第87話 NPC、実験をする
「ぎゃああああ!」
「大丈夫ですか?」
「キュン!」
町の中で男性勇者の近くにいる虫を追い払って助けていく。
これで何人目だろうか。
虫に囲まれていたのは女性勇者だけではなかった。
男性勇者や冒険者達も虫に囲まれていた。
「ヴァイト様……ぜひ、俺のパートナーに……」
パートナーって親友のことを言うよな?
よく心のパートナーってアニメとかで聞いたことがあるしな。
「パートナー? いや、俺にはユーマがいるから大丈夫かな?」
「ギュン!」
なぜか男性勇者はとろけたような顔をしていた。
揃いも揃って聖職者スキルを発動させても効果がない。
「ギュフフフ! ジュルリ」
その近くには唸り声をあげている女性勇者達が見ている。
女性だから虫を追い払えずに見守っているのだろうか。
それに男性勇者も苦しそうだ。
そういう時は、だいたい――。
「胸が痛いなら――」
「股間が……」
「うん、それは早く教会に行った方が良い! 虫に大事なところを噛まれたんだな!」
男のシンボルは少し衝撃があっただけでも、泣き叫ぶほどだ。
そこが虫に噛まれたってなると大事になる。
最悪排泄もできなくなるからな!
虫に襲われると胸や股間が痛くなるという症状に襲われるほど、この世界の虫は凶悪のようだ。
隣町のバッタ達に俺も股間を噛まれなくてよかったと改めて思う。
「いや、ヴァイト様にかまれ――」
「教会はあっちだからな!」
俺はちゃんと教会の場所を伝えて、次の人を助けに行く。
「きゃああああ!」
なぜか棒読みのような叫び声が聞こえてきた。
すぐに声がする方に向かう。
ただ、その先にいる魔力が俺の知っている人物と同じような気がした。
「やっぱりお前か」
「おお、本当にヴァイトが飛んできた!」
そこにはユーマとニヤニヤしたラブがいた。
「さすがにヴァイトの邪魔はやめた方がいいよ?」
ひょっとして俺を呼ぶために叫んだのだろうか。
俺は紐を取り出してユーマに近づく。
「いや、ちょうど俺もヴァイトに用が……って何してるんだ?」
「ん? ちょっと実験してみようかと思ってね?」
ユーマが逃げないように紐で縛り付ける。
「あああ、拘束プレイよ! これはみんな喜ぶわ!」
「ラブもやめなよ……。さすがに視聴率を上げるためだとしても二人とも可哀想――」
「ならアルが代わりに行ってくる? 別に三人で取り合いしても――」
「遠慮しておきます」
アルとラブは何か言い合いをしていた。
「おい、ヴァイト……何をするつもりだ?」
「えっ? だから実験だって!」
学生の時に授業で実験ができなかったからな。
アルコールランプに火をつけて、俺も色々とやってみたかった。
俺はあるものを取り出し、ユーマにかける。
「このにおいはレモン?」
「今町の中でこの香水を使っている人が多いんだ」
「ああ、確かに変わった匂いがしているもんな。これと叫び声が何か関係しているのか?」
「んー、待ってみたらわかるかも」
しばらくそのままユーマを観察していると、虫達が勢いよく集まってきた。
「ななな、ヴァイト! 早く外してくれ!」
「嫌だね! 俺の時間を奪った罰だよ」
「鬼畜! 悪魔!」
ユーマの体を虫達が這いずっていく。
その姿を見てアルやラブも震えている。
ひょっとして一緒に実験をしたいのだろうか。
「二人もやってみる?」
「ムリムリムリムリ!」
壊れたおもちゃのように首を大きく横に振っていた。
「ヴァイト助けてくれー! 俺とお前は親友だろ?」
それを言われたらどこか悪いことをしている気分になる。
確かに俺とユーマは親友だからな。
ただ、実験の目的が果たせてないのだ。
「なぁ、胸か股間が痛くない?」
「はぉん? どっちも痛くねーよ! むしろ痒いし気持ち悪い!」
「ほぉー、そうなんか」
俺は解体師スキルと聖職者スキルを発動する。
これで実験の結果がわかったからな。
胸と股間が痛くなることはないってことだ。
なぜ痛くなるのかは俺にはわからない。
紐を外すとユーマは虫を追い払った。
「おい、実験をするならちゃんと説明してからやれよ!」
「やるのは良いんだね?」
「ヴァイトが何かするにはちゃんとした理由があるだろ?」
「あー、そうだな」
「それに大体こういう時って……」
ユーマはHUDシステムを確認していた。
大体俺と遊んだ時にはあることが起こる。
「やっぱりステータスが上がってた」
ステータスが上がったことで、ユーマは嬉しそうに笑っていた。
「ねぇ、ラブ? あの関係って普通なの? ユーマっていつからドMになったの?」
「いいのよ! あれも一種の愛なのよ」
「んー、勉強ばかりしてる僕にはまだわからないな」
俺の実験は色んな意味でうまくいったらしい。
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