5. 事態急変 | side:クラスメイトⅠ
「ほらほらほらぁぁぁあああ!!!!休むな!!そんなんで魔王を倒せるとでも思っているのかい!?次は素振り五百回だ。僕は一旦出ていくから、サボるんじゃないよ?」
「はぁ…」
俺がフォーミュラの隠れ家での生活を開始してから三週間が経過しようとしていた。
その三週間、隠れ家から俺の悲鳴は絶えなかった。
中学から生粋の帰宅部だった俺にとって、何時間も運動に費やすことはただの苦痛でしか無く、それに加えてフォーミュラからの怒声も精神をえぐる。
ここに着いて直ぐに見た心優しい少年はどこに行ってしまったのだ、と全身の痛みに耐えながら枕を濡らす日々を送っていた。
しかしこの隠れ家での生活は悪いことばかりではない。
隠れ家にはなんと風呂や家庭菜園が備わっていたのだ。
最初は日光も無い洞窟内で野菜が作れるのかと疑義の念を抱いたものだが、異世界にはどうやら光が無くても育つ野菜や、発熱する鉱石、そして太陽に似た光を放つ鉱石まであるらしく、迷宮内がやけに明るいのもその鉱石のおかげなんだとか。
おかげで美味しいご飯は食べられるし、夜にはしっかりと休息が取れる。
スパルタ剣術訓練さえ無ければもうここに永久的に住み着きたいとまで考える程だが、そうもいかない。
レヴィオンを倒すことを心に誓ったのだ。
実は三週間もこの生活を続けてみて、少々楽しくなってきたところだった。
別に痛みつけられることに快感を覚えるといったわけでは無い。
今まで己を律することなく自堕落に生活し、目標もなくダラダラと過ごしてきた自分に終止符を打つ良いきっかけなのではないかと考えたのだ。
「4998…4999…5000…!!」
素振り開始からおよそ八十分後、五千回目の素振りが終わる。素振り開始初日は二時間以上もかかっていた五千回が八十分まで短縮できた事に感慨を覚えた。
「よし…今日のトレーニングは大体終了だな」
体術に剣術、基礎的な筋トレや素振り。三週間も続けてきて大体様になってきた気がする。
実はこの世界に来てから…いや、ヴァルムを葬った時から少し体の調子が良い。
体の状態が常に本番前のアップを終えたランナーかの様に軽いのだ。今からフルマラソンを走りきれそうな程に。
もちろんトレーニングを始めた当初は筋肉痛なんかに悩まされたが、今では痛みひとつない健康体そのものだ。その事についてフォーミュラに問うと、それはレベルが上昇したからだと説明された。
現在俺のレベルは五。それは冒険者でいうD~Cランクに値するらしい。
なんでもレベルが四で止まる場合が多く、五になるには何か条件がいると考えられているとか。
俺のレベルは既に五なのでその条件とやらをクリアしたことになるのだろうが、正直心当たりはヴァルムを殺したことしかない。
トレーニング終了後の楽しみは風呂である。
そこそこ大きな風呂に、きちんと脱衣所まである。
まさか異世界に来てこんなに早く風呂に入れるとは思ってもいなかった。
この隠れ家がここまで大きいのは、フォーミュラが四百年もの間たった一人でDIYと改築を繰り返した結果なのだそうだ。
トレーニングにより汗ばんだフォーミュラお手製の道着を脱いで、上裸の状態で鼻歌を歌いながら脱衣所へ向かう。
それにしても俺はこの三週間でどれだけ強くなったのだろうか。
実戦してみたい気持ちはあったが、ここにはフォーミュラしかいない。
手合わせしたいものだが、オーラ移動の訓練や素振り、筋トレなどで時間を費やされ手合わせする時間は無い。
そろそろ大迷宮に行ってみてもいいんじゃないかな~。
そんなことを考えながら脱衣所の扉に手をかけ、一気に開け放つ。
鼻の奥を脱衣所特有の柔らかな石鹸の匂いが燻り、心地よい感覚が訓練終わりの身体を駆け抜ける。
だが──それと同時に目に映ったのは、「ワ、ワタル!?」と叫ぶ、一糸纏わないフォーミュラの姿だった。
「ご、ごめん!!」
俺はとっさに謝罪の言葉を叫び、すぐさま脱衣所の扉を閉め、一息つく。
そしてあることを疑問に思った。
フォーミュラって自分のこと男って言ってたよな…?付いてなかったような…?
