おまけ

 これまでの受賞作を読んでいえるのは、カクヨム甲子園は、高校生や若者を主人公にした児童文学作品の傾向がある。

 参加者である高校生が、それまでに読んできた小説は児童文学が多いと想像すれば、応募されてくる作品も児童文学に系統するものが集まりやすいのは当然である。

 また、選んでいるカクヨム側も、異世界転生モノやラノベ色の強い作品より、高校生や若者を主人公にした児童文学作品っぽいものを選んでいるところもあるように感じる。


 最近の児童文学の傾向をみると、四つにまとめることができる。


一、多文化主義

 多様な文化背景を持つキャラクターが登場し、それぞれの視点から物語が描かれる作品が増えている。現代社会の多文化性を反映したもので、多様な価値観や視点を理解する機会を提供している。


二、リアルなテーマ

 子供たちが日常生活で直面する可能性のある問題(例えば、いじめ、家族の問題、友情の問題、戦争や貧困、差別など)を扱った作品が増えている。子供たちが自分自身の感情を理解し、困難な状況を乗り越えるための戦略を学ぶのを助けている。


三、ファンタジーと冒険

 魔法や神秘的な要素を含むファンタジー作品や、主人公が未知の世界を探検する冒険物語も引き続き人気がある。子供たちの想像力を刺激し、新しい視点で世界を見ることを促している。


四、科学とテクノロジー

 科学的な事実やテクノロジーを取り入れた作品も増えている。科学的な思考や問題解決のスキルを育てるのに役立っている。

 また、児童文学には、ラノベよりの児童文庫も含まれるので、ホラーやSF、ミステリーにファンタジー作品も含まれる。


 中高生に人気がある書籍といえば、本屋大賞作品がある。

 別の言い方をするならば、カクヨム甲子園は、本屋大賞作品と傾向が似ているともいえる。


 本屋大賞の受賞作の特徴は、苛烈な環境ないし定型的ではない家族や、人間関係に置かれた子供、または若者の成長過程を描き、終盤に切ない激情が爆発するエモい作品。

「親にも友達にも言えない悩みを抱えた子供・若者が登場する」「ラストは感動」する点が共通し、読んだことがある人にとって、同種の感動が期待できると「読む前からわかる」作品である。


 現代の高校生は、希死念慮を抱いているのが前提といわれる。

 親の裕福さの格差があり、子供のころから結果を出すことを求められ、良い子でなければ生きていけない。一人ぼっちになると自意識と向き合わなくてはいけなので、自分の欠点ばかり気にするようになり、悪い方へ悪い方へと考えてしまう。

 とくにネットがあるからこそ、孤独に陥りやすくなっている社会なので、(ネットがない時代は、孤独を感じたら嫌な人と話したり、好きでもない友達と付き合うことをした。でも、ネットがあると知り合いや話す人が作れるから、リアルで嫌な人と付き合わなくてすむ。痛みを覚えるようなら関係を切って一人になる。その結果、希死念慮に陥ってしまう。痛みを覚えるからと関係を切らなければいいのに、その選択はしないから、ますます外へ出なくなり、孤立が深まっていく)決して子供たちのせいではない。

 かつて子供だった大人や、芥川竜之介や中原中也といった先人たちも、それぞれの時代の中で、ネガティブな感情を抱いてきた。

 将来が明るく思えず、死を扱う作品を書きたがる気持ちはわかるし、書くのは一向に構わない。

 だけれども、カクヨム甲子園に児童文学作品の傾向があり、受賞を狙うのであれば、児童文学が扱う書き方をしなくてはいけない。


 児童文学とは、現実はこんなに辛くて酷くて「どうにならない、これが人間という存在だ」という批判的なものではなく、たとえ辛くても苦しくても「生きててよかった、生きていていいんだ」と読み手にエールを送るものである。

 児童文学は、絶望を説く作品ではないのだ。


 カクヨム甲子園に応募する、現代ドラマやホラー、ミステリーにSF、ファンタジーなどの作品で死を描くことはかまわない。

 ただし。

 読み終えた読者に、「たとえ辛くても生きていていいんだ」「明日もまた生きていこう」と思えるなにか、ひと欠片でもいいので、書き伝えてほしい。


追記

 カクヨム甲子園に応募される作品には、ブルーライト文芸的な傾向もみられます。

 青い表紙で、田舎や地方郊外の夏を舞台に、クールで無気力な男子キャラがヒロインと出会い、最後にヒロインが病気などの何かしらの理由で消失してしまう傾向のお話です。

 だからこそ、死を描いた作品が多いのかもしれません。

 ブルーライト文芸は、中高生に人気でもあるため、今後はそういう作品も受賞していくかもしれません。

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