第37話 NPC、鬼畜ルーキーと呼ばれる
夜の営業のために店に戻ると、冒険者達も集まっていた。
その中にジェイドやエリックもいる。
まだ営業前に店で何をやっているのだろうか。
「おっ、鬼畜ルーキーが来たな」
「なんですかそれ?」
「新しいヴァイトの呼び方ですよ」
どうやら勇者達には鬼畜野郎って言われているのに、冒険者からは鬼畜ルーキーと呼ばれているらしい。
どちらも違うことが俺としては残念だ。
「それでこんなに集まって何かあったんですか?」
店に来ているのは訓練場で見たことある冒険者達だった。
一瞬、勇者達が一人前になったことを喜ぶお祝いかと思ったが、雰囲気はそんな感じではなかった。
「町を襲った魔物が今森の中で暴れているからな。そいつらをどうするか話し合っていたところだ」
「ひょっとして武器を壊されたのはジェイドさん達ですか?」
「ああ、俺の大事に使っていた剣が一瞬で溶かされたからな」
ボギーが言っていた剣が早く欲しいって言っていたのはジェイドだった。
他にもここにいる冒険者の全員が武器を失っていた。
俺を追いかけてきた時にそんな能力を一切見せなかったのは、やはり強者の余裕ってやつなんだろうか。
町を襲っている時も楽しんでいたぐらいだからな。
「次討伐に行く時に俺も手伝いましょうか? 遠くからの援護射撃ぐらいならバビットさんも心配しないだろうし」
「あいつに矢は通らなかったぞ?」
「剣も通りにくい体をしているから、ヴァイトでも大変そうだよ?」
あの時はSTRが低かったのもあるが、俺の作った剣が未熟だったのもあるだろう。
全く刃が通らなかったのは俺も記憶に残っている。
「俺が使っているのはこの矢なので大丈夫ですよ」
俺がさっきも作っていたショートランス型の矢を取り出すと、冒険者達がざわめき出した。
「本当にこれを放ってるのか?」
「本当はもっと槍のように長く鋭い形にしたかったですが、コスト面も高くなりますし、持ち運びがめんどくさいですからね」
「ちょ、気にするのはそこじゃなくて、ヴァイトは槍を投げようとしたんですか?」
「はい! 槍を投げるのは一本しか無理なんで、矢として放ちたかったんですよね。五本までなら同時に放てますからね」
俺はこの場にいる弓使いの師匠に尋ねると、困った顔をして頷いていた。
ちなみに師匠は俺よりも的確に矢を多く放ってるぞ?
「なんか魔物側からしても鬼畜ルーキーだな……」
「戦い方が独特なのは気づいていたけど、そこまで鬼畜だったのね……」
なぜか効率重視で安全に戦えると思っていたのに冒険者達に引かれてしまった。
そもそも俺が使っているショートランス型の矢は弓使いの師匠でも放つこと
実際に放ってもらったときは、全く飛ばずに軌道がずれていた。
それでも練習していたらしっかり飛ぶようにはなった。
実戦でゴブリン相手に使えたぐらいだからね。
STRとDEXが同じぐらいなのが、きっと変わった弓矢を放つのに影響しているのだろう。
それに武器職人でもあるからこそ、構造自体を理解して軌道修正ができたりするのかもしれない。
「それならあいつらを見張ってもらうべきか?」
「あいつらって……?」
「あのおバカ勇者達だ」
どうやら冒険者達も勇者のことをバカだと認識していたようだ。
いや、バカなのはユーマだけな気がするが……。
♢
「ハップション!」
「あんたってくしゃみもバカぽいね」
「さすがにくしゃみがバカぽいってないだろう」
「きっとユーマがバカだって噂しているんだね」
「アルまで俺をバカ扱いするのかよ!」
♢
「それでまた勇者達がやらかしそうなんですか?」
「ああ、今度はレイドバトルだああああ! って叫んでいたぐらいだね」
レイドバトルってなんだろうか。
俺はわからず首を傾げていると、準備を終えたバビットが教えてくれた。
「みんなで共闘することだな。ちなみに俺はそこにヴァイトが参加するのは反対だぞ」
バビットとしては危険な場所に俺を行かせたくないのだろう。ただ、俺としては勇者達に付いて行った方が良い気がしてきた。
「行ったらダメですか? 勇者達って命を粗末にするので、俺としては見過ごせないです」
ユーマ達なら逃げる手段を身につけたから問題はないだろう。だが、他の勇者達は別だ。
あまり関わっていないからわからないが、ユーマ達を見ているとゲーム感覚なのは間違いないだろう。
俺としてはそんな勇者を守るためにも……いや、命を無駄遣いしないためにも行かないといけない気がした。
正直、勇者達がどうなろうがどっちでも良い。ただ、今日ユーマ達が言っていた勇者の中では上位に入るという言葉が引っかかっていた。
もし、本当に勇者達が共闘するならあいつらは呼ばれるだろうし、参加する気がする。
この世界に生まれ変わってできた友達を俺は簡単に見殺しにはできない。
「はぁー、頑固なところまであいつに似ているからな」
俺の顔を見たバビットはため息を吐いていた。
ポンっと頭に手を置くと優しく撫でた。
「無理するなよ」
どこか鼻詰まりぽい声が聞こえたが、頭を撫で終えると調理場に戻って行った。
「すぐに俺達も向かうから、ヴァイトは見てるだけでいいぞ」
「僕もすぐに追いかけるので大丈夫です」
「そもそもあのバカ達を止められたら良いんだけどな」
「俺からも声をかけてみますね」
そう思っていた晩に勇者達は魔物の討伐に向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます