第53話 戦闘センス


 まず最初に飛び出したのはニコだった。

 隙を窺っていた俺とバエルを出し抜くように、コボルトの群れがいるところに突っ込んでいく。


 すぐに出遅れたことに気づいた俺とバエルも飛び出したが、先を走るニコが先に戦闘を開始。

 オークの能力である突進を駆使し、コボルトを蹴散らしながら中に切り込んでいったニコ。


 何の魔物から得た能力なのか分からないが、風の刃も器用に使ってコボルトを圧倒している。

 なんとなく一緒にいて分かったが、俺達の中で一番戦闘センスがあるのは間違いなくニコ。


 運動能力は進化している俺達には劣るのだが、発想やら能力の使い方なんかが明らかに天才のソレ。

 俺は元冒険者の知識で食らいついているが、戦えるようになってからのニコには結構驚かされている。


「完全に出し抜かれましたね。このままだとニコがコボルトキングのいる巣まで到達しちゃいますよ」

「切り込み方も本当にうまいな。駆け寄ってきたコボルトのせいでニコとの差が開く」

「シルヴァさん。すこしの間だけ協力しましょう! 僕は前だけ見て道を切り開くので、サポートしてください」

「いいのか? 明らかにバエルの負担が大きくなるぞ」

「このままではコボルトキングまで到達しても、ニコが囲まれてしまいますし――僕が単純にニコには負けたくないってのが大きいです。シルヴァさんなら負けても納得ですので」


 最初はこの状況でも戦況を冷静に分析していて凄いなと思ったのだが、バエルの声のトーン的にニコには負けたくないって意味合いが圧倒的に強そうだ。

 バエルが潰れ役を買ってくれるなら俺としてもありがたいし、この案にならないという選択はない。


「分かった。バエルがいいならその提案に乗る。先陣は任せた」

「はい! サポートよろしくお願いしますね」


 バエルはその言葉と同時に前に出ると、コボルトがいようが関係なしに、一気にスピードを上げて突っ込んでいった。

 こうして真後ろからバエルの戦闘を見るのは初めてだが、動きが昔のバエルではないな。


 もはや人間かと思ってしまうほどの軽やかな動きでコボルトを斬り裂き始めると、前を進んでいたニコとの差がぐんぐんと近づいていく。

 俺もバエルに攻撃がいかないように的確にサポートしつつ、前へと進んでいった。


「はぁー、はぁー、ニコを捉えました。コボルトキングがいそうな巣も目の前です! ここからはシルヴァさんが突っ込んでください!」

「潰れ役助かった。あとは俺に任せてくれ」


 バエルに背中を押され、今度は俺一人で飛び出して一気にコボルトキングの巣に迫る。

 この発射で一気にニコを追い抜き、俺は体力を温存した状態でコボルトキングの巣に到着。


「ウガガ!! うがー!!」


 ズルいと叫んでいる感じの声を発しているニコをガン無視し、コボルトキングの巣に突入した。

 中は発酵食品のような臭いで充満しており、三匹のコボルトのメスと、ゴブリン希少種から教えてもらっていた特徴そのままのコボルトキングがいた。


 普通のコボルトとは明らかに一線を画しており、漆黒の毛並みに二倍はあろうかと思うほどの大きな体。

 片耳は千切れており、体の至る所には傷があることからも相当な修羅場をくぐり抜けてきたことが分かった。


 泉の洞窟で戦ったオークよりかは強そうだが……それでもおっさん戦士と比べたらなんてことのない相手。

 俺は剣を構え、まずはいきなり飛びかかってきたコボルトのメス三匹を一瞬で斬り裂く。


 仲間が斬り裂かれたのを見ても動揺した様子を見せず、ゆっくりと立ち上がった。

 その所作を見て、なんとなく知性を感じた俺は言葉をかける。


「お前がコボルトキングか?」


 ただ、おれの言葉には一切反応せず小首を傾げた。

 頭は完全に犬のような感じだし、知性が高くとも言葉は操れないようだ。


 会話ができるなら、ゴブリン希少種との約束を反故にして従えさせてもいいかとも思ったが、会話ができない以上は不可能。

 牙を剥き出しにし、戦闘態勢を取ったコボルトキングに俺は剣を向けた。


 せっかくの戦闘だし、何かしらのスキルを使いたいところだが……スキルを使うまでもない相手だということは構えたところを見てすぐに分かってしまった。

 帰りの道中で何があるか分からないため、温存できるのであれば温存して戦う。


 フェイントを交えながら攻撃を仕掛けてくるコボルトキングに対し、俺は冷静に見極めながら前足を軽く斬るつもりで剣を振った。

 俺の気持ち的には牽制のつもりだったのだが、この一振りで前足を深々と斬り裂き、コボルトキングは前のめりになるように転ぶように倒れた。


 正直斬った感触もなく、オークの時以上に斬ってしまった感が強い。

 自分の強さを未だに測りかねている感じがあって、剣を振って斬れた後に驚くというのを繰り返している気がする。


「もっと楽しみたかったが――楽に死んでくれ」


 首元目掛けて剣を振り下ろし、コボルトキングの首は宙を舞った。

 戦闘というよりは、一方的な虐殺に近い感覚。


 そろそろ本気で戦える相手と一戦交えたくなってくるが、オーガとやり合うまでは実現しそうにないな。

 あまりにもあっさりと終わってしまったコボルトキングとの戦闘にガッカリしつつ、俺はゆっくりと振り返ると……後ろに立っていたのはニコ。


 なにやら笑っているように見えたため、俺はもう一度コボルトキングの方を見てみた。

 首のない胴体に近づきよく見てみると、心臓の部分に何かが刺さっている。


「うがッ! ウガガ!」

「俺が首を刎ねる前にこれを突き刺したのか?」

「ウガッガ! うがっが! ウガッガ!」


 ニコは小躍りしながら返事をした。

 どうやら……俺がメスコボルトにかまけている間に追いつかれ、トドメを刺す直前で横取りされてしまったらしい。


 完全に一本取られ、めちゃくちゃ悔しい気持ちはあるが、元々ニコにトドメを刺させる予定だった。

 そう思い込むことで、無理やり自分の気持ちを落ち着かせた。


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