第80話 NPC、見届ける
「あら? 今日は変わった動物を連れているのね?」
声をかけてきたのは、鑑定士の師匠でもある冒険者ギルドの女性だ。
「俺は大――」
「大マーモットのオジサンです」
「……」
「大マーモット? オジサン?」
今までなら文句を言っていたが、今回に限っては何も言ってこない。
俺はオジサンの顔を見ると、目を大きく見開いてポカーンと口を開いていた。
「オジサンどうしたの?」
オジサンを揺さぶるが、その場で固まっている。
何か魔法でもかけられたのだろうか。
「オジサン大丈夫ですか?」
「はぁ!?」
職員も一緒になってしゃがんで話しかけると、びっくりしたように元に戻った。
「ワッ……ワッシはオジサンでしゅ」
あれ?
さっきまでオジサンと呼ばれて嫌そうだったのに、自らオジサンと名乗っているぞ。
それに〝でしゅ〟ってなんだ。
「ふふふ、オジサンでも可愛いオジサンなんだね」
「そそそ、そうでしゅ! ワッシはキュートなんでしゅ!」
「お前緊張しているのか?」
「そそそ、そんなことないでしゅ!」
明らかに様子がおかしいし、俺の顔を見る目は明らかにキラキラとしていた。
「ひょっとしてお姉さんのことが――」
「主人黙るでしゅ!」
必死に俺の口を塞ごうとするが、勢いが良過ぎて小さな手が俺の鼻の中に入る。
「二人とも仲良しだね」
「仲良しでしゅ!」
仲良しと言ってもらえて、俺も少し嬉しかった。
「ちゃちくとなかよちなのはオラだもん!」
やはりヴァイルは、一番が良いのだろう。
再びベッタリとくっつき出した。
そんな俺達をニコニコしながら、冒険者ギルドの職員達が見ていた。
「結婚相手はヴァイトくんみたいな方が良いわね」
「でも最近勇者から聞いたヴァユマカップリングも捨て難いわよ」
「わかるー。今までそんな楽しみ方があるのを知らなかったことに後悔よ」
冒険者ギルド内でも勇者語は流行っているようだ。
〝ヴァユマカップリング〟が何かはわからないが、前より冒険者ギルド内の女性達の視線を感じることが多くなったのも関係あるのだろう。
特にユーマといる時は、唸り声みたいなのが色んなところから聞こえてくるからな。
「訓練場借りますね」
俺はヴァイルとオジサンを連れて訓練場に向かう。
訓練場に向かうオジサンは手と足が一緒に動いて上手く歩けなさそうだった。
「オジサン何かあったのか?」
「ワッシ……初恋をした」
「ん? 初恋ってあの初めて好きになるやつか?」
オジサンはこくりと頷いた。
精霊と人間の恋愛もこの世界にはあるのだろうか。
「主人はあやつの名前は知っているのか?」
「あー、俺も知らないな。さっき自己紹介した時に聞けばよかったね」
「ワッシはそんなことできないぞ……」
あれだけうるさくしていたのに、恋愛のことになると静かになるようだ。
結構奥手なんだろう。
俺も恋愛をしたことないため、どうすれば良いのかもわからない。
「オラがきいてくりゅね」
ヴァイルは急いで冒険者ギルド内に走って名前を聞きに行った。
しばらくオジサンと話していると、ヴァイルが戻ってきた。
手を繋いで戻ってきたのはさっきの女性だ。
「ワッシも触れたいでしゅ」
そんな二人を見てどこか嫉妬しているオジサンがいた。
また語尾が変わっているな。
きっと緊張すると舌足らずみたいになるのだろう。
ただ、どことなく女性は申し訳なさそうな顔をしている。
「良かったらワッシに名前を――」
「ごめんなさい!」
「へっ……」
突然の出来事にオジサンは固まっていた。
「私はお付き合いしている人がいるので……」
どうやらオジサンは名前を聞く前に振られたようだ。
それにしてもなぜ知っているのだろう。
「おじしゃんしゅきやないの?」
「ごめんね。私マーモットとは付き合えないのよ」
きっとヴァイルが彼女に伝えてしまったのだろう。
勝手に好きな人を伝えるのは、良くないことだからな。
あとでヴァイルには伝えておこう。
「じゃあ、訓練頑張ってくださいね」
そう言って彼女は仕事に戻って行った。
「だいじょーびゅ?」
「大丈夫か?」
俺達が声をかけるとオジサンも動き出した。
「チクショオオオォォォ!」
その場でジタバタとしている。
オジサンの初恋は失恋で終わったようだ。
「よし、鬼ごっこするか!」
「うん!」
「このやろおおおお!」
辛さを紛らわすために俺達は訓練場を全速力で走り回った。
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