シミーの悪意
久保田愉也
第1話
わたしは35歳の誕生日を迎えた。
ここまでけっして簡単な人生ではなかった。
幾多の苦難を乗り越えてきたのだ。
自分を誉めてやりたい。
去年の夏は、炎天下のなか滝のような汗をかきながら土方の仕事をした。
あれはえらかった。
体に堪えた。
ふと見たら、テレビで美白化粧品の宣伝をしている。
なんでも、女性の35歳は、お肌の曲がり角だというのだ。
35歳前後から、顔の目の下のゾーンに肝斑というものができやすくなるのだという。
女性ホルモンと関わっているそうだ。
わたしには関係ないだろう、そう言いつつも鏡を覗き込んだ。
驚いた。
くっきりとしたシミができている。
これはと思い、美白化粧品を買った。
それから数日後、化粧品が届いたので、すぐさまグイグイと力強く塗り込んだ。
それがイケなかったのだ。
一ヶ月後、肌の生まれ変わりのサイクルでそろそろ化粧品の使用による変化が起こるはずだと思っていた。
だが、わたしの顔にはくっきりとしたシミが存在感を放っていた。
後で知ったのだが、化粧品はグイグイと力強く塗り込むべきではない。
この化粧品の説明書には、やさしくのせるように馴染ませると書いてあった。
何だか分かりにくい表現をする。
そう思い、鏡のなかの顔のシミを覗き込んだ時だった。
「ハーイ、ボクはシミーだに!これからよろしく」
シミがそう名乗って、笑いかけてきた。
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