第7話 求婚 〜 Anna ep2

 チンギス・ハンの西方遠征の配下からシャナを見つけ、魔女の里のアンナは瞬く間に恋に落ちる。暫く経ってアンナの懐妊が判明するが、成すべきを成したら必ず戻ることを固く約束して、シャナは遠征の帰途につく。


 しかし遠征隊の出発の少し後、対立する敵軍の強烈な奇襲を受け、シャナは敵の降り注ぐ矢の毒に倒れ、絶命する。火急の知らせを受けたアンナは、何かの間違いだと遺体が並べられた河原近くの広場に全力で駆けつけ、すぐにありったけの魔法を何度も何度も重ねてかけるが、蘇生には至らず、アンナは遺体に泣きすがる。


「私は間に合わなかったってこと? シャナ? 本当に死んでしまったの?」


 アンナの心は次第に、共に逝くことに傾倒していく。


「じゃあ、一緒に逝こうか」


 アンナはシャナの手を握りしめ、一緒にこのまま飛んでいけ、という思いがアンナの魔力を全開で迸らせる。


 ピシピシピシッ……バチッ……


 すると、この瞬間、竜巻の中で溜まりに溜まった静電気がはじけ、呼応するように空のいかずちがアンナの魔力でできた大きな塊に落ちてきた。


 ドゴーン! バチバチ……


 そこら一帯を包み込むように分散しパチパチと弾ける音を周囲に撒き散らしながら、次第に大地に吸収されていく。


 パチパチパチパチ……しゅぅぅぅぅ……ざぁぁぁ……


 この衝撃で竜巻で巻き上がった泥がチリジリに降ってくるのと、周囲の水分が霧状に舞い上がるのとで、視界はひどい状態になっている。


―― 雷に邪魔された。

―― ギリシャ神話のイカロスみたいにどこまでも高く登って死ぬのもよいかと思ったが、儘ならぬものだ。

―― 力を溜めてもう一度やろう。


 ひとり心で呟いていると、周囲がゴホゴホ咳き込んでうるさいことに気付く。


―― え? 誰かを巻き込んじゃった?


 他の遺族の方を巻き込んでしまったかと、ヒヤリとしながらアンナは周囲を恐る恐る見回す。すると、よくは見えないが、何か様子がおかしいことにアンナは気付く。が、それとはまた違うおかしさ具合から、口をついて驚きの声が飛び出す。


「アレッ? アレーッ?」


―― 私の手の感覚もおかしい。

―― ケガだらけだけど、骨がグチャグチャで内側からの激痛がひどい状態なのだけど、そんなのどうでもよいと、痛みを忘れていたのに、今、外側からの激しい痛みに襲われてる。

―― 感じとる状況に違和感が……。


 そうアンナが思っていると、なぜか目の前のシャナまで咳き込んでいるように見え、アンナの口から驚きの声が零れる。


「え? 死んだはずの人たちが一斉に動き始めた。ここはもしかして、死後の天上界? 望み通りに私も逝けたのね。よかった」


 一人だけ置いて行かれず、一緒に逝けたのだと安堵するアンナ。


 しかし、徐々に視界が晴れて辺りが見えるようになってくると、そうではなかったことにアンナは改めて気付く。


「ち、違う。ここはさっきからいたところだ。どうしてなのか、みんな生き返ってる。シャナは? い、生き返ってる。し、信じられない……じゃあ、この手の痛みはシャナが握り返したってこと?」


 シャナのせいきらめきを瞳に映すと、何度も何度もまばたきを繰り返し、幻でないことを確かめる。額に頬に唇に、触れるごとに圧し返すせいの反応。確かなせいがそこにある。


―― 生きてる。

―― 生きてる。シャナが生きてる。うそ? ほんと?

