超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

k-ing@二作品書籍化

第一章 はじまりの町

第1話 NPC、生まれ変わる

 視界がだんだんとボヤけて、聞こえる声も遠く感じてきた。


「お兄ちゃん、今日はプレゼントを持ってきたよ」


 妹が何かを話しているのはわかる。ただ、俺にはそれがなにを言っているのかわからない。


 俺は小学生の時に難病になった。


 力はどんどんと無くなっていき、病気の進行が早い影響か中学生の時には寝たきりになっていた。


 正確にいえば中学校にもいけていないため、中学生にもなれていない。


 幼い頃に元気いっぱいに走ったのが懐かしく感じるぐらいだ。


「これをつけたらご飯も食べられるし、走ることもできるんだよ」


 どこか妹の咲良さくらは嬉しそうだ。


「しゃ……」


 俺は必死に咲良の居場所を探そうとするが、俺の手はもう指すらも動かなかった。


 これも息が漏れるだけで、言葉にもならない。


 鼻からは人工呼吸器がついており、腕には点滴がついている。


 俺は様々な機械と管で生かされていた。


「私もこれでお兄ちゃんと走って遊ぶんだ」


 楽しそうな咲良の声を聞きながら、疲れた俺はゆっくりと眠りにつくことにした。


 ♢


 生臭いにおいが鼻を突き抜けていく。


 臭いにおいを感じたのはいつぶりだろうか。


 そもそも人工呼吸器をつけてから、あまりにおいを感じたことがなかった。


「おい、起きろ!」


 俺は突然感じた頬の衝撃で目を覚ました。


「はぁ!?」


 どうやら俺は外にいるようだ。


 周囲はレンガ調の建物ばかりで、こんな町は見たこともない。


 いや、そもそも外にいることすらおかしいのだ。


 俺はさっきまで病室でぐったりと寝ていたはずだ。


「お前みたいなやつがいたら掃除もできないだろ!」


 隣を見たら恰幅が良い男が立っていた。


 掃除の道具を持っており、俺がその邪魔をしていたようだ。


「すみません!」


 俺は急いで立ち上がった。


 あれ……?


 簡単に立ち上がれたぞ。


 それにちゃんと声が出ている。


 訳のわからない状態に俺は混乱しながらも、手を見るとちゃんと動いた。


 顔も動くし、足もその場で動く。


 何と言っても歩くことができたのだ。


「ヒィヤッホオオオー!」


 ついついその場で大きな声が出てしまった。


「うるさいぞ!」


「痛っ!?」


 あまりにもうるさくしていたのか、男に俺は叩かれた。


 それすらも俺は嬉しく感じてしまう。


 痛みを感じたのだ。


 どれだけ触れられても、叩いても感じなかった感覚を今は感じる。


 当たり前だったことが、当たり前じゃなくなった時に俺は毎回絶望を感じていた。


 次第に心臓の筋肉も動かなくなり死んでしまう。


 そんな未来を小学生の時に伝えられた。


 死という現実とはほど遠かった存在が、少しずつ近づいているのを毎日感じていた。ただ、死んだ後の世界がこんなに幸せだとは思わなかった。


「おい、泣くことはないだろ! 優しく叩いたつもりだぞ?」


 どうやら俺は嬉しくて泣いていたようだ。


 何度も涙を拭っても、涙が溢れ出てきてしまう。


 涙を自分で拭うこともできなかったからな。


「はぁー、みんなも見ているだろ。こっちに来い!」


 俺は男に無理やり連れていかれ、家の中に入っていく。


 どこか飲食店のような雰囲気をしており、俺は椅子に座らされた。


「俺は汚いから――」


「黙って座れ」


 少し横暴な男だが、どこか優しさを感じる。


 しばらくすると、鼻を突き抜ける香辛料の匂いを感じた。


――グゥー!


