第46話 仲間との再会

「どうにか戻って来れたな~」



 剣士の口から、感慨深くも漏れ出した言葉だ。


 ほんの一週間前の出来事だが、今剣士の目の前にある店から、試練は始まったと言える。


 店の前でパーティーを解散し、三人の仲間と別れて、試練の聖域へと向かった。


 それがようやくにして戻ってきたと言うわけだ。


 と言っても、手に入れたのは解読不可能な石板であり、それを担いで行く様は街道を行き交う人々から奇異の目を向けられたものだ。


 しかし、気にはしなかった。


 これさえ解読できれば、また面白い発見ができるかもしれない。


 なにしろ、元・勇者とその相方が残した石板だ。


 読み解く価値はあると思い、それだけに担いで運ぶのも苦にはならなかった。


 そして、店の中へと意外な光景が、剣士を待ち構えていた。


 それは“解散したはずの仲間達”が店の中にいた事だ。



「あ、お帰り~。どうにか生きて帰ってこれたわね!」



 威勢のいい声は幼馴染みの武闘家の女の子が発したものだ。


 他の仲間、神官と魔術師も同じ円卓を囲んで座っており、手を振って無事の帰還を示していた。



「なんでお前らがここにいんだよ。集合は一ヵ月後だぜ?」



「まあ、そうなんじゃがな。こやつがな、『どうせ一週間もしない内に戻ってくるから、このまま待っておこう』ってな具合でな。結局、ここに居座ったのじゃ」



 魔術師の説明で合点がいった。


 時間がかかるからと、この店に一か月後に集合と言っていたのだが、すぐに戻って来ると踏んだ武闘家がこのまま居座り、他の二人もそれに倣ったというわけだ。


 なんやかんやで信頼されてはいるのだなと感じ入り、剣士もまた仲間達の輪に加わった。



「それで、どうでした、試練の方は?」



 神官のいつもの優しい微笑で質問を投げかけてきた。


 それに対する答えは、一つしかない。



「落第した!」



 剣士はズバッと、それでいて胸を張って言い切った。


 なお、結果を見れば、なぜそんな堂々としていられるのか、他の三人には分からなかったが。



「落第した割には、ぜんぜん堪えてないみたいだけどさ、なんかあったの?」



「まあ、再試験は認めてもらえたからな。鍛え直して、再度挑戦するさ」



「あぁ~、なるほどね。失敗はしたけど、無駄足ではなったってことね」



「そういうことだ」



 それを聞いて、武闘家は安堵した。


 目の前の幼馴染みの剣士は強い。だからこそ一人で危険な試練を受ける事を認め、送り出したのだ。


 それが勇者じゃないとなると、それはそれで自分自身がショックであったが、再度の挑戦が認められたのであればそれでよかった。


 研鑽を積めばいい。自分もそれに付き合おう。


 実に単純な事であった。



「あ、そうだ。これこれ。聖域の管理者から、こいつを渡されたんだが、全然読めなくてな。これ、読めるか?」



 剣士はそう言って、持ち帰った石板を震撼と魔術師に見せた。


 確かに、普段使いされているような共通語コモンズではなく、かなり古い言語である事は即座に分かった。


 魔術師はジッとそれを見つめ、首を傾げた。



「う~ん、こいつは古典森巫覡文字エンシェント・ドルイディアじゃぞ。これを読める者なんぞ、まずいない」



「なんだ、幾百年生きたあんたでも、これは読めないのか!?」



「う~ん、一部を辛うじて読める程度じゃ。古典に詳しい森巫覡ドルイドでも探してみるものじゃな」



 そう言われて、剣士はニヤリと笑ってしまった。


 なにしろ、これを用意した『光の盾』がそれに該当するからだ。


 わざわざ難解な文字を書き記し、それを差し出してくるなど、どうにも“良い性格”をしていると言わざるを得ない。


 解読してみせろ、と新たな課題を出してきたようなものだ。



「んで、その読めた一部ってのはなんだ?」



「なぁ~に、くだらぬ戯言よ」



 エルフ特有の尖った耳をピクピクさせて、魔術師はその解読した一部を口にした。



「笑う門には福来る、じゃ」



「なにそれ!?」



 思わず声を上げたのは武闘家だった。


 何やら凄い文言でも刻み込まれていたかと思いきや、どうでもいい内容の言葉。


 訳の分からない文字を使ってまで書き記す意味があったのかと、首を傾げた。


 神官もそれは同感であったらしく、訝しんで石板を凝視していた。



「それだけでは意味が分かりませんね。解読できない箇所に、何か深い意味があるのかもしれません」



「そうじゃとしても、読めんもんは読めん」



 魔術師はコツンコツンと杖で石板を叩いた。


 そして、読めないから興味が失せたのか、天井を剥いて大あくびをする始末だ。


 だが、剣士は違った。


 その石板を眺めながらも、大声で笑いだしたのだ。



「ぐはは! あンの二人め! 適当ぶっこいてんじゃね~よ! 勿体ぶっておいて、これかよ!」



 店の中に剣士の笑い声が響き渡り、周囲の客や店員からも視線を浴びた。


 それでもなお、剣士はお構いなしに笑い続けるのであった。

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