―― あははは。生きてる。本当に生きてる。やったぁ。生き返ったぁ。

―― やったぁ。やったぁ。やったぁ。やったぁ。やったぁ。


 アンナがようやくそれを受け入れられるほどの気持ちにたどり着くと、涙が堰を切ったように、アンナの瞳にあふこぼれ落ちる。半ば諦めかけていた気持ちになんという不意打ち、と不満にも近い思いが心を占める。


 アンナは「反則だよ」と言いかけるが、嬉しい反則なのだからと、自らそんな不満は引っ込める。そんな不意打ちのインパクトは大きすぎて、唇はプルプル震え、目と鼻はグジュグジュ、顔もおそらくグシャッと崩れている状態だ。手もグチャグチャだからアンナは上手く拭えない。涙と鼻水まみれの顔はさらに汚く変化する。


―― 乙女の繕いなんて、無理!

―― 保てるわけがない。

―― 今はポイだ。

―― ズルいや神さま、嬉しすぎるよ。


 頭の中を様々な思いが一頻り巡ると、気持ちが落ち着いたのか、「ふぅっ」と一息置いて、静かな笑みの混じる瞳に変わり、素直な思いがようやく言葉になって口から出て行く。


「嬉しい……。神様、ありがとう」


―― 嬉しい。

―― 助けられたんだ。

―― もう泣くの我慢しなくていいんだ。


 シャナを連れて行かれまいと、途切れずたゆまず、アンナは必死の蘇生を繰り返した。全力だったからこそ、あまりの無反応に半ば諦めもした。


 しかし頑張ったことは無駄じゃなかった。叶えたかったものが今ここに結果として実りの形を成している。


 絶望の淵、その闇に潜むような重苦しい空虚感から一転、失ったはずの全てを取り戻せたみぎり、例えようのないはちきれんばかりの幸福感でアンナは居ても立ってもいられない。


 強張る心、張りつめていた気の手綱をようやく手放せる。アンナは大声で泣き叫びながらシャナを抱き寄せる。


「シャナ、シャナ、シャナーっ。よかったぁ、本当によかったぁ」


 思いっきりシャナを抱きしめる。


―― 手が痛くてたまらない。

―― でも今はどうでもよい。

―― 本当に嬉しい。

―― でも痛い。


「アンナ? 其方どうしてここへ?」

「あなたを助けに駆けつけたのよぉ」

「おぉッ? 私は助かったのか?」


 アンナは理解を得るための説明の順序性もあってか、フルフルと首を横に振り否定する。アンナの喜ぶ表情で死ななかったのかと一瞬喜んだシャナだったが、それを否定されたことで、脳裏に残る記憶の通りに死んだであろうことを受け入れ、沈む表情を見せる。


「ううん、あなたは毒で死んだそうよ」

「そ、そうか。では何故其方がここに?? まさか、後を追ったのか?」


 アンナはコクリと頷き、説明し始める。


「ここは遺体を並べて今生のお別れをする場所。私は必死に解毒と癒やしで蘇生を試みたけど叶わなかった。でもそれなら一緒に逝きたくて、魔法で一緒に飛ばされようとしたの。でも失敗しちゃった」


 あんなにも懸命に必死の形相で蘇生に奮闘したアンナのはずだが、シャナを取り戻せた今のアンナは穏やかに、そしてまるでほんの少し失敗したようなていで語る。


 それを順に聞きながら、自身の記憶の流れと摺り合わせ、一致することで死を認識し、諦めと申し訳なさから視線を落としたシャナだが、続く言葉とその文意に違和感を憶え、視線を起こし目を見開き、その単語を零す。


「では今の私は幽霊なのか? ん? マホウ?」

「ち、が、う。うふふ。生き返ったのよぉ!」

「え?」


 再度の否定で返すアンナの言葉に、抱いた違和感共々吹き飛ばすほどの衝撃を受けるシャナは、混乱しながらも、今が生を取り戻した状態であることへと意識の書き換えが急ピッチで進む。


「私の願いが神様に届いたのか? 私が死のうとするのを神様が怒ったのか? よくはわからないけど、とにかく、私の魔力の塊に雷が落ちたの。たぶんそれでびっくりして心臓が動き出したんだよ!」


 いるかどうかもわからない神さまだが、アンナは今起こった奇跡的な死に戻りの状況を神さまの仕業になぞらせる。そうすることでシャナには今のせいがうまく飲み込めるものと考えたこともあるが、アンナ自身も今の奇跡は素直に神さまに感謝したい気持ちの表れでもあった。


