モンブランの悪魔2
SideY
人混みに紛れて校舎へなだれ込むと、一気に懐かしさが押し寄せてきた。
ここ最近、何度も腰高には訪れていた時には感じなかったのに、今日に限ってそう感じるのはなんでだろう?
いつもの昇降口から入場したから?
賑やかな雰囲気に絆されたから?
少し考えてみたけど、理由はわからなかった。
周りの人々は在校生の父兄や、他所の高校生がほとんどを占めているように見える。
これはあくまで私の主観だから、実際の所はわからない。けれど、汐音のあては外れたようね。
ビラを配って噂を流したくらいじゃ人は集められない。陽動する事はできないみたい。
……少し残念ね。
階段を昇り、汐音達との待ち合わせ場所へ向かっていく途中に何人かの在校生に話しかけられた。
面識のある、三年生の生徒だ。
みんなクラスTシャツなんか着ちゃったりして、つい一年前に自分もそこにいたはずなのに、羨ましい気持ちになった。
在校時の三年間。汐音達と四人で一緒のクラスになれた事は一度も無かった。
三人はいつも一緒で羨ましかったな。
私は私で楽しめてはいたけれど、私の居場所には、そこに三人はいなかった。そのせいか、三人と過ごしている時今だに疎外感を感じる事があったりもする。……誰にも話したことはないけど。
「さてと……」
嫌な気持ちを置き去りにして階段を昇る。最上階にたどり着き、里奈ちゃんのクラスを目指した。
だけど……
「あれ?変ね」
たどり着いたクラスの中はもぬけの殻だった。汐音達とは、里奈ちゃんのクラスで落ち合おうと言う話になっていたのに。
出入り口の所に張り紙がしてあって、それをよくよく読んでみると、演劇は体育館で行われるらしかった。
それもそうよね。演劇を披露するにしては教室は狭すぎる。
なんせ、当初はドローンを飛ばそうとしていた位なのだから。教室であんな物を飛ばしたら間違いなく大惨事になる。
なんとか私の説得により、ドローンを飛ばす事は回避させる事ができた。
何度も口酸っぱく注意を重ねたから、汐音の耳にはきっとタコができているに違いない。
「フッ」
汐音の耳にタコができている所を想像して一人、鼻で笑う。
私が想像したのは繰り返す事により皮膚が厚くなる『タコ』ではなく、海で取れる生き物の『タコ』の方だった。
鉄板に挟んで焼いたら、『キュー』っと悲鳴のようなものをあげて、タコ煎餅になるのかしら?なんて、少しサイコパスめいた事を想像して我にかえる。
いけないわ。邪推ではないものの、また一人の世界に入り込んでしまっていた。これも良くないクセね。
そして、手に持った紙袋の中の差し入れの存在を思い出して、途方にくれる。
生物だし、すぐに食べてもらう予定だったのだけれど、どうすれば良いのかしら?
冷やしておかないとすぐに悪くなってしまうわ。
上映までの残り時間は三十分を切っている。
今更、舞台袖に持っていったところで迷惑がられるに違いないわよね。
「ダメもとで保存のお願いをしてみようかしら……でも━━━━」
腰高祭の当日は食堂は開いていないし。
職員室……も忙しいだろうし、三十人数人分のモンブランを保存できるほど大きい冷蔵庫はない……わよね。
「あっ、そうだわ!」
一つ妙案が浮かんだ。
「あの人に頼んでみましょうか」
迷惑をかけられた事がある彼だ。多少なりとも私には負い目を感じているはず……
貸しを返して貰うには、きっと良い機会になるはずだ。
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