第52話 NPC、妹ができる
朝に仕込みをしてチェリーのデイリークエストを終えたら、急いで冒険者ギルドに向かう。
「ヴァイトさん、恥ずかしいです」
「それは我慢しなさい」
ここは師匠らしくかっこよくいかないとな。
俺は何も気にせずに冒険者ギルドへ向かう。
「おいおい、朝から何やってんだよ!」
「弟子の指導です!」
ただ、こんな状態だからいくら頑張っても斥候のスキルは発動しないし、斥候のデイリークエストはクリアできない。
町の人達が俺達の姿を見て声をかけてくる。
レックスやユーマを肩に担いでいる時は何も言ってこなかったのにな……。
さすがに女性だと気になるのだろうか。
俺は冒険者ギルドに着くと、早速訓練場に向かった。
戦闘職のデイリークエストなら、店の裏とかで剣を振れば良いと思うだろう。
だが、チェリーの力では木剣くらいしか振れないのだ。
STRも10とステータスポイントがもらえるまで固定されているからな。
「よし、回復魔法をかけながらやるからな」
俺はチェリーに木剣を渡して素振りをさせる。
その間はずっと回復魔法をかけていく。
一緒に俺も魔力のコントロール練習ができるから、これも良い訓練になりそうだ。
「おい、ヴァイトのやつまた変わったこと始めたな」
「社畜を効率よく製造する気なんでしょうね」
遠いところからジェイドとエリックが見ているが、今はそんなことは気にしている時間はない。
今は弟子を一人前にすることで精一杯だからな。
「体は疲れるか?」
「いえ、ずっと心地よい感じがして、逆に素振りがしにくいです」
「なぁ!?」
俺は一旦回復魔法を止める。
逆に回復魔法が妨げになって――。
「いやあああ!?」
倒れそうになるチェリーを受け止める。
回復魔法の影響でどうにか木剣を振り続けていたようだ。
急に回復魔法がなくなって、力が抜けたのだろう。
思ったよりもチェリーの体は弱いようだ。
「あいつ絶対抱きつくために、魔法を止めたよな」
「そういう年頃ですからね」
本人達は気づいていないだろうが、ジェイドとエリックの言葉は俺の耳に聞こえている。
さすがに意図的にセクハラをしていると思われたらいけないからな。
「お・に・ごっ・こ」
口パクで伝えると、俺はにこりと微笑む。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
ジェイドには伝わらなかったが、エリックには伝わったのだろう。
「おっ、おい!? どうしたんだ?」
エリックはジェイドを引っ張って、訓練場を後にした。
これで邪魔者はいなくなった。
「あのー、ヴァイトさん? そろそろ離れても……」
「ああ、すみません!」
師匠達に気を取られて、ずっとチェリーを支えていたことを忘れていた。
「これはセクハラではないからな」
「大丈夫ですよ?」
「あっ、すみません」
どうやら口に出ていたようだ。
中々弟子との距離感は難しいな。
ただ、ずっと回復魔法をかけていないといけないことがわかった。
「とりあえず力が続く限りは戦闘職を主にクリアしていこうか」
「はい!」
その後も弓を放ったり、盾で攻撃を防いだりとやってみたが、中々全てをクリアすることは難しかった。
お昼の営業時間が近づいてきたため、俺達は店に戻った。
「おっ、社畜兄妹帰ってきたか!」
「社畜兄妹?」
「ああ、なんかお前達見ていると師弟関係より兄妹に見えるからな」
確かに年齢的にはさほど大差はないような気がする。
チェリーは胸と身長だけ成長しているが、顔はどことなく幼いからな。
「お兄ちゃんか……」
そんなチェリーは少し嬉しそうに微笑んでいた。
俺にも優しい兄思いの妹がいた。
久しぶりにお兄ちゃんと言われて、懐かしく感じる。
「別にお兄ちゃんと呼んでもいいけど?」
「へっ……?」
「あっ……」
どうやらまた思っていたことが口から出てしまったようだ。
さっきも思ったが、チェリーといると先に口が動いてしまう。
魔物を相手にした時に勝手に体が動くのと、少し似ている感覚だ。
気が知れている人だから、言葉を選ばなくても良いというやつだろうか。
出会ったばかりだが、バビットと同じ家族のような雰囲気をチェリーからは感じる。
「なら……お兄ちゃん?」
「うん」
せっかくお兄ちゃんと呼ばれたが、俺は返事しかできなかった。
さすがにちょっと恥ずかしいかな。
ああ、咲良は今頃何をしているだろうか。
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