第145話 NPC、戯れる

「キシャ大丈夫か?」


『キシャ……』


 次の日、魔物の行き先を調査に行ったキシャを尋ねると、ぐったりとした顔をしていた。


 そんなに魔物の大群に紛れるのが大変だったのだろうか?


 同じような虫系魔物やムカデもこの辺に生息しているはず。


 仲間意識や縄張り意識が高い魔物ばかりだと、疲れるのも仕方がない。


 傷はなさそうだが、疲れも一緒に取れるため聖職者スキルで回復させる。


「それでどうだったんだ?」


『キシャ……キシャシャ……キシャアアアアア! キシャ!?』


 キシャは一人二役で説明している。


 100本もある脚を一生懸命動かしているが……正直言って気持ち悪いだけだ。


 それに何を伝えたいのか全くわからない。


「もう少ししっかり話したらどうだ?」


『キシャ……、キシャシャ! キーシャ、キキキキキシャアアアア、キシャシャシャ、キシャア?』


 何か伝えようとしてくれているのはわかる。


 今度は頭を上下左右に振ったり、体をクネクネと何度もさせている。


 だが……本当に何を言っているのかわからないのが現状だ。


 しっかり話すように言ったが、別に長く話せとは言っていない。


 それに伝えようとすればするほど、動きが気持ち悪くなるばかり。


「お前って気持ち悪いな……」


『キシャ……キシャアアアアアアアアアアアア!』


 ショックのあまりキシャは地面に頭を何度も叩きつけていた。


 せっかく聖職者スキルを使ったのに、自分で傷つけては意味がない。


 頭をぶつける度に聖職者スキルを発動させる。


『キシャ!?』


 たまにチラッとこっちを見て、頭をぶつけるスレスレで止めて様子を窺っている。


「ぬぁ、あいつわかってやってるな!」


 これもスキルを使うタイミングを学ぶ訓練になりそうだな。


『キチャアアアアアアアアアア! キチァク!』


 どこか俺の名前を呼んでいるように感じたが気のせいだろうか。


「ヴァイルはなんて言ったかわかるか?」


「ちゃちくをよんでたよ?」


 やっぱり俺を呼んでいたらしい。


「キシャ、もう一回呼んでくれないか?」


『キチャアアアアアアアアアア! キチァク!』


 どうやら最後の〝キチァク〟が名前ではなく、鳴き声から名前らしい。


「ちゃあああああああああああ! ちゃちく!」


 隣でヴァイルもマネをしている。


 段々と楽しくなったのか、キシャとヴァイルはずっと俺の名前を呼びながら頭を振っている。


 まるでヘッドバンキングをしているようだ。


 そんなに楽しそうに名前を呼ばれると俺も嬉しくなる。


「俺はここに何をしにきたんだ?」


 しばらく遊んでいる様子を眺めていると、何をしにきたのか肝心なことを忘れていた。


「きちゃにききにきたよ? ちゅよいやちゅがいてたいへんだってさっきいってた!」


 ヴァイルはキシャの言うことがわかるらしい。


 それに弟は記憶力も良いようだ。


 俺はINTをもう一度見直した方が良さそうだな。


「強いやつか……」


 強いやつがいるって言われると気になってしまう。


 それにまだキシャの装備を作れていないからな。


 そいつを装備の素材にするのも良さそうだ。


 早くしないとチェリーに怒られるからな。


 むしろ、すでに半殺しにされる覚悟はできている。


「よし、キシャそこまで連れていけ!」


『キシャ!?』


「もちろん連れていくよな?」


 俺は優しく頼み込みキシャを撫でる。


 こうやって愛情深く接すると、虫型の魔物でも理解してくれるからな。


『キチャアアアアアアアアアア! キチァクゥゥゥゥ!』


 ペコペコと頭を下げて頷いている。


 やっぱりキシャは良いやつだな。


 俺達はキシャに乗り、素材となる強いやつのところに向かうことにした。



 キシャの上に乗ると、魔物達はやはりどこかへ向かっているようだ。