今となっては確かめる術はないが、この日から俺のトレーニングが一層キツくなったのは言うまでも無い。
※
「次、素振り一万回」
「はい」
脱衣所事件から早二週間が経過した。あれ以来フォーミュラの俺に対する風当たりは冷たいままであるが、教わるべきことはしっかり教わっている。
「…9998、9999、10000!」
今俺が終えた素振りはただの素振りでは無い。
フォーミュラが考案したオーラ移動の訓練も兼ねた素振りだ。
素振りのカウントごとに腕や脇腹といったようにオーラの位置を瞬時に変えていくのだ。
これを二週間続けた結果、かなりの精度と速さでオーラを移動できるようになってきた。
「終わったぞ~、次は実戦だよな?」
素振りとオーラ移動の訓練を同時に行う事により、時間の空きが少しできた。
それにより空いた時間を実際にフォーミュラと対峙する実戦形式の剣術訓練に当てることになった。
しかし次の訓練を促す俺とは裏腹に、フォーミュラからの反応はない。
何時もなら休むのは許さんとばかりに棍棒を振り回すはずなのに。
疑問に思ってフォーミュラの方を見ると、フォーミュラは右手で両目を覆うようにしていた。
これはフォーミュラが自身の
最近フォーミュラは千里眼で見れる対象を増やしたようで、頻繁にこの姿を見る。
「ばかな、早すぎる…」
呻くように呟くフォーミュラ。
その顔には焦りの様な表情が滲んでいた。
「早すぎるってのは俺の素振りが終わる速度がってことか?まあこれでも伊達に一ヶ月続けてきたわけじゃ……」
「少し黙ってて」
「はい」
俺の言葉を容赦ないフォーミュラの言葉が両断する。
しかしフォーミュラは何を深刻に見ているというのか。
フォーミュラはこれまでも度々千里眼に意識を沈めることはあったのだが、ここまで集中しているところを見るのは初めてだ。
暫くするとフォーミュラは立ち上がり、大きく息を吐いた。
そしてそのまま背伸びをして俺の両肩を掴み、何か覚悟を決めたと言わんばかりに真剣な眼差しで見つめてきた。
「ごめん。大変な事になった。君には今からゼレス大迷宮に向かってもらう」
「今からか?でも剣術の訓練が…」
計画ではゼレス大迷宮に行くのはもう少し剣術や体術を会得してからのはずだった。
それなのに突然真剣な眼差しで計画の変更を伝えてきたフォーミュラに、疑問を抱かずにはいられない。
「君にはもう人並みの冒険者くらいの剣術や体術をたたき込んだ。
明らかにおかしい。さっきまで『ダメダメだ』だの『そんなんじゃ雑魚魔物にすら勝てない』などの罵詈雑言を浴びせてきていたはずなのに。
急に優しい口調になったフォーミュラに、少し不気味ささえ覚える。
「いや、でも…どうしてなんだ?理由をちゃんと教えてくれ」
「理由…そうだね。あっちの部屋で話そうか」
あっちの部屋とは、到着初日に色々説明を聞いた部屋の事である。
シンプルな机と椅子のみが置かれたあの部屋は、集中したり何か重要な事を話したりする時にぴったりなのだ。
「それで、俺になんで今ゼレス大迷宮に行って欲しいんだ?」
汗を拭き、訓練用の道着から動きやすい服へと着替えながらフォーミュラに問う。
ちなみに今俺が着ている服は先に述べた道着を含め全てフォーミュラのお手製であり、着心地は中々良い。
制服だと外の世界に出た時に目立つ。
なお、俺がこの世界に来る際に来ていた制服はちゃんとしまってある。言わば唯一の日本への手がかりというか形見だからだ。
しばらく経って、フォーミュラは口を開いた。
「今この世界には、ベルフェリオ復活について記された七枚の石版が散らばっている。その一つがゼレス大迷宮の最下層にあるんだ。それをレヴィオンが手に入れるのを阻止してもらいたいんだよ」
