第6話 捕まるシンデレラ

 サリティア王国の左端にある街ノーゼを出てから、4日経った日の夕方頃。ティティアーナはヴィリーゼ国へと繋がる国境の境にある橋の前に辿り着いた。

 サリティア王国と隣国であるヴィリーゼ国を繋ぐ大きな橋の前には二人の警備兵が立っており、何故かティティアーナのことをじっと見ている。

 ティティアーナは警備兵からの視線を気にしながらも、橋を渡ろうと歩き出そうとしたが二人の警備兵に腕を掴まれてしまう。


「ティティアーナ殿ですか?」

「もしそうなら、この橋は渡らせることはできません」


 二人の警備兵の男は厳しい顔つきでティティアーナの両腕を掴みながら告げる。

 ティティアーナは警備兵の言葉を聞いてバルド王子殿下に私が国外へ逃亡しようとしていることが気付かれたのだと悟る。


「私はティティアーナではないわ。人違いじゃないかしら?」


 ティティアーナが何とかこの場を切り抜けようと嘘をつくと、ティティアーナの背後から聞いたことのある声がする。


「嘘はよくないですね。ティティアーナ譲」


 ティティアーナが振り返ると、そこにはティティアーナが国外逃亡をすることを決めた動機となる人物がいた。

 ティティアーナはバルドの勝ち誇ったのような顔を見てため息をつき、警備兵である男二人に「逃げないから腕を離してほしい」と懇願する。警備兵二人は顔を見合わせ頷いてから掴んでいたティティアーナの腕をそっと離す。


「ありがとう。はぁ…… 逃亡は失敗に終わったわね。バルド王子殿下、どうしてわかったのですか? 私が国外逃亡しようとしているって」

「どうしてわかったのか?か。俺の優秀な騎士の推測のおかけでティティアーナ譲の向かう場所に見当がついた」


 バルドはそう言い終わるなり白馬から降りる。バルドが白馬から降りたのと同時に、バルドの左側におり、茶色の馬に乗っていたバルドの近衞騎士であろうエドルも馬の上から降りて、バルドの横に立つ。


「初めまして、ティティアーナ譲。殿下の近衞騎士のエドルと申します。あの舞踏会の日の夜、遠貴方が殿下の足を踏みつける所を遠目で見ていました」

「そうなのですね」


 ティティアーナはバルドが言っていた優秀な騎士とはこのエドルという人物なのだろうか?と思いながらエドルを見る。


「ティティアーナ譲、俺は貴方を妻にすることに決めました」


 バルドは真剣な顔で目の前にいるティティアーナに自分の気持ちを伝える。しかし、ティティアーナは首を横に振り答える。


「ごめんなさい。私はバルド王子殿下の妻にはなれませんし、帰るつもりもありません!」


 ティティアーナはバルドの瞳を真っ直ぐ見据えて断るが、バルドは何故か余裕の笑みを浮かべていた。


「そうですか。では、強制的に連れて帰ります」

「えっ……? それはどういう……? きゃっ!?」

 

 バルドはティティアーナの腕を強く掴み引っ張るように白馬の前まで連れて行き、強引に白馬に乗せる。そして自分も白馬に跨るように乗り、近衞騎士であるエドルに告げる。


「エドル、お前はティティアーナ譲の母親にティティアーナ譲が見つかったことと俺の妻にすることを先に伝えに行ってくれ」

「はい、承知致しました」


 エドルはバルドに返事を返して馬に跨り、走り去って行く。バルドはティティアーナと共に遠去かるエドルの姿を見送ってから動き始める。


「ティティアーナ譲、もう逃しませんよ」

「嫌だわ! こんな結末、私は望んでなんかいないのよ!!」

 

 ティティアーナは白馬の上に乗りながら、ジタバタと暴れようとするが、バルドがティティアーナに「暴れると落ちますよ?」と言ったことによりティティアーナは大人しくなる。

 そんなティティアーナにバルドはくすくすと笑う。ティティアーナは手綱を握りながら背後で笑うバルドに聞こえないぐらいの声で「仕方ないから妻になってあげるわよ」と呟いたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る