第105話 NPC、関係を構築する

 田舎と都会ではこんなに人の距離感が違うのかと戸惑いながら町の中を観光する。


 どこも活気があるのに、商売のための関係にしか見えない。


 笑っている顔が全て胡散臭く見える。


「ちゃちく、げんきだしゅ!」


「そうだなー。泊まるところも探さないといけないからな」


 ウジウジしてても仕方ない。


 距離感があるなんて前世では当たり前だった。


 車椅子に乗ってる奴なんて、同級生は近寄ろうとしないからな。


 むしろ無自覚に傷つけてくるのが子どもだ。


 ヴァイルに励ましてもらいながらも、宿屋を探していく。


「おっ、兄ちゃんこんなところでどうしたんだ?」


 振り返るとそこには洋食屋の店主がいた。


 手にはたくさんの荷物を持っているため、買い出しに来ているのだろう。


「宿屋を探していまして」


「宿屋なら店の近くにあっただろ? それにここは商店街だからないぞ」


 どうやらこの辺には宿屋はないらしい。


 まだ町の中の構造も理解をしていないため、どこに何があるのかも把握できていなかった。


 声をかけようとしても、みんなスタスタと歩いて行ってしまうからな。


「この町に今日来たので土地勘がつかめなくて……」


「それならワシが教えてやるぞ?」


 洋食屋の店主は買い物ついでに、町のことについて教えてくれることになった。


 その代わり俺は食品の荷物持ちだ。


 ステータスも高いから、それぐらいなんてことはない。


「ここはギルドが中心にあって、囲むように店と住宅街が点在している。生産街と商店街は区分が分かれているぞ」


 門入り口から一番左奥に生産街が集まっており、反対側の右奥に商店街がある。


 その他はほとんどが商業街になっていた。


 ギルドから出てそのまま右奥の商店街に向かったから、いくら探しても宿屋が見つからなかったのだろう。


 変わった作りにはなっているが、町によっては生産街や商店街が幅広くあるところもあるらしい。


「おっ、グスタフの店に新しいスタッフが入ったのか?」


 俺が荷物を持っているからか、店のスタッフだと勘違いされたのだろう。


 肉屋の店主が声をかけてきた。


「ははは、ワシはこいつに振られた身だな」


 転職クエストを受けていないから振った人扱いになるのか。


 そもそも俺はこの人の名前がグスタフと呼ばれていることすら知らなかった。


「グスタフっておじさんのことですか?」


「ははは、名前も知らないなら振られても当然だな」


「たしかに自己紹介をしていなかったな。ワシはグスタフだ」


 グスタフは手を前に出すが、荷物を持っている俺は握手ができなかった。


 少し屈むと、頭の上から小さな手が出てくる。


「俺はヴァイトだ。頭にいるのが弟のヴァイルだ」

「ぐしゅたむ、よろちく!」


 代わりにヴァイルが握手してくれた。


 どこか距離感が近くなった気がする。


 名前も知らないやつに武器や防具の作り方を教えてくれって言われたら警戒されるのは当たり前だろう。


 バビットと出会った時も初めは警戒されていたのを思い出した。


 そこから少しずつジェイドやエリックなどの師匠達と関わることが増えたっけ。


 まずは俺自身の名前を知ってもらって、交友関係を広げるところからだな。


「肉が欲しければいつでも来てくれ! なんなら捌き方も教えてやるからな」


「解体師の経験もあるので勉強になるかもしれないですね」


「なっ、お前までヴァイトを誘惑するつもりか!」


 一番身近な二人と俺を取り合っていたのに、またライバルが増えるのかとグスタフは肉屋の店主に威嚇していた。


 ただ、俺としてはまだ職場体験中だから、色々と経験できたらそれで構わない。


「獣魔解定師は少ないから珍しい技術だぞー」


「おい!」


 それに聞いたことない職業に俺も気になっている。


「えっ……」


 音とともにHUDシステムが作動した。


【転職クエスト】


 職業 獣魔解定師じゅうまかいていし

 獣型魔物の解体に成功する 10回 0/10

 合成 解体師+鑑定士 どちらも50レベル必要

 報酬 獣魔解定師に転職


 全く知らない人なのに転職クエストが出現した。


 やはり交友関係が転職クエストと何かしらのきっかけがあるのだろう。


 それがわかれば後は簡単だ。


「グスタフさん他にも知り合いを教えてください!」


「ん? なんでた?」


「色々な職業を知りたいのでお願いします!」


「なんだって!」


「ははは、グスタフも大変だな」


 これでたくさんの転職情報を知ることができるだろう。


 転職活動をするのに情報がたくさんあった方が良いからな。


「残念だったな!」


 グスタフはニヤリと笑う。


「買い出しはこれで終わりなんだよ! ちゃんと店まで荷物を頼むよ!」


 そのまま逃げるようにグスタフは店に戻って行った。


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【あとがき】


「ねえねえ、オラにもあれほちい」


 ヴァイルが話しかけてきた。

 指をさしているのは画面下の関連情報のところのようだ。


「おほちちゃまとれびー!」


「ん? それって★とレビューってことか?」


「うん! オラにもちょーだい!」


 どうやらヴァイルは★★★とレビューが欲しいようだ。


 ぜひ、ヴァイルにプレゼントしてあげよう!


 実はこの作品が小説家になろうのVRゲームジャンルで日間1位になりました・:*+.\(( °ω° ))/.:+笑

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