 続ける言葉で魔力のワードを混ぜて雷が落ちたという事実を重ね、命の脈動復活への事象的根拠を示す。それを示されたシャナは、謎の単語、魔力には違和感しかなくも、今命があることへの納得を得る。


「ん? マリョク?? と、とにかく、よくわからんが、生き返ったのだな?」

「そう、そうなのよーっ、生き返ったー、あきらめなくてよかったーっ」


 ここまで話せたら、もう後は喜ぶばかりと、アンナはシャナをギュッと抱きしめながら歓喜を全身で表す。ふと抱きしめる向こう側の、シャナと同様に息を吹き返す面々に目が止まり、シャナの蘇生に巻き込む形で助けてしまったことも付け足す。


「あなたのついでに、周りの人も助かったみたいだけどね」

「おぉ、そうか、みんなも助けてくれたのだな? ありがとう。命を預けて共に闘える尊い仲間たちだ。本当に心から感謝する。ありがとう」


 正直、シャナが助かることしか頭になかったアンナだから、それ以外のことに感謝されるのはこそばゆさしか感じないようだ。


「面識ない人たちだけど、一緒に助かるのなら助かればいい、って、あなたを助けるための力から、少しだけお裾分けした程度だし、そっちの感謝はいいわ。大体照れるし、恥ずかしいじゃない。あなたが助かったのだから、他には何も要らないの」


「わかった。けれど、奴らだって礼くらい言わせてあげないとかわいそうだろ? それよりアンナ、ひどいケガじゃないか? 気付くの遅くてすまない。しかしなんでそんなに平気な顔ができるんだ? 骨折どころか、手のひらの形が尋常じゃない。痛いだろう。本当にすまない。死んでお詫びしたいくらいだ」


 話しながら視線を落としたときに気付いたアンナの手。血みどろであからさまに形がおかしいそんな怪我の具合に、それをおくびにも出さないアンナの心境を思えば、今の結果に行き着くまでにどれほどの苦難を乗り越えたのか、想像するごとにシャナは涙を滲ませる。そしてそんなアンナの大きすぎる痛みを推し量り、シャナはひたすら謝り続ける。


「バカ! 死んだら助けた意味がないでしょう? それにあなたが助かるためなら、この手がどうなってもよいと思ったのよ。確かに意識が跳びそうなほどに痛いけど、あなたが助かった代償だから、いくらでも我慢できるわ。そんなことより、毒の影響はないの? 他にケガしてるところは?」


 もはやアンナの心の境地は、自身の痛みなど度外視し、シャナの回復のみを慮る。


「バカはそっちだ。其方の処置のおかげで、私は大丈夫だ。後で落ち着いたら其方がまた診てくれればそれで大丈夫だろう。それよりアンナの手だ。骨がグチャグチャじゃないか! 取り返しがつかなくなったらどうするんだ。私たちの赤ちゃんの面倒もみれないぞ! すぐに手当てをさせよう」


 シャナの一言にハッと我に帰るアンナだった。何よりも大切にすべきな二人の宝物のはずだが、アンナにはシャナのいない世界など想像もできず、そんな考えに行き着かなかったようだ。


「あっ、赤ちゃんのこと、頭になかった。あなたのことでいっぱいいっぱいだったから。でも、ケガの手当てなら自分でできるから不要よ。そう、今のシャナの状況でもう大きな危険性は残ってないのね? なら、自分の治療をさせてもらうわね。さすがにこれ以上は意識を保てないかもしれないしね」


 先ほどまでとは打って変わって、アンナの身体はシャナが預かり、アンナは寄りかかって楽な体勢をとることにした。このまま癒やしをかけるとさすがにおかしな形で固まってしまいそうだと、アンナは、生体エネルギーの触手のようなもので透過的に骨の位置をすこしずつ整えていく。


―― これは普通の人には見えないから、胡散臭く見えるのではないかしら?


