第12話 NPC、社畜道を突き進む

 全ての職業になると決意してから、俺は自制するのをやめた。


 スケジュールも細かく時間で分けて、社畜人生真っしぐらに突き進んでいる。


 何事も全力疾走だ。


 いや、物理的に全力疾走でもある。


 朝の日課であるデイリークエストの確認とステータスチェックは欠かせない。


【デイリークエスト】


 ♦︎一般職


 職業 ウェイター

 料理を10品以上運ぶ 0/10

 報酬 ステータスポイント3


 職業 事務員

 ギルドの仕事を5件処理する 0/5

 報酬 ステータスポイント3


 職業 販売員

 お店の品物を5品売る 0/5

 報酬 ステータスポイント3


 ♦︎戦闘職


 職業 剣士

 剣を10回素振りをする 0/10

 報酬 ステータスポイント3


 職業 魔法使い

 精神統一を10分する 0/10

 報酬 ステータスポイント3


 職業 弓使い

 弓を10本放つ 0/10

 報酬 ステータスポイント3


 職業 斥候

 人に見つからずに目的地まで1回移動する 0/1

 報酬 ステータスポイント3


 ♦︎生産職


 職業 料理人

 料理を1品作る 0/1

 報酬 ステータスポイント3


 職業 解体師

 魔物の解体を1体解体する 0/1

 報酬 ステータスポイント3


 職業 武器職人

 武器を1回作る 0/1

 報酬 ステータスポイント3 


 職業 防具職人

 防具を1回作る 0/1

 報酬 ステータスポイント3


 職業 魔法工匠アークジュエリアー

 魔法アクセサリーを1回作る 0/1

 報酬 ステータスポイント3


 これだけやることがあれば社畜道まっしぐらと言われても仕方ない。ただ、普通に生活していても夜には全てのデイリークエストは終わってしまう。


 それに12種類もあるから、毎日楽しく職業体験ができている。


 ええ、まだギルドには所属せずに職業体験をしているニートのようなものだ。


 いや、名前のヴァイトに似て〝バイトニスト〟と言っても良いのかもしれない。


 最近だと周りの人達から、止められるようになってきたからな。


 ちなみにステータスはこんな感じだ。


【ステータス】


 名前 ヴァイト

 STR 37 +21

 DEX 35 +20

 VIT 10

 AGI 65 +30

 INT 10

 MND 50 +40



【職業】


 ♦︎一般職

 ウェイター6

 事務員3

 販売員3


 ♦︎戦闘職

 剣士6

 魔法使い5

 弓使い3

 斥候3


 ♦︎生産職

 料理人6

 解体師5

 武器職人4

 防具職人3

 魔法工匠2


 だいぶステータスは偏っているが、バイトニストたる者、精神力が強くないといけないからな。


 基本的には素早く物事を済ませて、何をやっていても楽しいと思える精神力が大事だ。


 最近は考え方も社畜になったとバビットが言っていたが、そんなつもりは全くないからな。


「おはようございます!」


「おい、今日は休んでも良いぞ? 肉パンの肉はできているからな?」


「それならあとは作るだけですね!」


 俺はいつものようにパンに肉とサラダを詰めて、テリヤキジュレをかけていく。


 ちなみにてりやきジュレは一気に作って、保存しているため時間も削減できている。


「ああ、今日も無理なのか……」


 俺としては楽しんでいるし、バビットも時間ができるから一石二鳥だと思っている。


 できた肉パンを持って、俺は店外に移動する。


「肉パンの販売を始めます」


 ちなみに肉パンの販売を始めたら、販売員という職業が出てきた。


 事前に渡してある竹のような構造になった丸い容器に肉パンを入れていく。


「ジェイドさん、ちゃんとお金は入れてくださいね」


「今すぐヴァイトは冒険者になれよ!」


 俺の隣に置いてある皿にお金を入れる仕組みになっているが、お金を入れたかどうかも見ている。


 ステータスの影響で視野も少し広くなったのかな?


 時折ジェイドがこうやって冒険者ギルドの勧誘に来るが、いつも聞き流している。


「体を崩さないようにね。むしろ教会で回復属性魔法で――」


「ああ、ヴァイトは気にしないでくれ!」


 この町には教会が存在しているらしい。


 そこでも俺の才能が活かせるのだろうか。


 まだ教会を見たことはないが、どこにあるのか斥候の職業体験をしながら探しても面白そうだ。


 ジェイドはエリックの口を塞ぐと、そのまま外に依頼をしに行った。


 肉パンを売り終えると、俺はすぐに昼の営業の準備をする。


 って言っても前日に肉の味付けはしてあるし、サラダも肉パンを作る時には準備はしている。


 バビットはやることがなくて、俺が働いているのを呆然と眺めていた。


 最近、髪の毛が薄くなってきた気がするが、そんなに悩みがあるのだろうか。


 これも視野が広くなって気づいたことの一つだ。


「ちょっと冒険者ギルドに行ってきますね」 


「おい、もうちょっと休んだら……あいつ働き過ぎだぞ……」


 この空いた時間を使って、俺は冒険者ギルドで依頼の処理や訓練場で素振りをしている。


「ヴァイトくん、依頼の処理を手伝ってもらえますか?」


「わかりました」


 そのまま受け付けに入ると、冒険者達が次々と並んでくる。


 本当に町の外に魔物が増えたのか、冒険者全員が魔物の討伐に向かっていく。


 何か悪いことが起きなければ良いが。


 俺は事務処理をしながら、精神統一を忘れない。


 最近は人の魔力のようなものも感じるようになってきた。


 それで大体の強さがわかるため、依頼に適さない人は止めたりしている。


 聞いた話ではこの周辺は弱い魔物ばかりだから、問題はないだろう。


「手伝ってくれてありがとう」


「いえ、次は訓練場に行ってきますね!」


 事務処理が終われば、すぐに裏にある訓練場に向かう。


「お茶を入れたから休憩――」


「ヴァイトくんなら、すでに訓練場に向かったわよ」


 冒険者ギルドの職員が何かを話していたが、俺の耳には聞こえなかった。



 訓練場に着いたらあとは効率重視だ。


 最近は弓矢を同時に数本放てるようになったし、剣も二刀流で素振りをすると一回振ったら二回換算されることがわかった。


「おーい、今日も解体していくか?」


 俺が訓練場にいると、解体師から声がかかる。ただ、未だに苦手なのがこの解体作業だ。


「そんなにビクビクしなくても死んでるぞ?」


「だって痛そうじゃないですか!」


 力はSTRの影響で特に問題ない。しかし、皮を剥いだり肉を切り分ける作業が一番苦手だ。


「やっぱり今日はここまでにします」


「ははは、ヴァイトはまだまだだな」


 一体だけ解体を終えたら、俺は店に戻らずに生産街に向かった。


 そこでできるだけ作業を進めて、残りは店の昼休憩中に完成させて終わりだ。


 俺のルーティンなんてみんなができるようなことだろ?


 夕方の時間も空いているから、何か新しい職業体験でも探してみようかな。


 さっき言っていた教会も住居街にあるかも知れないしな。


 俺はこの時まだ気づいていなかった。


 始まりの町にいる社畜NPCと呼ばれる存在が誕生していたことを――。

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