防犯ブザー

 有事の際、周囲に助けを求めるために携帯している防犯ブザー。

まあ、実際に有事が起こることなんて稀で、ほとんどお守りみたいなものですよね。


 私、小学生の時一度だけ、本来の用途で防犯ブザーを使ったことがあります。


 ある日友達と下校中、突然後ろの方から知らないおじさんの叫び声が聞こえたんです。

 なんだ、と思って振り向くと、包丁を持った男が遠くから走ってくるのが見えました。

 びっくりしてすごく怖くて、とっさにピンを抜いたんです。


 

 電池が切れていたんでしょうか。ピンを抜いたら即座に鳴るはずの、あのけたたましい音が聞こえてきません。


 当然焦りました。このままではあの包丁で刺されてしまう。

でも、もうすぐそこに迫っていたはずの男の叫び声が聞こえません。


 恐怖で固く閉じていた瞼を開けて男の方を見ると、包丁を振りかぶったポーズのまま固まっていました。

 そうです、まるで時が止まったようでした。


 ぽかんとしていると、横の道からおじいさんが飛び出してきて、男を羽交い絞めにしました。


 男が取り押さえられたのと同時に、ピンを抜いたままだった防犯ブザーが思い出したかのようにけたたましい音を上げ始めました。


 

 あの一瞬、時が止まっていなかったとしたら、私は刺されて殺されていたのでしょうか。

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