 アンナは医者ではない。正確な位置や形はよくわからないため、元の形になるよう試行錯誤し、なるべく隙間が生まれないようアンナは集中して整える。


 それらの作業は、じっとして我慢する痛みより何倍も痛いものだ。アンナは絶対泣くもんかと歯を食いしばっているが、あまりの痛みに涙がボロボロ零れ落ちる。


 ようやく内部的な骨の結合形が大体整ったようで、アンナは自身に癒やしをかけ始める。


 癒やしといっても、自然治癒力を高めるよう、神経や筋肉、骨に刺激とエネルギーを与えて成長を促すのだが、ほんのり灯るような情景は、はたから見る目には神々しく映るようだ。


 周囲に蘇生した人達が寄ってきて、ほぉ~っと息を漏らすのがアンナの耳に届く。ちょっぴり恥ずかしいようで、アンナは頬を赤らめる。


 この癒やしは、強制的にエネルギーを与えて成長させるため、自然治癒速度の数百倍の速さで治癒は進む。自分自身への治癒の場合、エネルギーの親和性が高いため、さらに数十倍早くなる。


 アンナの場合、完全治癒にはもう少しかかるのだが、現在の治癒の進み具合なら、見た目にもほぼほぼ完治だろうと、癒やしは止めることにするようだ。どうやら、今日のこの日を忘れないために完全には直したくない考えのようだ。


―― はい、終わり。


 そう言いながら、アンナは手のひらをグーパーしてみる。まだややぎこちないところはあるようだが、痛みもなく、基本的な動きも問題なさそうだ。


「終わったわ」

「よかった。ほんとだ。完治しているように見えるね。治らなかったらどうしようかと本気で心配したよ」


 アンナの自身への施術を終始不安そうに見つめていたシャナだが、想像を超えた治癒具合にシャナの表情は安堵する。それを見届けたアンナは満面の笑みを浮かべながら、次はシャナから、と診ていくことを告げる。


「じゃあ、今度はあなたから順番に、念のための解毒と癒やしをしていきましょうか?」

「そうか、それはありがたい。と、その前に、順番が逆になってしまったが、もうアンナのいない人生など考えられない。私と共に人生を歩んでほしい」


 唐突に語り始めるシャナにアンナは驚きを隠せない。


―― えっ?

―― 突然、なに?

―― キターっ!

―― ちょ、ちょっと待ってーっ。


 慌てふためくアンナは、視線をアチコチに飛ばしながら口はアワアワとせわしなく動かすだけだ。


―― シャナが無事生還しただけで、幸せ絶頂。

―― もう既にトップギア状態なの今。

―― またまた反則だよ、それ~!

―― 皆反則ばかりでズルい。


 アンナの心の輪郭は幸福感に満ちているところへ、シャナの言葉が染みるごとにうるうると震わされる。


―― やっと目も鼻も顔の表情も落ち着いたと思っていたのに。

―― ……また……うぅっ……。


「これは懐妊したからでも、今回救出してくれたことに負い目を感じて言った訳でもないことを信じてほしい」


 ふと周囲の光景が目に入り、アチコチの人の目が自分たちに注がれていることに気付き、それがさらに伝搬していく様子にアンナは驚く。


―― ギャー! 周りも気付いてみんなコッチ見始めた~。


「出会ってすぐのつきあい始めた頃には、其方に夢中になってしまっていた」


―― 知ってるわよ、そんなの。

―― 分かりやすすぎるもん。


 わかっていることでも、改めて言葉にされ、しかも今のこの心ぐずつく状況では、簡単にノックアウトされてしまいそうなアンナの心模様だった。


―― わざわざ言葉にされると、嬉しすぎて昇天してしまいそうよ。

―― ダレカタスケテ。


「たぶんそんな気持ちはとっくにバレていると思う」


―― 顔のプルプルがひどくなってきた。

―― というか、まだ続くのこれ。

―― わかったから勘弁して~。


「だけど正式に求婚すべきが」


―― モウムリ、


「バタバタして先送りしていたようなので」


―― 防波堤も崩壊するぅ、


「キチンとしようと思った」


―― するぅ、


「アンナ、結婚しよう」


―― したぁ~。


―― 涙と鼻水がとめどなく溢れてくる。

―― みんなコッチ見ないで~。

―― 何の罰よ、これ~。


 懸命に語りかけるシャナから目を逸らさないよう顔を上げていたアンナだが、涙まみれでいっぱいいっぱいの皺くちゃな顔は、同時に周囲の耳目を集め、感動と羞恥の渦に翻弄されるアンナでもあった。