石版とは初めて聞く話だ。
それにレヴィオンがその迷宮にある石版とやらを狙ってるのだとしたら……
「つまり今からレヴィオンと戦ってこいってことか?」
俺は最初にレヴィオンと対峙した日の事を思い出した。
一ヶ月に及んで肉体を強化した今であっても、あの化け物に勝てるヴィジョンは全く見えない。
「いや…おそらくレヴィオンは直々に
「現魔王を殺す?魔王はずっとレヴィオンだったんじゃないのか?」
「いや違うよ。レヴィオンは四百年も前に封印された
俺はそれを聞いて、ヴァルムがレヴィオンのことを確かに二十三代目と言っていたこと思い出した。
「……それにしても、なんで魔王同士で殺し合うなんて事してんだ?」
魔王ともなればかなり強力な
魔族側にとってかなり強大な戦力なはずなのに。
「何も魔族全員がベルフェリオ復活を目論んでるわけじゃないんだ。第二十七代目魔王はベルフェリオ復活には消極的だった。理由は知らないけどね」
「なるほど…レヴィオンはベルフェリオを復活させたい側。それを阻止しようとする勢力は同じ種族であろうと容赦ないってことか…」
本当にレヴィオンは、封印解放直後で力が弱まっているのか?
現魔王ですら倒せない様な存在を、本当に俺なんかが倒せるのか?
ヴァルム、フォーミュラは誤算のし過ぎじゃないか?
疑問が渦巻き、不安は増すばかりだが…やらなければならないのか?
「それで…さっきベルフェリオ復活を阻止したい魔族から動きがあった。どうやら遂に
「鍵?」
「鍵っていうのは、石板の封印を解くためのものだよ」
「…その鍵とやらを入手したのはベルフェリオ復活を阻止したい側の魔族なんだよな。じゃあ別に俺が行かなくても良いんじゃないか?」
「うーん、そうだね。でもレヴィオン側もその魔族が鍵を入手したことは知っているんだ。つまりレヴィオン側は今、迷宮に刺客を送り込もうとしてる。それで鍵を手に入れた魔族をワタルに支援してもらいたいんだ」
「なるほど、でも逆に俺がその魔族の足手纏いになるかもしれないぞ?訓練もまだ中途半端だし……」
「つべこべ言わずに行って欲しい。早くこの場から離れて…いや、ゼレス大迷宮に行ってもらわないと困るんだ」
どうにも腑に落ちないが、フォーミュラの強い口調に押されて何も言えなくなった。
「レヴィオン側の魔族は今から迷宮を一から攻略し始める。時間の猶予はあるはずだけど、早く行くに越したことはないよ」
「一からか。なんか迷宮を瞬時に攻略する手段はないのか?床をぶっ壊すとか」
正直あの魔王の手下たちのことだ。何か常識破りな手で迷宮を攻略してくると思えて仕方ない。
「それは絶対に無い。迷宮の壁や床はどんなに攻撃しても壊れないんだ。表面は普通の岩で崩れたりするんだけどね。多分壁と壁の間、そして層と層の間には絶対に壊れない謎の物質が存在してるんだと思うよ」
「そうなのか。でも不安だな…」
「そう思うのもわかるよ。でもヴァルムに約束したんだろ。レヴィオンを倒すって。レヴィオン以外の魔族にてこずってる様じゃレヴィオンを倒すなんて夢のまた夢だよ」
「わかってる。行かないなんて選択はしない。でもその前にシャワーでも浴びてこうかな」
「ごめん、そんなに時間は無いんだ…今すぐ行ってもらわないと間に合わない」
「そうか。まぁ大丈夫だ」
フォーミュラの言い振りからして何日もかかるような事では無いんだろう。別に我慢できないほどでも無い。
ゼレス大迷宮への入り口は以前フォーミュラから聞いているのですぐにたどり着けるはずだし。
それにしてもシャワーを浴びるほどの猶予もないことなのだろうか?
