第29話 NPC、ヒーローになる
あれから町の中の雰囲気も少しずつ落ち着いてきた。
勇者の中でも良い人と悪い人の線引きができたのかもしれない。
「おーい、ヴァイト! 模擬戦しようぜー!」
「朝からバカはうるさいな」
「おい、またバカって言っただろう」
「いや、寝言だ」
「それは言ってるじゃないか!」
俺の日課の中で、毎朝ユーマが呼びにくるようになった。
その理由は俺と模擬戦をしないといけないからだ。
見習い拳闘士から拳闘士に転職するのに、同系統の戦闘職と戦う必要がある。
師匠であるレックスが模擬戦をしてくれないため、俺に頼るしかなかったのだ。
ちなみに俺もだいぶ成長した。
【ステータス】
名前 ヴァイト
STR 100 +51
DEX 100 +51
VIT 100 +69
AGI 100
INT 100 +50
MND 100 +40
【職業】
♦︎一般職
ウェイター13 +4
事務員10 +4
販売員9 +3
音楽家3 +3 NEW
踊り子3 +3 NEW
♦︎戦闘職
剣士15 +5
魔法使い14 +5
弓使い12 +5
斥候11 +5
聖職者8 +5
拳闘士6 +5
ガーディアン4 +4 NEW
槍使い4 +4 NEW
♦︎生産職
料理人15 +5
解体師14 +5
武器職人11 +4
防具職人9 +4
魔法工匠8 +4
薬師6 +5
裁縫師3 +3 NEW
陶芸家2 +2 NEW
ステータスに関しては全てが大事だと思い、統一する方向性にした。
力仕事にはSTR。
精密作業にはDEX。
たくさん働く元気な体作りのVIT。
効率よく動くためのAGI。
物覚えを良くするINT。
全てのステータス全てがバイトニストには必要になる。
ちなみにこんなステータスの俺とユーマが模擬戦をすると――。
「ありゃー!」
すぐに飛ばせるだけの力差ができていた。
勇者って思っているよりも弱かった。
基本的に見習いから普通の戦闘職に転職すると、魔物を倒すことでレベルが上がって強くなるらしい。
どことなく勇者だけがゲームの主人公のようだ。
「おっ、これで俺も拳闘士になったぞ!」
「はぁー、やっとバカの子守りも――」
「また俺のことをバカって言っただろう!」
俺に投げられても楽しそうに戻ってくるユーマもかなりの変わり者だろう。
ちなみにいつも一緒にいた勇者の二人は先に転職して、冒険者として町の外で魔物を倒しているらしい。
「そういえば、ヴァイトは冒険者として活動しないのか?」
「俺か? いや、俺はまだどこのギルドにも所属していないからな」
いまだに職業体験をしているため、どこのギルドにも所属していない。
色々な師匠にそろそろギルドに入れと言われるが、職業体験をすればするほどギルド所属が遠のいていく。
どの職業も魅力的なのが問題だ。
「よし、じゃあ俺は次のところに行ってくるからな!」
「おっ……おい! せっかくお礼に飯でも奢ってあげようかと思ったのにな」
訓練場にはたくさんの勇者達がいて、ユーマの声は俺には聞こえなかった。
冒険者ギルドでのデイリークエストを終えると、生産街に向かう。
その時の移動は誰にも見つからないように、素早く移動しながら時折り華麗なステップと口笛を忘れない。
ちなみに華麗なステップと口笛を吹くと、踊り子と音楽家のデイリークエストがクリアとなる。
「おっ、ヴァイト来たか!」
俺が向かったのはブギーがいる武器工房だ。
「最近、ブギー小さくなった?」
「いやいや、お前が急成長したんだろ!」
VITにステータスポイントを振ったら、体が丈夫になるとともに身長も高くなった。
今は170cm前半ぐらいあるだろう。
元気な体は何をするのにも必要になるからな。
「今日も工房借りて良い?」
「ああ、他のやつも勝手に使うからいいぞ」
ブギーのところでも、やっと勇者の弟子を取るようになった。ただ、いつもいるわけではないため、その隙間時間に俺は来るようにしている。
「今日は小さな槍を作ろうと思ってね」
「ショートスピアのことか?」
俺はショートスピアをいくつか作る予定だ。ただ、使い方は普通のショートスピアではない。
例えば、弓で矢を放つと弓使いのデイリークエストがクリアできる。
それでこの間試しに槍を矢を放つみたいに、弓を構えて放ってみたら、弓使いと槍使いどちらもカウントされていた。
実際にそれで問題ないなら、矢ではなく突き抜けるようなイメージの小さな槍を投げるのはどうかと思ったのだ。
「またおかしな物ができそうだな」
ブギーからしたら俺の考えることが変わっているのだろう。
そもそも矢の代わりに槍を放とうとする考えが特殊のようだ。
「作るのも簡単だから良さそうじゃない?」
「矢とは違って
「それはやってみないとわからないからね」
最悪一本ずつしか使えないが、槍投げのように使えば問題ないだろう。
俺は簡単に図面を描いて早速作っていく。
ステータスの影響か前よりも考えたものが作りやすくなった。
ここでもDEXだけではなく、INTやMNDが関わっているのだろう。
「筒状にした鉄の先端尖らせれば似たような構造になるのかな」
イメージとしては先を尖らせた鉛筆だ。
槍の構造だと先端の穂の形状によっては、突き刺しても、突き抜けずそこで止まるだろう。
ハンマーで叩きながら先端を調整していく。
「師匠、あの方ってヴァイトさんですか?」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「いや……今勇者達の中で話題の人なんですよね」
作業をしていると微かに俺の名前が聞こえてきた。ただ、ハンマーの音によってかき消されてしまう。
「ワシらの中でも社畜だって話題だぞ?」
「えっ……社畜なんですか……」
「あいつ色んなところで弟子をやっているからな」
「たしかにどこにいるかわからないって言われてますよね。勇者達は彼の影響で緊急クエスト……いや、町の人達との関係を修復できたのもあるから、ヒーローみたいな扱いですよ」
「ははは、勇者のヒーローって面白いな」
俺はできたショートスピアの矢をブギーの元へ持っていく。
「これなら使えそうかな?」
「あー、ショートスピアとは違うけど大丈夫じゃないか」
どうやらブギーが思っているショートスピアとは、少し形が違うのだろう。ただ、使ってみないとわからないし、俺には次のデイリークエストがあるからな。
それに隣にいるブギーの弟子が、俺を見てなぜか珍獣を見るような目をしていた。
「じゃあ、次のところに行ってくるわ」
「まだ働くのか?」
「あとは工房三つ行ったら、店に戻って夜の営業準備をして、そのあとはユリスのところでポーションの作り方を聞いてくる」
「はぁー」
なぜかボギーは俺の話を聞いてため息を吐いていた。
俺としては店の営業後に、寝るまでの時間があるから、新しいデイリークエストを探したいぐらいだ。
どこか居場所が悪くなった俺は、すぐに次の工房に向かうことにした。
「ほら、あいつ社畜だろ?」
「この世界にも社畜って存在しているんですね……」
勇者がキラキラした目から遠くを見つめるような目に変わったことを俺は知ることもなかった。
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