第3話:汝の溜息は何味?
ヂュアンファンにずいと顔を覗き込まれながら唐突に受けた意味不明な誘いは、僕にとってはどこか魅力的に聴こえた。生唾を飲み込む。──が、いかにもなウマイ話の雰囲気を醸す様子に、僕は懐疑的な眼差しでヂュアンファンを見遣る。
「ッどうやってさ。まさか変な物を売りつけるつもりじゃないよな…、…ぼ、僕…お金なんか、無いんだからね……」
「イイえェそんなコトはァ、お代も結構ゥ!Let's take a breather──極上のひとときをォ。直ぐに分かるさ、少年ンん。いざ、もうひと吐きィい。この我輩シェフがっ…汝の溜息を材料に、気紛れメインをばァッ!とくと、舌鼓を打つが良いぞォお!」
「じゃ、じゃあ…よく分からないケド…────はあぁぁぁ………」
「キタキタ来た!!━━━━ピい〜ィい!」
消えぬ疑問符を抱きつつも、言われた通りに溜息を再び零すなり、先程まで無色透明だった僕の溜息がほんのりと桃色になって煙の如く立ち込める。
するとヂュアンファンは、カウボーイが投げ縄を振り回すように長い鼻をぐるぐるりと振り上げながら高いテンションで、これまた見た目に似合わぬ甲高い鳴き声を響かせた。
そして、テーブルクロスが剥がれんばかりの勢いで僕の溜息を根刮ぎ吸い尽くし、
「ンンん〜ッんん〜〜!Delicious!!──なんって深い味わいなのだ、ピリッと香ばしい並々ならぬ、人一倍の責任感ンん…。逆境でも懸命に踏ん張るコシの強さァ…。この根深く香るのは…ほぉう…思い遣りが滲んだ、甘美な心優しさァ…。ふむふむ、これは隠し味にイイぃ…。うむゥ!決めたぞえェ!」
そう言うや否や、鼻のエメラルドの球がパァーッ!と眩く光り、僕たちを包む景色が鮮緑に染まり、カーテンのように揺らめいた。まるでオーロラの中にすっぽりと入り込んでしまったみたいである。
幸福と希望を招くエメラルドの効果か、ひどく穏やかな気持ちになり癒されていく──非日常的な空間に惚れ惚れとしていると、再びヂュアンファンが鳴いた。
ボンッ!と机上の皿に現れたのは、どの料理にも当て嵌まらぬ、てらてらと艶めかしい橙色の琥珀のような固形物。光る綺麗なそれを恐る恐る指で突くと、熱々でモチッと指がめり込む程の弾力を帯びており、驚きのあまり指を引く。
その見た目は月桂樹の葉のリースに似て、中央には何かの肉のステーキに見える物が隆々と収まっている。鼻腔を擽るスパイシーな香りにそそられながら、瞳を興味津々に輝かせて。
「す…凄いよヂュアンファン!ほ、本当に食べて良いのか?うわ…、いただきます!」
ナイフとフォークで入れた切れ目からみるみると蜜が溢れてくる。大口に頬張りとろっと舌に広がると共に、体の五感全ての情報を司る
───きっと夕日を食べたら、こんな味なのだろう…夕焼けが内包するアンビバレントな
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