「気をつけて!頼んだよ」
多少の準備をしてから、隠れ家の唯一の出入り口である重厚な扉を開き外へ出る。
数日ぶりに太陽の光を迎えようとしたがそれは出来なかった。ここは奈落の底であり、ほぼ正午の時間帯でないと太陽は見られないからだ。
後ろを振り向くとフォーミュラが手を振っている。
それを見ているとなんだが二度とフォーミュラと会えない気がして…少し立ち止まった。
大丈夫、今回は魔王レヴィオンと戦うわけではない。
フォーミュラにもまたすぐ会える。
一ヶ月も特訓したことで
そう胸に言い聞かせて決意を新たにした。
「じゃあ行ってくるよ」
扉を閉めながらフォーミュラへ告げる。閉じる際に俺が見たフォーミュラは、少し切なげに微笑んでいた。
※
ワタルが隠れ家からゼレス大迷宮に向かったその後ろ姿を確認して、勇者パーティの賢者とも言われた元冒険者、フォーミュラ=アルナラードは静かにその場に立ち尽くしていた。
「本当に君そっくりだったよ…ミサキ。まさか異世界出身だったとは思わなかった」
他に誰もいなくなった奈落の底で、ポツリと呟いたフォーミュラの言葉が誰かに届く事は無かった。
◆◇◆◇◆◇
《side : クラスメイト》
「んなあ!ここ、本当に異世界じゃねーか!」
額に玉汗が浮かぶほどジメジメとした暑さと雲一つない碧空の下。多種多様な種族が入り混じる繁華街の中央広場で、ワタルのクラスメイトたちの騒ぎ声は喧騒にのまれて消えていく。
そんな他の八人のクラスメイトたちの姿を見て、神崎ショウはただ一人途方に暮れていた。
巨大な馬車を引く蜥蜴人、暑苦しく全身が獣毛で覆われた兎人、見たことのない植物を売り捌く耳の長い商売人。
それらは明らかにここが日本ではないことを示していた。リオーネの屋敷での出来事は全て何かの間違いで、壮大なドッキリなんじゃないかといったショウの考えは早々に否定されたのだった。
はたしてこれからどうすればいいのか。行く当ての検討はまるでつかない。
全く涙が溢れそうだった。両親にも妹にもさよならを言えてない。きっと日本に戻る方法はある。そう思ってもそれを実現できる未来がまるで見えない。
リオーネの行っていた儀式。あれはとても人の心が残っている内にできるようなものではなかったから。
そして見捨ててしまったクラスメイト、沢田ヨウトの存在。彼を救えなかったのは…皆を急かしてしまった自分の過失だ。
ショウはそんな自分を責める言葉と、日本で帰りを待つ家族を考えることで精一杯である。
「これからどうする?」
呆然と考え事に没頭するショウの意識を世界に呼び戻したのは、落ち着いた鎌田トモヒサの声だった。
トモヒサも内心は焦っている。だが、最も困惑に満ち満ちているであろう女子生徒たちの前で狼狽えることは、トモヒサにとっては恥以外の何者でもない。
「そう…だね。生活するためにこの世界の情報を集めないと。何かハローワークみたいな組織はないかな?」
人生初のアルバイトが異世界。もしも将来就職活動するときに仕事経験を聞かれたら、自分はそんなふざけた答えを返さなければならないのか。
ショウの脳内はそんな冗談を考えられるくらいには落ち着きを取り戻していたが、それでもまだ自分でこれからの指示を出せるほど考えが纏まっていなかった。
「リオーネは魔物とか言ってたよね…だから、魔物を倒して報酬を貰うみたいな組織があると思うんだけど…」
ショウたち九人をこの街へと転移させた張本人、佐藤マサキは制服の上着を脱ぎつつ汗をシャツで拭き取りながら皆に疑問を投げかける。
それに朝戸レイ、高梨チアキ、辻リョウトのお馴染み三人組が揃えて声を荒げた。
「「「冒険者ギルドってやつか?」」」
その声は興奮にうわずっていた。
ショウとトモヒサ、女子生徒たちにとって『冒険者』という響きは不穏なものでしかなかったが、それ以外の四人にとっては甘美で高鳴りに満ちたものだった。
