第85話 フェイダンには抗えない
まったく、またブレアと戦うはめになるとはな……。ブレアがここまで戦闘狂になるとは思わなかったぜ。
恨むぜ、ドラゴニル。
俺は内心ドラゴニルへの恨み節を呟きながら、ブレアに対して集中を向ける。
さすがドラゴニルと同じドラゴンの力を扱えるようになっただけあって、体からあふれ出るオーラが半端ない。付き合いは長いが、ここまで気圧されるとは思ってもみなかったぜ。
だがな、俺はブレアに負けるつもりはないぜ。ブレアに勝てないようじゃ、ドラゴニルをぶん殴るなんてできねえからな!
「では、参りますわよ、アリスさん」
そう発言したブレア。その次の瞬間、ブレアの姿が見えなくなる。
「き、消えた?!」
セリスが驚いて声を上げている。
それと同時に木剣の乾いた音が響き渡る。
「さすがアリスさんですわ。これを受け止められるなんて」
「甘く見ないで下さいね、ブレアさん。私とて、お父様、ドラゴニル・フェイダンの指導を受けた者なのですから」
木剣をぶつけ合ったまま、俺とブレアは睨み合っている。だが、その顔はとても楽しそうに笑っていた。
「信じられないわね。あんな動きをしておきながら笑っているわ」
「本当ね。あたしも追うので精一杯だもの」
俺たちの顔を見たセリスとブレアはそれぞれに反応している。セリスはまったく反応できていないが、ソニアは動きはなんとか見えるらしい。
とはいえ、今の俺にはそんな言葉に反応する余裕はないんだがな。ブレアの奴、ぐいぐいと力を入れてくるものだから、ちょっとずつ俺が押され始めてるんだよ。まったく、こう言っちゃなんだが、ブレアも大した馬鹿力の持ち主だよ!
「どうしましたの、アリスさん。まさかこれで終わりとは言いませんわよね?」
ブレアがぐいぐいと押してくる。さすがの俺もこの押しには耐えるのが精一杯だった。耐えながらよく見てみると、ブレアの目が赤く光っている。
(なるほど、ドラゴンの力が発動してるってわけか……)
ブレアの目はそもそも赤いのだが、瞳だけではなく目全体が赤くなっているので光っていると認識できるってわけだ。
っと、そんな事を思っている場合じゃねえ。このままだとブレアに一方的にやられちまうからな。
「だああっ!!」
俺は力を籠めて木剣を押し返す。もちろん、ただ力を籠めただけじゃブレアの今の力には敵わない。あまりやりたくはないが、魔物を滅するという俺だけの力を使わない事には、この状況はひっくり返せないだろう。
俺が押し返す木剣をブレアは押し返して押さえようとしてくる。だが、俺が少しずつ力を解放しているので、ブレアは剣を押し込めなくなり始めていた。
「くっ、アリスさん。力を使ってなかったのですね?」
急に押し込まれ始めて驚くブレア。そこまで驚かれるとは思ってなかったが、俺は無駄に力使いたくなかっただけなんだよ。
「そうこなくては面白くありませんわ。さあ、派手に打ち合いましょう!」
ブレアの瞳孔が開いていく。まったく、以前のお淑やかなブレアはどこ行ったんだよ!
ここからの戦いはさっきまでとは一変して激しい打ち合いになる。あちこちから木剣で打ち合っているとは思えない音が響き渡ってくる。
この戦いの凄まじさは一目瞭然で、木剣を取りに行っていたピエルとマクスの二人も、その光景にただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
とはいっても、おそらく俺たちの姿をまともに捉えられている奴は居ないだろう。どこからともなく木剣がぶつかり合う音が響き渡っているので、それによってなんとなく分かるという程度だと思う。
それにしても、ブレアの顔を見てやれやれだと思うぜ。
俺の顔は対応への必死さにあふれているっていうのに、ブレアの方は楽しそうに笑ってやがるんだもんな。ドラゴニルの戦闘狂教育が功を奏してるってわけだ。
……こっちはたまったもんじゃねえけどな。
「……次元が違い過ぎますね」
「ええ、まったくだわ」
セリスとソニアもこんな状態だった。
「ふふっ、もっとすごいところを見せてほしいのですわ」
「まったく、ブレアってそんな方でしたっけ?」
「なんというか、血が騒ぐのですわ!」
俺の疑問に、ブレアははっきり言っていた。なるほど、ドラゴンの血のせいってわけか。本当に厄介な血筋だな、フェイダン公爵家ってのは。
だが、いつまでもこうやって打ち合っているわけにもいかない。じゃないと他の連中が訓練できないからな。
そう考えた俺は、木剣を持つ手にさらに力を籠めていく。さっさと決着をつけるために。
「ブレアさん、あなたに負けるわけには参りません。この一撃で決めます!」
俺は、一度ブレアから距離を取る。
当然ながら、ブレアは俺を追って突っ込んできた。
……この瞬間を待ってたんだよ。
「はああっ!!」
俺はその場を動く事なく、突っ込んでくるブレアに対して攻撃を仕掛ける。
次の瞬間、俺たちの持つ木剣はぶつかり合う衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散ってしまっていた。
……結局こういう決着になるのかよ。
俺とブレアは、しばらくその場に立ち尽くしていたのだった。
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