 俺のお腹は空腹なのか音が鳴っていた。


 空腹を感じるのはいつぶりだろうか。


 点滴で栄養を摂取していたため、空腹を感じることすらなかった。


「どうせお前は孤児だろ」


 男は丼のような器に並々とスープを入れて持ってきた。


 すでに匂いで俺のよだれは止まらない。


「あんなところにいたら邪魔だからな。冷めないうちに食べろ」


 そう言って男は外に出て掃除を始めた。


 一人残された俺はスプーンを手に取る。


 スプーンをしっかり持てただけでも、俺は嬉しくて笑いが止まらない。


 溢れないようにゆっくりとスープを掬い、口の中に入れる。


 喉を流れていく感覚に自然と笑みが溢れ出てくる。


 俺が最後に食べられたのはトロミがついてあるものだけだったからな。


 何もかもグチャグチャにされて、トロミをつけて誤嚥しないようになっていた。


 それでも肺に入って肺炎になってしまうぐらいだ。


 それだけ俺の体は弱っていた。


 健康な体は俺にとってはありがたいものだ。


 久しぶりの美味しい食事に俺は必死にかき込んでいた。


「おいじいよおおおお」


 そんな俺の姿を見ていたのだろう。


 クスクスと笑い声が聞こえてきた。


「おいおい、笑うか泣くかどっちかにしろよ」


「へっ?」


 どうやら俺は嬉しくて笑いながら、感動して泣いていたらしい。


 絶対情緒不安定なやつに見えていただろう。


 食べることに集中して全く気づかなかった。


「そんなにうまいなら毎日食わしてやるから、早く体を洗ってこい」


 食べ終わった俺は再び男に裏庭のようなところに連れて来られた。


 そこには桶の中にお湯を入れ、タオルのような布を渡された。


 この世界にはお風呂がないのだろうか。


「洗い方もわからないのか?」


「あっ、大丈夫です」


 俺の着ていた服はほとんどが破れていた。


 破れて着れなくならないように、しっかり畳んで置いておく。


 貧相な体は前と変わらないようだ。


 俺は桶の水を覗くと、そこには黒髪の少年が映っていた。


 見た目は全く異なるが、年齢的には中学生ぐらいだろう。


 俺は高校生ぐらいの時に亡くなったから、少し若返ったぐらいだ。


 生まれ変わるなら赤ちゃんからだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


 確かに幼い時の記憶はあまりないため、途中から生まれ変わってもおかしくないのだろう。


 俺は布を手に取ってお湯に浸けると、体を拭いていく。


「汚いな……」


 男は俺のことを孤児と言っていた。


 孤児って親がいない子どものことを言うのだろう。


 生まれ変わった俺は親もいない子どものようだ。


 ただ、これだけ元気な体があれば何でもできるような気がした。


 前世ではほぼ何もできなかったからな。


 心残りなのは俺も妹の咲良と遊びたかったことだ。しかし、それも叶わずに俺は死んでしまった。


 何度も何度も布で拭くと体は綺麗になった。ただ、元々着ていた服を着たら、またすぐに汚れてしまう気がした。


「すみません。何か布はありませんか?」


 俺は男に声をかけると、食事の準備をしていた。


 やはりここは飲食店か何かなんだろう。


「ああ、すまない。服ならあいつのがあるからな」


 そう言って男は二階に上がって何かを取りに行っていた。


 さっきまで混ぜていたのに、火をつけたままにしていた。


 焦げるといけないと思った俺は、そのまま近づき鍋の中を混ぜる。


 良い匂いが厨房に広がっており、またお腹が空きそうだ。


「おい、服を……お前何やってるんだ!」


 俺はやってはいけないことをやったと思い、すぐに手を離した。


 男の顔は怒っていた。


 さすがにお客さんに出すものを孤児の俺が触ったのが気に食わなかったのだろう。


 そう思っていたが男は違った。


「裸で火傷でもしたらどうするんだ!」


「へっ!?」


「火傷したら痛いんだぞ! 早く二階に行って服を着てこい」


 どうやら火傷のことを気にしていたのだろう。


 俺は勘違いをしていたようだ。


 体は冷えていたはずなのに、優しい言葉に俺の体はポカポカとしていた。



 服を着ると明らかにサイズは大きかった。


 それでも袖と裾を捲れば、特に問題はないだろう。


 孤児の俺に服を貸してくれるだけでもありがたいことだ。


 俺も何か今日の恩返しをしたいと自然に思った。


「あのー、着替えたので……」


 一階に降りていくとすでにお客さんが来ているのか、バタバタとおじさんは動いていた。


 一人で作ってはお客さんに持って行ったりと、とにかく一人で全てをこなしていた。ただ、それをこなすのにも限度があるのだろう。


「おじさんこれどこですか?」


 俺は台に置いてある肉料理を持つと、そのままおじさんに声をかける。


「いや、お前は……それは一番奥の男二人だ」


 初めは難しそうな顔をしていたが、やはり一人では無理だと感じたのだろう。


 俺は言われた通りに奥にいる男二人に肉料理を運ぶ。


 これも美味しそうな匂いがして、よだれが出てきそうだ。


「お待たせしました」


 俺はテーブルに料理を置くと、男達は俺の方を見ていた。


 いや、俺の方が見ていたのかもしれない。


 この世界には鎧を着て、剣や杖を持っている人がいるのだ。


 そんなものを見て興味を持たない男子はいないはずだ。


「俺らのことが気になるのか?」


「はい! めちゃくちゃかっこいいです!」


 小さい頃にごっこ遊びでよく木の枝を振り回していたのも懐かしい。


 それもすぐにできなくなったからな。


「ははは、そうか。よかったらここに座ったらどうだ?」


 男達は椅子を出してくれたが、今は働いている最中だ。


 すでに台の上にはたくさんの料理が置かれていた。


「すみません。お話しはまた今度でお願いします。きっと美味しい料理なので熱々の時に食べてくださいね」


 俺はその場をすぐに離れた。


 お客さんならきっとまた来てくれるだろう。


 そう思いながら俺はおじさんに言われた通りに料理を運んだ。


 初めてアルバイトをやる感覚だったが、何も気にせずに動ける体に俺は全てが楽しく感じた。



 仕事が終わると男はたくさんの料理を作って、俺の前に持ってきた。


「今日は助かった」


「いえいえ、スープと服の恩返しができたのでよかったです」


「そうか……。なら、もっとたくさん食べろよ」


 目の前にはたくさんの料理が並べられていた。


 どれも俺が運びながら食べてみたいと思っていた料理だった。


 ずっとお腹の音は鳴っていたし、よだれも出そうになっていたが、必死に止めていた。


「食べて良いんですか?」


「ああ」


 俺は手前にあった肉料理を口に入れると、肉汁が溢れ出てきた。


 肉ってこんな味だったんだ……。


 久しぶりの感覚にまた泣きそうになってしまう。


「ははは、今食べたな」


「へっ……!?」


 男は俺の方を見てニヤリと笑っていた。


「それじゃあ、今日の夜も働いてもらおうかな」


「それって……」


「それで夜飯も食べたら明日も働いてもらうからな」


 どうやら俺は男に騙されたようだ。


 生まれ変わった世界で最高の食事と最高の宿。そして最高の人に出会えた気がした。


──────────

【あとがき】


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