第67話 大成功
死体となったトロールを見下ろしながら、俺は大きく息を吐く。
想像していた以上にタフな相手ではあったが、想像していたよりも楽に倒すことができたと思う。
とにかく、これでトロールの能力を得ることができるな。
トロールを食べるのは気が進むものではないが、あの驚異的な回復力が手に入る可能性があるなら、どんな手を使ってでも腹の中に収めるつもり。
「うオおおおお! ほ、ホントウに……と、トロールをタオした! お、オレタチってゴブリンなんだヨナ!?」
「そりゃゴブリンだろ。アモンはよく立ち向かっていったな」
「む、ムチュウでほとンドなんにもオボえてない! ニコがイケっていったからツッコんだだけ!」
アモンは未だ興奮冷めやらぬといった感じで、言動も少しおかしなことになっている。
嬉しさが全面に出ており、微笑ましい気持ちになってくる。
「確かに指示も含めてニコがよくやってくれた。あのカウンターを狙っていたのか?」
「うがっ!」
ドヤ顔で親指を立てたニコ。
ここまで頼りになる存在になるとは思っていなかったが、本当に嬉しい誤算だな。
「僕は何もできませんでした。あっという間にトロールが両断されていて、せっかくの強敵でしたのに悔しいです」
「バエルが後ろに控えてくれているから、ニコも好き勝手できてたんだよ。そう悲観しないで俺は評価を下げたりしない」
後衛、サポート役の大切さを知っているからな。
普通の魔物なら、戦果を挙げたものしか評価されないっていうのがあるだろうが、俺はキッチリと評価する。
「シルヴァさん……慰めのお言葉、ありがとうございます」
「慰めているとかじゃなく本心でそう思っている。それじゃ解体して、昨日のキャンプ地まで持っていこう」
みんなで手分けして解体を行い、キャンプ地まで運び込んだ。
巨体なだけあって運ぶのが大変だったが、手分けしたことで何とか運び込めた。
俺はこれからこの大量のトロール肉を食うことに専念し、バエル達は何やら狩りに出かけるらしい。
トロールの強さを考えたら、全員分のトロールを狩ることも可能だと思うが、運び込むのと全部食べる行為が不可能に近い。
特にニコに関しては、通常種ゴブリンと変わりないからな。
……まぁ、俺も通常種ゴブリンから黒くなっただけの姿ではあるんだが。
「あまり遠くには行くなよ。助けられないからな」
「大丈夫です。シルヴァさんが駆けつけてくれる位置で狩りを行いますので」
三匹が巣から出ていったのを見送ってから、俺もいよいよトロール肉との格闘を始める。
焼き、蒸し、茹での様々な調理法を駆使しながら、食べ勧めていくとしよう。
トロール肉との格闘を始めて丸一日。
ようやく全ての肉を腹の中に収めることができた。
味自体は見た目ほど悪くはなかったのだが、とにかく量が多い。
食っては寝てを繰り返しながら、途中折れかけた気持ちを持ち直して、何とか完食することに成功した。
「シルヴァさん! おめでとうございます!」
「ありがとう。俺の食事に付き合わせて悪かったな」
「いつもは僕たちに付き合ってもらってますので! それに僕たちも狩って魔物を食べれましたし、大満足の遠征です」
「うが!」
「そう言ってくれて良かった。それにしても……過去一きつかったな」
もうトロールは一生見たくないな。
別の意味でトラウマを植え付けられたが、色々と学べたこともあったし結果的には良かっただろう。
「トロールのノウリョクはエラたのか? エラれたなら、ミセテくれ!」
「どうだろうな。食べたばかりだし、まだ能力が得られてなそうだが……試してみるか」
俺は短剣を取り出し、腕を軽く斬ってみることにした。
思いのほか深く斬ってしまい、結構な血が腕から滴り落ちる。
「……何にも変化してませんよね? シルヴァさん的には何か変化を感じますか?」
「いいや、全く感じないな」
傷が塞がる様子はないため、次は念じて見ることにした。
傷口を見つめながら回復を意識すると――徐々に傷口が塞がり始めた。
「おおっ! キズがフサがっていル!」
「能力を得られているな。使い方は他の能力と同じだ」
「凄いですね! 流石にシトリーの回復魔法よりは回復速度は遅いですが、この能力はかなり使えそうです」
「ただ……思っている以上に体力の消費が激しい。無闇やたらと攻撃を受けるみたいな立ち回りは難しいと思う」
「ただ強力ってわけでもなく、それ相応のデメリットがあるって感じですか」
体力消費が激しいことを加味しても、非常に有用な能力なのは間違いない。
トロールを楽に狩ることができるのも分かったし、タンクであるイチにこの能力を付与させてあげたいな。
「とりあえず成果は得られたし、拠点に戻るとしよう。遠征も行えることも分かったし、大成功といっていいはず」
「そうですね! オーガに勝つビジョンも見えました」
「うがっ!」
「ほんのスコシまえマデは、オーガにカツなんてカンガエたこともなかっタけど……トロールにあっしょうシタことでカテルとオモエた! ――ゼッタイにカトう!」
「そうだな。絶対に勝とう」
全員の自信にも繋がり、強力な能力も得ることができた。
控えめにいっても今回の遠征は大成功であり、オーガへの下剋上に向けての勢いをつけることができた。
この勢いのまま一ヶ月後に迫る下剋上に向け、全力で準備を進めていくとしよう。
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