異世界人として備わった強靭な魔法や武器によって魔物を難なく蹂躙し、冒険者として名を揚げる。憧れで御伽話でしか無かったものが、今目の前にある──。
「とりあえず…そのギルドを探そうか」
ショウの一言で一向は見慣れぬ文字で満ちた異世界の探索を開始した。
幸いにも言葉は通じる。
通りかかる人々に話しかけ続け、苦労することなくギルドと呼ばれるその巨大な建物まで辿り着いた。
危惧していた手数料などがかかることもなく冒険者としての登録は済み、まずはFランクから、後に『英雄』と呼ばれるようになるショウたち
「悪ぃけど俺たちは別行動させてもらうぜ、じゃあな」
登録を済ませ冒険者ギルドを出た瞬間だった。突然のレイの言葉にショウは頭を抱えそうになる。
レイはまるで自分たち三人のことしか考えていない。レイの発言はつまり、ショウは右も左もわからない女子たち三人を抱えたままこの世界で生きていけと言っているようなものなのだ。
先の発言からして、ギルドの仕組みなどはレイたち三人の方が詳しい。それを理解しているというのに、いや、だからこそレイたち三人は三人のみでの行動を望んでいる。
「少しだけ待ってくれ、せめて僕たちが落ち着いて過ごせるようになるまでは…」
「マサキがいれば大丈夫だろ?俺たちとマサキで持ってる知識にそんな差は無いと思うぞ?」
ゲラゲラと笑いながらマサキを指差すレイたち三人。そんな様子だというのに、マサキは何故か誇らしげに自分を頼れとでも言うように胸を張っている。
そんな四人の様子を見て、ショウは大きなため息を一つ。そして早々に三人を懐柔することを諦めた。
「わかった。それじゃ、またいつか会おう」
この世界の広さはどれだけのものなのかはわからない。スマートフォンの電波もないので、訃報も届かない。
今後は二度とレイたちとは会わないかもしれない。そんな予感を感じながら、結局ショウは下品に騒ぎながら人混みへと消えていく三人を見送った。
「これから…どうしよっか」
ショウが出したその声は、自分でもびっくりするくらいにしょぼくれていた。
それを聞いたトモヒサや女子たちは気を引き締め、ショウを勇気付けるように様々な声をかける。
しかしそんな中で、ショウはトモヒサの呟きで懸念すべき一つの存在について思い出した。
「そういえば…ワタルはどこにいるんだ?」
本当に忘れていた。自分たちが転移する前に一早く一人で転移した男の存在を。
「確かに…マサキは何かわからないか?」
ワタルを転移させたのは他でもないマサキである。転移先を指定できるのか、それはショウにとっては今後の展望を考えた上でも重要な疑問だ。
「わからない…この世界について全然知らないから…たぶん別の場所に転移しちゃったんだと思う…」
オドオドしながら喋るマサキをショウやトモヒサは責めることはない。この世界を知らないから転移先もわからない。至極真っ当な意見だからだ。
しかしマサキは伝えない。
「とりあえずギルドで依頼を受注しよう」
不安に滲む表情をするトモヒサを横目に見たが、ショウはひとまずワタルについては考えないことにした。
まず考えるべきはこの世界で生き抜いていくことだ。
宿で泊まる。ご飯を食べる。生きるために必要な何をするにも金がいる。
そしてその金を手に入れる方法を手に入れた。薬草採取でも、弱い魔物を討伐するのでもいい。地道に、確実に生きるために研鑽を積まなければならない。
自分のなかで確固たる意志が芽生えていくのを感じた。
この世界でなんとしてでも生き抜く。そして日本に帰る。
ショウは自分を見つめて頷く五人の仲間を見てその絶対なる目標を自身に定めた。
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