そして、骨になる

 いよいよ、フランスの遺体が車の中――火の中へ入れられます。

 私たちは、籠の中に、庭で詰んだ植物を沢山詰めました。どれもこれも、フランスが好きだった植物です。

 ところがそこで、一度ストップがかかりました。


「あ、あんまり植物を入れると、燃えた時骨に色がつくので……」


 私たちは「はて?」と首を傾げました。


「骨に色が着くのって、なんかこう、衛生的にまずいんですか?」

「いえ、真っ白じゃなくなって、気味が悪いと言われるぐらいです」


 ……世の中、そういうことを考える人もいるんだなあ、と思いました。





 車の扉が閉められたあと、社員の方は、「しばらく家の中でお待ちください」と言ったので、私たちは家の中に入ることにしました。

 そして、再び声をかけられ、私たちは玄関の扉を開けました。


 いよいよ、フランスの骨を見ることになります。

 車の扉が開かれ、その中から火葬炉の鉄の扉が開かれました。そして、ゆっくりと出てきて――。


 泣き笑いながら、私は叫びました。



「フランスだ~!!!」



 私のことばに、社員の方が「え、見るの辛かったですか!?」と慌てられましたが、違います。


 ――私の火葬は、祖父のものが最初で最後です。

 闘病の末死んだ祖父の骨は、ほとんどなくて、きっとフランスもそうだと思っていました。


 ところがフランスは、頭蓋骨がそのままの形で、しかも「フランスだとわかる形」で残っていたのです!


 これには、母も父も、泣き笑いするしかありません。

 フランスは死ぬ時もフランスらしかったけれど、火葬ですらフランスのままだったのです。





 私たちは、骨を拾い、詰める作業を行いました。

 フランスは体が大きい上、骨もほとんど残っていました。なので、葬式社のサービスである骨壷一つじゃ、全部入れることができません。

 それどころか、骨の一つ一つが硬くそのまま残っているので、入れてもちゃんと収まらないのです。


「これ、どうしましょう?」


 私が尋ねると、


「箸で、骨を砕いてください」


 と言われました。

 ……骨に色がつくのは忌避されるのに、骨を砕くことは勧められるって……。

 とはいえ、頑張って砕こうとしても、全く骨は割れません。

 いよいよ骨じゃなくて私たちの心が折れたので、私たちは社員の方に頼みました。


「すみません。骨、砕いてくれませんか」


 任された社員の方が一言。



「………………ぜんっぜん、砕けませんね」



 フランス、骨まで最強だった。

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