第9話 これから

 ルヴァンが処刑された後、リヴィアスは生きているのかさえもわからない実の妹であり、ヴァルローゼ国の第一王女であったシェラに、第一王子であるヴァリアントを殺したのはシェラではないということを伝える為に、あの日の出来事の真相を他国に渡る新聞会社に売りつけた。


「シェラ、大変だ!? これを見てくれ!」


 新聞を取りに行っていたアディが、慌てて、家の中に入って来たのを見て、シェラは問い掛ける。


「そんなに慌てて、朝からどうしたの?」

「この新聞記事に第一王子であるヴァリアント王子を殺したのはシェラではなくて、シェラの騎士であったルヴァンという男だということが書いてあるんだ」

「えっ……?」


シェラはアディの言葉に思わず目を見開き、アディが持ってきた新聞を受け取り、記事に目を通す。記事にはアディが言っていた通りのことが書かれていた。


「ルヴァンが、処刑された……」

「そうみたいだね」

「ルヴァンは、ヴァリアント王子殿下を殺した。けれど、私の騎士の一人でもあったのよ……」


 そう言ったシェラの声は少し震えていた。自分に罪をなすりつけ、第一王子であるヴァリアントを殺した相手であっても、シェラのたった一人の騎士であったのだ。内心は複雑な感情が入り乱れているのだろう。


「シェラ、もしかしたら、これはリヴィアス王子殿下が、シェラの為にやったことかもしれない」

「どういうこと……?」

「リヴィアス王子殿下は、シェラが生きているのかわからないから、こうして公に出すことで、生きていたのなら、シェラに伝わる。そう思ってした彼なりの行動なんじゃないかな」


 リヴィアスは私を捕まえて殺そうとした。私が犯人だと信じ込み、私はあの日、城から逃亡したのだ。


「でも、彼は…… 私を捕まえて殺そうとした」

「ああ、そうだね。だけど、シェラ、過去と今は違う。君は王女だ。いずれは自国に帰らなければならなかっただろう?」

「そうね。その時がきたら帰らなければならないということは、わかってはいたわ。でも、こんな形で帰ることになるなんて」


 シェラは己の騎士であったルヴァンのことを恨んではいなかった。ただ、ルヴァンが自分の目の前でヴァリアント王子殿下を殺したこと。自分シェラの騎士であった彼が、人を殺めたことが、悲しかったのだ。

 

「シェラ、帰ろう。君の本当に帰らなければいけない場所へ」

「そうね……」



 その後、シェラはアディと共に母国であるヴァルローゼ国へ、数年振りに帰ることに。

 ヴァルローゼ国行きの船の中で、甲板の上から見える青色の水面を見つめながら、シェラは呟く。


「あの日、もし、城から逃げ出すことが出来ずに捕まっていたら、私はアディ。貴方と出会えていなかったかもしれないわね」

「そうだね。シェラと出会っていなかったら、俺が過去に何度も戻ることもなかった」


 アルディーア帝国でアディと共に生活した二年間は、毎日がとても色付いていた。けれど、いつか終わりがくると、シェラとアディはお互いにわかっていた。


「アディ、私が王女として元の生活に戻っても、貴方には側に居て欲しい。だから、一つお願いを聞いてくれるかしら?」

「うん、シェラのお願いなら、何でも聞くよ!」

「アディ、私の本当の騎士になってほしいの」


 シェラの澄んだ声は、夏の暖かな空気に溶け込み消えていく。シェラの隣にいるアディは、シェラの言葉に少し驚いた顔をするが、優しい笑みを浮かべて頷く。


「うん、なるよ。これからも俺はシェラを守る」

「ありがとう。アディ」


 シェラとアディが乗る船は、青色の海面を進み行き、ゆっくりとヴァルローゼ国へと近付いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る