第2話 冷静に現状を確認

 ヨーロッパ……なのか?詳しくは良く分からないが、調度品を見る限り欧州の貴族の家のようだ。俺は天蓋付きのベッドに寝ていた。窓の外には綺麗な芝生の生えた広大な庭園がある。俺は起き上がって、そこで違和感に気付いた。


視点が低い!?


死んだ時には成人していた俺は、身長は180以上はあったはずなんだ。だからこんなに低い位置で物を見ているなんておかしい。咄嗟に俺の手を見たら、ぷくぷくとした子供の手だった。


何だこれは。


悪趣味な人体実験で脳だけ移植されたのか?


俺は困惑しながらベッドから下りると、部屋の隅に置かれていた姿見に近づいた。


鏡に映ったのは、漆黒の瞳と髪の毛の少年だった。


どこかで見たことがあるぞ……?


俺は記憶を朧気に探っていたが、そよ風でカーテンが揺れた時にようやく気付いた。


――カイン・コンスタンティンの幼少期か!?




 まだ家族が無事で、俺が不良になる前だった。


弟が愛読していた異世界系小説の登場人物で、主人公達を虐げまくる最大の黒幕だ。


その生い立ちは不幸そのもので、皇族に連なる血を引く名門の嫡子として生まれたのに父親であるレーフ公爵の浮気癖が原因で母親デボラが心を病んでしまい、彼女から壮絶な虐待を受けて人格が歪むのだ。それもあって異母弟である主人公ディーンを骨の髄から憎み、主人公の母親サリナを自殺させるわ初恋の人ヴァリアンナは娼館に落とすわ、ありとあらゆる迫害・差別・犯罪行為をしまくって、それを邪魔する者はたとえ皇族であろうと容赦なく敵と見なして暗殺か事故死に見せかけて殺し、最終的には『在庫一掃セール』と揶揄されたほど登場人物の9割以上を殺して、最期に主人公一人を残して目の前で思う存分に嗤いながら自殺したんだっけ……。


俺がどうして詳しいかと言うと、弟が『新刊の展開はこうだった!』『何か展開が……酷くなってきた』『在庫一掃セールって叩かれている……』『主人公以外死んじゃった……マジ……?』と落ち込みながら一々俺に報告してきたからだ。挿絵も(最初の方だけは)自慢そうに見せつけられた。




それにしても……どうしてこの物語の世界の中に俺がいるんだ?


何かの実写化か、ドッキリか、死ぬ前に夢を見ているのか?




……ただ、ここが何であれ、誰が何の目的で俺をこうしたのであれ、俺はもう悲劇は嫌だった。


もう誰かを失って孤独の苦しみと悲しさを味わうのだけは、ごめんだったから。

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