第148話 NPC、洞窟を探検
「いけいけぇー! 素材がゴロゴロしてるぜー!」
「ちゃちく、がんばれー!」
ヴァイルに応援された俺は尚更頑張れる。
見たこともない魔物達がゾロゾロと洞窟の中に入ってくるが、一瞬で倒していく。
鬼や狼男は火を吐くトカゲや四足歩行の猛禽類に苦戦していたけど、俺が飛び蹴りしたら壁に食い込んでいた。
解体もしなくていいし、ただ魔物を倒して放置すれば良いから作業としては楽だ。
「ひりょくなったね!」
それにいくら魔物が柔らかくても、洞窟内は狭いし脆い。
床や壁、天井に魔物を飛ばしたり殴りつけていると、自然と空間がリフォームされていく。
「これで工房部屋も作りやすくなったんじゃないか?」
「さすがマブダチだね!」
どうやら少年も洞窟内が広くなったことに喜んでいるようだ。
「工房部屋は作れそうか?」
「すぐできると思うよ!」
少年は手を大きく上げて何か祈ると、壁が柔らかくなり勝手に動き出す。
「柔らかいから洞窟内が広くなったのか……」
さすがに洞窟が簡単に広くなることは、
俺みたいなただの社畜で
しばらくすると広くなった洞窟がいくつかの部屋に分けられていた。
「せっかくだから中を見ていく?」
キラキラした目で少年が見つめてくる。
これは家の中を見せたいのだろう。
この年頃って部屋に友達を呼んで一緒に遊びたかったりする。
チラッとヴァイルを見ると、気になるのかソワソワとしていた。
「探検してみるか?」
「たんけんしゅる!」
「探検する!」
どうやら一緒に新しくなった洞窟を探検するようだ。
なぜか俺を先頭にその後ろにヴァイルと少年が歩いている。
「あーりゅーこー」
「あるこー」
「きーっとおたかりゃがあるさ」
「あるさー」
俺を先頭にその後ろにヴァイルと少年が歩いている。
少年が案内をしてくれると思ったが、まだどの部屋に何があるのかは知らないようだ。
「ひょっとしてマスターとボスは気づいていなのか?」
「これだけ大きなダンジョンは珍しいよな? オレ様何かあっても知らないぞ」
コソコソと何かを話しながら、少し離れたところに鬼と狼男が付いてきている。
「ここは何の部屋……おっと!」
俺は扉を開けた瞬間に異変を感じて首を傾げる。
「うっ……」
目の前を毒矢が通り過ぎて、後ろで歩いていた鬼に当たっていた。
ちゃんと部屋の中に防犯機能が付いているらしい。
強盗犯が来た時の自衛手段は必要だからな。
「俺はここで終わりだ……。マスター、ボスを頼みましたよ」
「ごぶたん!」
俺はすぐに鬼を治療するが、中々毒が抜けないのか鬼の顔色は少しずつ悪くなる。
あまりにも暇なのか演技の練習でもしているのだろうか。
毒でもただ致死性が高い猛毒ぐらいで、死ぬはずがない。
「ほらほら、意識が飛ぶと治療効果が下がるから寝ない」
そんな鬼の頬を軽く叩いていく。
「いたっ……いたい!」
鈍い音が洞窟内に響くが、聖職者スキルで治しながらだから問題ない。
それぐらいの刺激がないと意識が戻らないからな。
「あっ……そういえば演技をしていたんだっけ?」
「そそそ、そうだ! だから、叩かないでくれ!」
どうやらもう叩かなくても問題ないらしい。
隣で少年が鞭の準備をしていたが、さすがにそこまではやりすぎだからな。
鬼から毒が抜ければ、すぐに部屋の中に入っていく。
「たかりゃばこだね!」
「あけようか!」
宝箱を開けると同時に部屋の扉が閉まる。
――ピヨーン! ピヨピヨ!
さっきまで聞き慣れた音が部屋の中で響く。
「もう痛いのは嫌だ……」
「大丈夫だ! ボスよりは弱いぞ!」
鬼は何かに怯えるように震えていた。
【緊急クエスト】
魔物を退治しろ 0/50
目の前に出現したHUDシステムで、この後に起きることがすぐに予想できた。
泥棒が入った時の自衛手段としてはしっかりしているな。
宝箱があれば泥棒なら開けるに違いない。
「みんな集まれ!」
声に反応して集まってくる。
緊急クエストの内容からして、魔物が50体は出てくるのだろう。
警戒を強めていると、視界がブレると同時に魔物が姿を現す。
「なんだ……こいつらか」
「オークにオーガ……」
「またサラマンダーがいるぞ」
出てきたのはさっきまで笛で呼んだような魔物達だ。
「面倒だから倒してくるよ」
俺は剣を構えるとすぐに魔物に向かって斬り裂いていく。
少しは強い魔物と戦えると思ったが残念だ。
さっきは素手で力比べをしたりしたが、武器を持ってしまえば一瞬で倒してしまう。
「お前よくボスに殴られて死ななかったな……」
「ボスの回復スキルが永遠と死なせてくれなかったんだ……。走馬灯を何度も見たぞ」
「ああ……気をつけないとな……」
魔物を倒してしまえば扉はすぐに開き、次の道に行けるようになった。
こんな簡単な防犯機能で大丈夫なんだろうか。
俺でも数分で倒せるレベルだぞ?
「たかりゃばこなくなったね……」
いつのまにか宝箱は消えていた。
あの宝箱が防犯機能の引き金になっているのだろう。
気になってもすぐに開けるのは危ないな。
「ちゅぎいこ!」
ヴァイルは俺と少年の手を握り、奥の方へ引っ張っていく。
部屋の先も道が繋がっており、前よりも洞窟自体が広くなっているようだ。
その後も先を進めば様々な部屋があった。
魔物だけではなく、矢が飛んできたり、水が流れ出てきたりと遊び心あふれた部屋ばかりだ。
「もう無理だ……」
「なぜオレ様ばかり狙ってくるんだ……」
俺とヴァイルが避けるから、被害に遭うのは鬼と狼男ばかりだ。
それに毒矢や麻痺矢もたくさん飛んできており、資源として再利用できそうだ。
中には寝泊まりもできそうな部屋や温泉があったりと、バリエーション豊かに存在していた。
「本当に工房部屋なんてあるのか?」
ただ、どこにも工房部屋が見つからない。
このままだと迷子になって終わりそうな気がする。
「ラットン、工房部屋はどこにあるの?」
【はぁーめんどくさい。前に3つ、右に2つ行った先だ】
突然、何もないところから声が聞こえてきた。
みんなは怖くないのか平然としている。
「さっきのは何だ?」
「ラットン?」
そういえば、鬼と狼男、それにスライムはいるが、大きなネズミはいない。
「ラットンは動きたくないから監視室にいるよ」
働きたくないのは同じネズミに似た姿をしているからか、オジサンと似ているようだ。
俺達は言われた通りに部屋を進んでいくと、やっと工房部屋までたどり着いた。
扉を開けると再び目の前に麻痺矢が飛んでくる。
すぐに避けると、ヴァイルと少年も一緒になって避けていく。
「うげっ!?」
「体が痺れ……」
また鬼と狼男が麻痺矢に当たっていた。
「資源の回収だねー!」
本当にセキュリティがしっかりしている良い洞窟だな。
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