第63話 NPC、悲しくなる ※一部運営視点

 悪党達を捕まえると、俺達は森の中に吊り下げていた奴らも連れて町に戻っていく。


「おい、こら走れ走れ!」


「もう無理だ! 気絶させてくれ!」


「大丈夫ですよ! 私も回復魔法が使えるので」


「お前達頭おかしいだろ!」


「それをお前達が言うなよ!」


 俺達より確実に犯罪行為をするあいつらの方が頭がおかしいだろう。


 別に鬼ごっこがおかしいとも思わないし、チェリーも何がおかしいのか気づいてないぞ。


 結果、俺達は普通・・だ。


 気絶している奴らに関しては、何度もビンタをすると目を覚ました。


 ビンタをする。


 回復魔法をかける。


 ビンタをする。


 回復魔法をかける。


 このループで気絶したやつを起こせることを知った。


 これからユーマが気絶しそうになったら、ぜひ試してみようと思う。


「おっ、そろそろ見えてきたぞ!」


 隣町に着くと入り口に人がたくさん集まっていた。


 みんなで泣いて抱き合っている。


「何かあったんですか?」


「ああ、子ども達が帰って……あぁ!」


「あぁ?」


「お前達どこに行ってたんだよ!」


 どうやら門番は俺達を探していたようだ。


 チェリーを探してくると伝えたはずだが、急いでいた影響で聞き取りづらかったのだろうか。


「本当にお前達に感謝している。子ども達が誘拐されて――」


「ああ、その犯人ならここにいますよ」


 俺の言葉にみんなの視線が一気に集まる。


 後ろに隠れようとしているが、大の大人が隠れられるわけがない。


「ハッヤイーナにストッカーまで……全員指名手配中の奴らだぞ!」


 どうやら話の内容からして、結構な極悪人を捕まえたようだ。


 ハッヤイーナとストッカー。


 この世界って変わった名前が多いのだろうか。


「それにしてもあいつらってあんなに小さかったか?」


「すげー、震えているぞ?」


「それだけあいつが怖かったってことじゃないか?」


「ああ、きっとそうだ。紐が体に食い込んでいるからな」


 なぜか俺が怪しいやつだと思われている気がする。


 それに紐が食い込んでいるのは、ただこいつらが太っているだけだ。


 誰だって腹が出ていたら、段の隙間に紐は食い込むはず。


「とりあえずこいつらを預かっても良いか?」


「別に良いですけど、すぐに逃げていこうとするので気をつけてください」


 目を覚ましてから悪党達はすぐに逃げようとしていた。


 まぁ、捕まったら誰だってそうするだろう。


 鬼ごっこだって鬼が交代したら逃げるからな。


 今にも逃げていきそうな男達を紐で引っ張る。


「鬼畜! お前は悪魔だ!」


「うるさいぞー」


 少しうるさいハッヤイーナの紐を少し強めに引っ張る。


「ひょっとしたらあいつが一番の悪党じゃないか?」


「鬼畜に悪魔だぞ?」


「俺は社畜です!」


 ちゃんと聞こえるように、後ろから回って耳元で呟いた。


「ヒイイィィィ!?」


 本当のこと言ったのに驚かれたようだ。


 それはそれで悲しくなってくる。


 そろそろ帰ろうかな。


「チェリー帰ろうか」


「えっ……お兄ちゃん!?」


 なんか色々言われて悲しくなってきたな。


 俺はここに何をしに来たのだろうか。


 そう思いながらも、俺は自分達が住む町に帰ることにした。


 ♢


「課長!」


「なんだ! また問題が起きたのか!」


 俺は部下から話しかけられるたびに、最近あいつの顔がチラついてしまう。


 ただのNPCなのに、俺達の仕事の邪魔をする。


 その名は〝社畜のヴァイト〟だ。


 ああ、二つ名が可哀想すぎて、運営としてはどうにかしてあげたいが、あいつだけいじれないのだ。


「はーせーがーわー!」


「はい! まだ・・パスワードがわかりません」


 その原因は部下の長谷川が、キャラクターごとにある設定パスワードを忘れてしまったことだ。


「どこまで覚えているんだ!」


「えーっと……あっ……ダメ動いちゃ――」


「言わせねーよ!!」


 俺が長谷川にパスワードの設定を任せたのが間違いだった。


 この間は魔族側に問題があってパスワードを入力したが、〝俺の一番奥を――〟ああ、俺の心が抉られる。


 そもそも長谷川にその仕事を任せたのは誰なんだ!


「ああ、俺が任せたんだよ!」


 俺は一人で項垂れる。


 このままだと俺は解雇されることになるだろう。


 NPCが成長し過ぎて止められないからな。


「それで課長……」


「なんだよ!」


「実は今後使う予定で用意していた悪党がヴァイトに捕まってしまいました」


「なあああああにいいいい!」


 今のイベントが終わったら、次は奴隷解放をプレイヤーである勇者達がするはずだった。


 それを先回りしてヴァイトがクリアしたという、まさかの展開に俺はもうその場で崩れ落ちるしかなかった。


 誰か俺を慰めてくれよ……。


「最近課長って元気になりましたね」


「それは私のおかげ――」


「それはないです! そもそも課長のイケボでBLセリフを言わせたいだけで、BLパスワードにするのやめてくださいよ」


「それなら君が言う?」


「言いません!」


 今日もこの部署は、元気にゲームの運営をしています!


 残業バンザーイ!


 先回りしてイベント用意しておくのはやめようかな……。

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