 ある方向へ走っていくが、前もどこかへ集団で向かっていたのと変わらない。


 勇者達はそれに巻き込まれたのだろう。


 魔物達を追って走ること数十分。


 まさかまたここに帰ってくるとは思いもしなかった。


「ここってあいつらがいるところだよな?」


「しゅらいむがいりゅよ!」


 どうやら魔物達はセーラー服を着た少年がいる洞窟に向かっていたようだ。


 強い魔物達が中に入っているが、あいつらは無事なんだろうか。


 幽霊がいないとわかれば、中に入るのが怖いことはない。


 少しずつ脚を踏み入れると、遠くから何かが聞こえてくる。


――ピヨーン! ピヨピヨ!


 あれ?


 どこかで聞いた覚えがあるぞ。


 それと同時に背後からもたくさんの足音と叫び声が近づいてくる。


「まもにょがきてりゅ」


 あの音は俺が渡した魔物を呼ぶ笛の音色だ。


 変な鳥の声がするから間違えるはずがない。


『ヒィエエエエエ! お前らまた奴らがきたぜぇぇぇぇぇ!』

『うええええええい!』

『お前ら、準備はいいか!』

『ぶっ殺せ! ぶっ殺せ!』


 物騒な声が洞窟全体に響いて聞こえてくる。


 ヴァイルに聞かせるわけにはいかないと思い耳を閉じて待っていると、目の前を魔物達が通り過ぎていく。


 それに紛れるように俺達は後ろから付いていく。


 途中で毒のついた矢が100本飛んできたり、大きな岩が転がってきたりした。 


 ただ、俺にとったら避ける良い訓練になった。


 さすがに大量の水が流れてきた時は、初めて泳ぐことになり焦った。


 水泳の授業すら受けたこともなかったからな。


 それでも肩車をしているヴァイルが楽しそうならよかった。


 洞窟の中央に到着すると、魔物の数は半分ぐらいに減っていた。


「それにしても変わった洞窟だよな……」


 この洞窟はどこかおかしい。


 魔物が死ぬとそのまま洞窟の地面や壁に吸い込まれていく。


 そして今も魔物達が洞窟に吸い込まれている。


「しゅらいむがいりゅね」


『おめーら、不法侵入は皆殺しだ!』

『勝手に我が家に入ってくるやつはオレ様が許さねー!』


 また聞いたことある声が聞こえてきた。


 この間見たゴブリンとコボルトだろ。


 ヴァイルもスライムを見つけたようで、急いで駆け寄っていく。


「しゅら……いむ?」

「えっ……?」


 俺は目の前の光景に驚いて立ち止まってしまった。


 そこには俺よりも数倍体がデカくなった鬼と目が赤く鋭い牙が生えた狼男がいた。


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【あとがき】


「ここがあの有名なサンドウィッチが売っているところかしら?」

「聞いた話ではお金だけじゃ足りないらしいわよ」

 私達は旅の途中で有名なサンドウィッチ店の話を聞いた。

 どうやらどんどんお金を払いたくなるらしい。


 店の前には行列ができており、窓にはびっしり虫のように女性達が張り付いている。


「そこのあなた達、サンドウィッチをお求めかしら?」

「今すぐにこちらに来なさい!」


 頷くと私達の手を取り、中の様子を見せてくれた。


「ヴァイトは今から俺と訓練をする予定だ」

「何言ってるんだ? 俺に武器を作る話だろ?」

「いや、俺は慈善活動に忙しいんだが……」

「「俺が優先だろ?」」


 どうやら一人の男を取り合いしているようだ。


――ドンッ!


 続きが気になるのに隣の女性に押し出されてしまった。


「ふふふ、あなた達もここに来たら抜けられなくなるわよ」

「もっと見たいなら★★★とレビューが必要だわ」


 どうやら★★★とレビューで続きが見えるようだ。


「くっ……」

 

 私は抜け出せない沼のようなところにハマってしまった。


 すぐに★とレビューを集めて来なければ……。

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