あたしの、江戸川愛璃の正義 #シリアスなんかいらない!! 【ガチ回】

【視点は愛璃に移る】


テーマ、東北じもと

あたしは動転していた。

あたしの生まれ故郷である水森市、12年前の大火災で一度地獄になった街は、何を隠そう東北にある。

長年『水森の希望』やら『水森の神童』やら言われ続け、あたしの人生をかき回しやがった故郷が、ワンチャン出題される。

そのことを考えるだけでも、吐き気が止まらない。

気持ち悪さが止まらない。

目眩が止まらない。

今にも、逃げ出したい。



あの日々が、孤独が、炎が、いつだってあたしに牙を剥いてくる。

あたしが偶々、才能があったばっかりに。

あたしに幻想を向けて、英雄の役を押し付けて。

弱さを見せたら、理想通りじゃないと矛先を向けてきた。

愛情なんてありゃしない、勝手な理想論エスカトロジー

でも人々はそれを信じて疑わない。

まるで、そうすることが、『あたしが英雄として生きる』ことが、正義であるかのように。



それは、あたしがずっと抱えてきた生きづらさで、2年前にぶっ壊れて死のうとした原因で、あたしが未だに満たされない最大の障害。

アイドルをやっても、途中で方向性が真逆になっても、医学部に受かっても、大学を退学しても、何も変わっちゃくれなかった。

どうせ、クソみたいな世界なんか、変わんない。




でもその感情に呑まれてしまうと、せっかくここまで撮ってきた動画をブチ壊しかねない。

―――あまとうの皆が、悲しんでしまう。




……なぁ、あたしはこのままで良いのか?

あたしは、まだ逃げたままなのか?

あたしは、まだ目を背けるのか?




いまあたしの周りには、思った以上に多くの人がいる。

あたしを救ってくれた、若旦那。

あたしを拾ってくれた、若奥様。

先輩なのに優しく接してくれる、結華さん、るる姉、奏くん。

悪態つきながら付いてきてくれる、ファンの人達だってそうだ。



そして何より、仲間たちがいる。

馬鹿をやって笑い合ってくれる時子が。

溜息をつきつつ見守ってくれるまもりが。

真正面から背中を押してくれたうららが。

みんなが、そばにいてくれる。



あの時とは違う。

人知れず現実に絶望した、あの時とは違う。

誰もあたしを見てくれなかった、あの時とは違う。

あたしはどうせ救われないと擦り切れた、あの時とは違う。



隣に。一番そばに、大好きなみんながいる。

そう思えば、あたしだって。

過去に向き合って、真正面から。

5センチでもいい。少しずつだけど、ゆっくり。

みんなとなら、前を向ける。



倒れたって、支えてくれると信じられるみんながいるから。

絡みつく残像なんて、追いかけてくる過去なんて、吹き飛ばしてやる。



だからあたしは、進める気がするんだ。



歌川花桜莉はもう死んだ。

いまのあたしは、なのだから。



あんたらの正義とか、知らない。

そんな幻想みたいな正義とか、知らない。



あたしがあたしのやりたいように生きる。

これがきっと、あたしの正義だ!!






◇ ◇ ◇





「あたしの本気、見せようか」



「顔がとんでもなくマジね」

「やー!愛璃ちゃんかっこいいよぉ!」

「いい顔してるから……ほんとに安心だよ」

「ちなみにまもりってどのくらいポイント取ってんだっけ?」

「だいたい、3箇所合計60秒以内かつ全部誤差が200m以内なら勝てるくらいね」

「バカつよだ」

「私の本気よ」

「なら、あたしがそれを超える」

「カッコいいよ愛璃ちゃん!!ふーふー!!」

「私がこの人に惚れたことに間違いはなかった!」

「過去にあたしを抱いた東北出身の男どもよ、震えて眠ってろッ」



決意のあとに、また自然と呪詛を吐いている。

もはや自分でも笑っちゃうくらいだ。

でも、こんなふうに世迷い言を吐くのが、たぶんきっとあたしのやりたいこと。

チキってたまるか!どんとこい地理ゲッサー!!



「いざ!第一問!!」



表示されたのは、三日月の兜に眼帯の石像……



「伊達政宗!仙台!こんなん余裕!!」



そうして、あたしはあの有名な石像がある場所を特定し、推測完了のボタンを押す。



【解答時間20秒、誤差150m】 



「さあ、次行くよ!!」



続いて表示されるは、金色に染まった日本式のお寺……



「中尊寺金色堂!!楽勝!!」



マップ展開に手間取りつつも、世界遺産の場所を特定し、今回もクリア。



【解答時間30秒、誤差200m】



「しゃあッ!!」

「いつになく熱くなってるわね!」

「すごいよ愛璃ちゃん!なんでこんな知ってるの?」

「それはあたしが東北出身なのと、昔付き合ってた男どもと何度も旅行に行ったからだ!」

「すごい!過去が活きてる!!」

「もうカッコいいよぉ……私もっと惚れちゃう……!!」

「さあ最後だッ!」

「残り10秒で回答できれば愛璃ちゃんの勝ちよ。やれるもんならやってみなさい!」

「来いッ!」



そして、最後の地点が表示される。








【3問目、終了しました。

 解答時間8秒、誤差10m】








「ヤバい!!大逆転!!」

「めちゃくちゃアツいよ愛璃ちゃん!」

「負けちゃったわ……でもなんか清々しいわ……」

「愛璃ちゃん、なんで分かったの?」

「ほぼ誤差ないじゃない」

「だって……」



怪訝な顔をするまもりと時子に、あたしは笑って告げる。







「だって、あたしが生まれた場所だからね」







少し得意気に、世界が変わったみたいなシリアス分岐をぶち壊した気持ちになりながら、画面に映った景色を見つめる。

表示されていたのは―――あたしがアイドルとして最初に立った舞台である、水森市のショッピングモールだった。

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