第23話 言葉


 スイートアピスを狩った日から、あっという間に一週間が経過。

 この期間はとにかく魔物を狩っては食べる日々を送っており、新たにスライムを狩ることに成功。

 その他にもスイートアピスを追加で三匹と、コボルトも二匹狩ることができている。


 とにかく大変だったのはスライムで、狩るまでは楽だったのだが、スライムを食べるのが本当にしんどかった。

 核の部分は食えたものではないため、まとっていたドロドロとした液体を食べたのだが、これがパラサイトフライよりも酷い味だった。


 粘度の高い液体で飲み込むのも一苦労。

 飲み込んだ後も口の中に残り続け、無味無臭ならまだしも酷い臭いに強烈な苦味。

 なんとか食べたものの、その後は一日中口の中をゆすぐハメになったし、恐らくスライムの液体を飲んだ影響で腹も壊した。


 パラサイトフライを食べた時も、スイートアピスを食べた時も腹までは壊さなかったのにだ。

 そんな辛い思いをして得た能力はというと、粘液を出せるようになるというもの。


 微弱な毒を含んでいるようだが、微弱すぎて攻撃手段としては一切使えない。

 本当に体がぬるぬるするだけの効果であり、能力を使っても気持ちの悪いゴブリンが誕生するだけ。


 ただでさえ見た目の悪いゴブリンがヌルヌルになることで更に気持ち悪い見た目になり、人が逃げ出す可能性も無きにしも非ずだが……正直使いどころは思い浮かばない。

 最下級の魔物を食べたくらいでは良い能力が身につく訳がないと思ってはいたが、あれだけ苦労したのに得たものが酷すぎて流石に落ち込んだ。


 とにかくスライム系は今後食べないと心に誓い、初志貫徹で虫系の魔物を中心に狙う。

 ちなみにスイートアピスから得られた能力は、手の指先から毒針に生やすことができる能力。


 スイートアピスと同じように毒針を飛ばすことはできるが、想像していた以上に真っすぐ飛ばすのが難しい。

 更に毒針を飛ばしてしまうと、生やすのには相当な体力が消耗する。


 そのせいもあって毒針を飛ばす練習が思っていた以上にできず、まともに実戦で使えるようになるのはまだまだ先。

 能力さえ手に入ればすぐに強くなれると思っていたが、自由に能力を扱うのにも技術がいるし甘くはなかった。


 

 そもそも巣の付近では倒すことができる魔物が限られているため、得られる能力も少ないからな。

 新たな魔物を狩るとなったら、多少の危険は覚悟でまたパラサイトフライがいた洞窟を攻略しにいかなくてはならない。


 ちなみにそうなった場合は、バエルをお供に連れていきたいと思っている。

 何と言っても、この一週間で一番成長したのは魔物を食べまくった俺ではなくバエル。

 

 何かコツのようなものを掴んだようで、この一週間でオーガくらいには言葉を話せるようになった。

 元々それっぽい言葉は発し始めていたが、意思疎通を取れるようになったのは非常に大きい。


 てっきり人間を食べなくては知能レベルが上がらないと思っていただけに、バエルの成長は俺としても非常にありがたい。

 本能のこともあって魔物と戦えるかどうかだけは気掛かりだが、戦えなくとも後方で支援してくれるだけでも助かるからな。

 色々考えた挙句、バエルに手伝ってもらうことを決めた俺は、朽ち木集めをしているであろうバエルの下へと向かった。


「バエル、ちょっといいか?」

「シるヴァサン! ボクにナニかヨウですか?」


 声を掛けると、笑顔で駆け寄ってきたバエル。

 毎日コツコツと言葉を教えていたのもあって、こうして会話できているだけで嬉しさがこみあげてくる。


 人間だった時は言葉が素晴らしいなんて思ったこともなかったが、人間が扱うもので一番凄いものは、自由に意思疎通が取れるようになる“言葉”かもしれないな。


「俺と一緒に来てほしいってお願いをしに来たんだ。朽ち木集めはいったん止めて、俺と一緒に探索に行かないか?」

「タンサクですカ? イキたいデス!」

「かなり危険な場所だから、できる限りの準備を整えてきてほしい」

「ワカリましタ! ジュンビしてきまス!」


 朽ち木を持ったまま巣に戻ると、一分もしない内に戻ってきたバエル。

 背中には木剣を背負っていて、申し訳程度の木の盾。

 それから俺が作ってあげたホルダーを持参し、急いで準備を整えてきたようだ。


「装備が心もとないようにも見えるが、これが限界だもんな。とりあえずバエルにはこれを渡しておく」


 俺は首を傾げているバエルに昨日作った道具を手渡した。

 木の棒と伸縮性のある紐で作ったお手製のパチンコで、小石をセットして放つことで遠距離攻撃が可能となる。


 投げるよりも威力も精度も出るし、もしものためにバエルには持っておいてほしかった。

 これで最低限の戦力にはなるし、攻撃が可能だったら遠距離から支援してもらうつもり。


「コレはナンですか?」

「パチンコっていう武器だ。使い方を見せるから貸してみてくれ」


 手渡したパチンコを一度返してもらい、落ちていた小石を使って実際に使って見せる。

 俺が打ち出した小石は木に命中し、軽く削ってから地面に落っこちた。


「オオ! シるヴァサンはホントウにスゴい!!」

「作り方さえ知っていれば、こんなのバエルでも簡単に作れる」

「そのツクリかたがワカラないのデスよ!」

「まぁ作り方は置いておいて、使い方は分かったか? ちょっと試し撃ちしてみてくれ」


 俺は再びパチンコを渡し、バエルに実際に使ってみるよう促す。

 言葉を覚えてしまったことからも分かるように、バエルは普通のゴブリンと比べて頭の出来が違う。

 俺が一回使ったのを見て、完璧に使い方を覚えたようで、小石を拾ってセットすると何度も木に命中させて見せた。


「流石はバエルだな。もう完璧に使えるようになったか」

「このドウグ、ホントウにスゴいデスよ!! カンタンでオチているイシをヒロウだけでツヨいです!」

「気に入ってくれたなら良かった。その道具を使って俺を守ってくれ。お願いしても大丈夫か?」

「モチロンです! しるヴァさんをマモります!」


 敬礼しながら自信満々にそう宣言してくれたバエル。

 パチンコを使えるのであれば、サポートは完全に任せることができるだろう。


 格上の魔物には攻撃できないという本能だけが怖いため、道中で何回か戦闘を交えながら泉近くの洞窟に向かうとしよう。

 道中でコボルト辺りがいてくれたらいいんだが、いなかったらスイートアピスの巣に行っていつものように狩るとしようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る