でサリナを襲うなんて俺も思わなかった……。


「マグヌス……ごめんね」


マグヌスは首を何度も左右に振った。


「坊ちゃまは何も謝る必要はございません!サリナもそう申しております!」


「サリナは、だいじょうぶ?」


「……坊ちゃま。その……夢でご覧になった、腹違いの弟君が……」


知っている。ディーンが登場してしまうんだ。そんなに頑丈じゃない体のサリナは、堕胎に耐えられない。産むしか無いのだ。でも産んだ後も寝たきりになってしまう……。


「ディーンが……」




 だが決定的に違っていることがある。


「そう……カインは夢で弟の名前を知っていたのね……」


デボラはサリナとディーンに対して同情的で、怒りと恨みの矛先は全部リヴィウスに向かっている。


「まさか帝国城でサリナ共々襲うなんて……どこまで恥知らずで卑劣な男なの……!」


リヴィウスは貴族だから魔法が使える。しかも扱えるのは強大な闇魔法だ。だから平民出身の普通の衛兵では止められないのは分かっていた。それでサリナは、近衛騎士が駆けつけるまで……。


少し黙ってから、デボラはマグヌスに告げた。いたわるような、優しい声で。


「マグヌス。サリナが子を産んだら私が責任を以て養育します。もし……もしマグヌスが今でもサリナを愛しているのだったら、その後で……」


「分からないのです……」マグヌスは歯を食いしばった。目が真っ赤だった。「今は、分からないのです……!」


俺は……何も言えなかった。とても沈痛な顔をして、デボラはマグヌスにハンカチを渡した。


「分かりましたわ。……マグヌスの判断を尊重します」

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