第89話 NPC、ラブの強い味方達を知る

 すぐに冒険者ギルドに戻ると、おじさん同士がげっそりとした顔をしていた。


 どうやらまだ抜け出せないようだ。


「ジェイド、今すぐ戦う準備をしてくれ!」


「戦う? すでに俺はこいつと戦っていたんだけど」


「主人どうにかしてくれよ」


 今も必死に紐も解こうしている。ただ、きつく結んだ紐が外せないのだろう。


 俺の全力STRで結んでいるからな。


「それで戦う準備ってどういうことだ?」


「ユーマ達の話だと、虫系魔物の大群がこの町に向かっているらしい」


「何で虫系魔物ってわかるんだ?」


 俺は魅惑の香水を取り出して、ジェイドに吹きかける。


「うわ、主人何をするんだ」


 オジサンの顔面にかかり怒っている。


 しばらくすると虫達が寄ってきた。その中の一匹を捕まえてジェイドに見せる。


 足をウニョウニョと動かし逃げようとしている。


「あー、気持ち悪いな」


 うん。


 確かに気持ち悪いが、見てほしいところはそこではない。


 虫系魔物は俺に掴まれていることに気づいて、足を俺に絡ませてきた。


 一種で握り潰す。


 ポタポタと体液が流れてきた。


「あー、やっぱりヴァイトは力が強いな」


 うん。


 やっぱりジェイドには伝わってないようだ。


 解体師スキルを発動させて、手を綺麗にする。


「今この町で香水が流行っているだろ? 町全体でこのにおいを放っているんだ」


 ジェイドはやっと理解したのだろう。


「今すぐに香水を集めろ!」


 顔を引き締めて仲間達に指示を出していく。


「金をガッポリ稼ぐぞ!」


「うおおおおお!」


 なんか予想とは違うような反応だ。


 ひょっとして香水を使って魔物を誘き寄せて戦うつもりか?


 それを邪魔するようにオジサンがジタバタしている。


 必死に虫から逃げているようだ。


「おい、あんまり動くなよ。胸が痛くなるだろ!」


 ん?


 やっぱり胸が痛くなるのか?


 人によって痛みは変わるのだろう。


 また実験の結果として記録に残しておこう。


 俺は解体師スキルを発動させて、魅惑の香水を無効化する。


 ついでに虫が顔面に張り付いてるオジサンズも綺麗にしておいた。


「ふぅー、気持ち悪かったぞ……」


 意外にもオジサンは虫が苦手のようだ。


「じゃあ、俺は偵察に行ってくる」


 それだけ伝えて冒険者ギルドを後にした。


「主人、これを外してくれ!」


「お前が動くからさらに締め付けられて胸が痛いだろ!」


「なら早くこれを解いてくれ!」


 それにしてもなぜ紐をずっと解こうとしているのだろうか。


 刃物で簡単に切れるように縄は使っていないのにな……。



 町の入り口に向かうとすでに勇者達が集まっていた。


 その中には魅惑の香水を付けている人達もいる。


「だからそのにおいが問題なんだって!」


「ヴァイト様が来てくれたら、こんな香水落とすわよ!」


 そんな奴らと何か言い合いをしているユーマに声をかけた。


「おい、ユーマこれじゃあ意味がないんじゃないか?」


 周囲に香水のにおいが広がっている。


 ここにいるだけで、体ににおいが染み付いてきそうだ。


「おお、やっと来たか」


 ユーマは俺の肩を叩くと、そのまま引っ張り勇者達に差し出した。


「きゃあああああ!」


「ヴァイト様よー!」


 なぜか様々な声が聞こえてくる。


 その中には男性勇者もいるようだ。


「ヴァイトさんごめんなさい」


 近くにいたラブが突然謝ってきた。


 何か悪いことでもしたのだろうか。


「声をかけたら想像以上にみんなが集まってきたの」


「この人達は知り合いなの?」


「うん、全員ヴァイトファンクラブVFC会員の人達です」


 また、俺にはわからない勇者語が出てきた。


 ただ、ここにいる全員が何かの会員だってことだな。


 きっとラブの強い仲間達なんだろう。


「俺は今から虫達の動きを見にいくから、町の人達の誘導を頼みます。それにその香水は絶対に使わないでくださいね」


「キュン!」


 なぜか変わった返事をされた。


 俺は全体に解体師スキルを発動させる。


「ほわあー、まるでヴァイト様に抱かれているみたいだわ」


 意味のわからないことを言っているが、確かに解体師スキルで体を綺麗にするとポカポカする。


 まるでお風呂に入った後のような感じだ。


 それが抱かれているように感じたのだろう。


 俺は特に気にせずに町の外に偵察に出た。


「ねぇ、これってわざわざ魔物を倒さなくても終わらない?」


「アル、どういうことだ?」


「だって魅惑の香水のにおい自体を消せば魔物は来ないよね?」


「あっ……ヴァイト……はもう行っちゃったよな」


 ユーマ達一行は町の中で作戦会議をしていた。

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