第109話 NPC、本領発揮する

「おっ、これもおいしいな」


「にきゅじゃぎゃ、おいちい!」


 俺達は店の前で早速賄いを食べ始めた。


 宣伝ということもあり、次々と店主達が料理を作って運んできてくれる。


 天ぷらやうどん、酢豚や青椒肉絲に回鍋肉、オムライスやビーフシチューなどが並んでいる。


「色々食べられるっていいな」

 

 こんなに一気に見ることもないため、ちょっとしたパーティー状態だ。


 俺も次々と食べていく。


「あっ、それ俺が食べようと思ってたやつだぞ!」


「早い者勝ちなんだろ?」


「お前は早すぎるからダメだ!」


 負けじとユーマも口の中に放り込んでいく。


 本当にどれも美味しくて、周囲の目なんか全く気にならない。


「なんか大食い選手権を見ているようだね」


 そんな俺達を見たアルは隣で冷ややかな目をしている。


「ふふふ、イケメンの食べているところって視聴率良さそうね」


「自分で言ったけど見られていると食べにくいというか、まるで見せてはいけないところを見せているようで……」


「いや、それを見てもらうために食べているのよ! イケメンの食事姿こそ需要ありよ!」


 ラブは相変わらずだが、アルは周りの目が気になっているのか中々食が進んでいない。


「おい、あれ何の料理だ?」


「ここで食べられるんだろ?」


 いつのまにか俺達は町の人達に囲まれていた。


 気になって中を覗いたり、店の前に少しずつ列ができるほどだ。


「もうそろそろ食べ終わるので、並んでてください」


 今は開店前の準備として、あえて店の中に入れないようにしている。


 バビットの店でも経験したが、待っている列があると気になるのか人が集まりやすくなる。


 それに料理に対しての期待度も上がるのだろう。


「おかわり!」


 ユーマはまだ食べ足りないのだろう。


 ご飯のおかわりをしようとしていたところをすぐに捕まえて、店内に連れて行く。


「もう働く時間だ」


 ある程度の列ができれば客は次第に不満に変わっていく。


「なぁ!? 俺はまだエビチリがぁー!」


 ユーマを店内に放り投げ、テーブルをすぐに片づけたら準備完了だ。


「アルとラブはお客さんを誘導してくれ」


「へっ……!?」

「切り替え早くない?」


「お客さんを待たせるのはあまり良くないからな」


 切り替えの早さもAGIのステータスが高いのが影響しているのだろう。


 呆然としているユーマ達は気にせず、俺は次々と店の中に案内していく。


「寿司セット二つ、ハンバーグセット3つ、麻婆セット2つ入りました!」


 すぐに注文を確認して店主達に伝えていく。


「「「はいよー!」」」


 返ってくる声に彼らが嬉しそうなのを感じる。


「おみじゅ……だよ?」


 ヴァイルも必死にお水を持ってお手伝いする。


 どんどん客は増えていき、気づいた時には満席になっていた。


「突っ立ってないで手伝えよ!」


 壁際に立っているユーマを蹴って気合いを入れるが、動く様子は全くない。


 アルとラブは引き続き呼び込みをしているため、ユーマだけタダ飯を食いになってしまう。


「おい!」


「なんだ?」


「できないんだよ……」


 なぜかモジモジとしているユーマ。


 何ができないのだろうか。


「注文聞いて運ぶだけだろ?」


「はぁん? 100席以上ある中で、注文を聞いて覚えるのがどれぐらい難しいと思ってるんだ!」


「あっ……お前がバカなのを忘れてた」


 ユーマはこの中で一番脳筋タイプだったからな。


 メニューを聞いても伝える前に忘れるのだろう。


「じゃあ、ヴァイトは覚えているのかよ!」


 ユーマは近くにいたテーブルの人を指さしていた。


「あの人達はオムライスと和食御膳を頼んでいるぞ。15、16番目だな」


「じゃあ、あそこは?」


「奥の人が天津飯セットで手前が寿司セットだ」


「じゃあ、そことそこは?」


 その後もユーマは俺が覚えているのか聞いてくる。


 だが、残念なことに全て覚えているし、そんな暇もない。


「お前は片づけでもしてろ」

「しょーだ!」


 近くにいるヴァイルも文句を言っていた。


 さっきから一生懸命よちよち歩きながら働いているからな。


 ただ、ユーマの言うことは今後の課題にもなるだろう。


 今は俺がいるからどうにかなるが、ずっとこの町にいるわけにはいかないからな。


 それにウェイターがいなくてもどうにかなる仕組みを作らないといけない。


「寿司セットできたぞ!」

「天津飯だ!」

「こっちも頼む!」


 それでも今は店主達の声を聞いていたら、少しでも変えることができてよかったと感じる。


 これからもどんどん忙しくなってくるからな。


 その後も材料がなくなるまでお客さんが入れ替わり、一日で今までの一週間分を売り上げた。

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