 だが、今その儀式的時間も終わったことを自身に確かめる。


―― でも……お、終わったぁ。

―― もう俯いてもいいよね。


 終わりで問題ないとわかると、アンナは思いっきり俯き、今の状況を振り返る。


―― 真剣に求婚してくれてるのになんか不謹慎でごめんなさい。

―― 私も乙女だから、あなたの前では綺麗でいたいの。


―― でも、ちゃんと聞いていたから、今反芻するね。


 今語られたシャナの言葉とそれを口にするシャナの映像を脳裏に思い描きながら、振り返るアンナは、その一言ごとに気持ちの高まりが跳ね上がっていく。


―― ふぁー、うぇーん、し、あ、わ、せ。ズ、ズキューンだょ。


 言葉を想い出しながら噛みしめるたびにアンナの顔はいっそう崩れていく。


―― これが幸せというものなのね。

―― よく悲劇の表現に地獄の底に突き落とされる、ってのがあるけど……。


―― 私の場合は、一回落とされたけど、地獄の底から天国まで一瞬で押し上げられた挙げ句、さらにそれ以上ない天辺まで突き上げられたようなもの。

―― これ以上の至福なんてあるはずがない。


―― わたしなんかが、こんな幸せでいいの?

―― 後で返せって言われても返せないからね~、神さま。


 そんなことをひとつひとつ噛み締めるごとに、一際大粒の涙がポロリ、ポロリと流れ落ちる。いや、訂正。ボトッ、ボトッ、だ。


―― どれだけ大粒なの?

―― 嬉しすぎるせい?

―― それはそうと、ひどくなる前に返事しなきゃ。

―― 涙が喉にも入ってもうグズグズなの。

―― 上手く声に出せる自信がないよ。


 アンナは顔を上げて、大きく頷きながら返事する。


「ヴゥ……ン……」ズズッ……


―― ほら~。やっぱり失敗したじゃない。


―― お願い、みんな顔をのぞき込まないで~。


―― 今ひどいブスだから、鼻水ドバーっ、顔ベチャーっだから。


 キチンと返事できなかったからか、シャナはアンナの両肩を掴んで聞き直す。


「ホントか?」


 今度は無言で頷き、伝わったことを確認したら、アンナは俯くことに専念する。


―― もうこれ以上、顔を上げてられない。

―― 恥ずかしすぎる。

―― 鼻水まみれも見せられたものじゃないけど、どれだけ泣いたか判らないから、まぶたの腫れ具合もきっとすごいことになってそう。


 そんなことを考えていたら、シャナはアンナを引き寄せ肩を貸す。


「よ、汚れるよ?」

「かまわない。汚いとか思わないし、もし汚れてしまうのなら、それは、今日という日を思い出せる勲章になる。ん? 待てよ? むしろ家宝として永久保存するのもよい考えではないか? おぉ、それがいい」


「ギャー、止めてー。それ、カピカピになるだけだから。わたしの汚点、保存なんてされたら、恥ずかしくて死んじゃうよ~」


「む? それは困る。保存は諦めるとするか。我ながらよい案だと思ったのだが。アンナがそう言うなら致し方ない」


―― あー、残念がらないでー。

―― 考え直すの、そこじゃないからー。


「うむ、涙も収まってきたようだな」


―― アレッ? ホントだ!

―― 他愛ない掛け合いが可笑しくて、いつの間にか、平常運転な気負ってない距離感だ。

―― まさか、それを狙ってボケてみた?

―― いや、まさかね、アハハハ。


 そうアンナが思ってたら、シャナといちばん仲良さそうな仲間のひとりが近付いてきて、シャナに声をかける。


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