第35話 タマの異次元錬金術②
「え……え゛え゛え゛え゛え゛え゛⁉」
出来上がった液体を見て……ナミさんは奇声を上げた後、震える手でコップを手に取り、まじまじと観察しだした。
「ちょ……ちゃんと若返りの薬ができてるんですけど⁉ しかもこれ……私のオリジナルより効果強いじゃないですか!」
自分には色の濃さくらいしか違いが分からないが……ナミさんは見るだけで効能の違いまで分かるようで、口をパクパクさせて誰よりも驚いていた。
「どれくらい違うんですか?」
「ざっと倍くらいの効き目がありますね。私の場合、オリジナルの薬を飲むとご覧の通り16歳程度見た目が若返るのですが、これを飲むと32歳若返ってしまうことになります。赤ちゃんで止まればまだギリセーフですが……最悪胎児にまで戻りかねないので、怖くてとても飲めないですね」
具体的な違いを尋ねると、ナミさんはそう答えてくれた。
……32歳か。
そうすると、俺が飲むとちょうど中学生くらいの見た目になれてちょうど良かったりするのだろうか?
「じゃ、これは俺が飲むとちょうど良さそうですね」
「あ……ちょっと待ってください!」
試しに飲んでみようとすると……なぜかナミさんは慌てて制止に入った。
「どうしてですか?」
「この薬…… 言い忘れてましたが、一律で誰が飲んでも32歳若返るわけじゃないんです。この薬で若返る年数は、飲んだ者の強さに比例します。失礼ですが……哲也さんって、タマちゃん無しで単独で戦うとどれくらいの強さなんですか?」
「試したことはないですが、一般人と変わらないかと」
「だとすると……考えられる可能性は二つですね。一つは、飲んでも全く外見が変わらないケース。哲也さん本人の強さだけが薬の効果に影響する場合はそうなります。ただ、問題はもう一つのケースでして……例えば絆の効果などで薬がタマちゃんの実力を基準にしてしまった場合、哲也さんは受精卵ですらなくなってしまう恐れがあります」
理由を尋ねると、恐ろしい答えが返ってきた。
マジかよ。
この薬、ただ外見が若返るだけの効果のクセして、俺が飲むと無意味か即死か二択のギャンブルになっちまうのか……。
どっちにしろ良いこと無えじゃねーか。
先に説明してくれて間一髪助かったな。
俺はこの類の薬は一生口にしないと決意した。
「水だけで製薬できた時点で意味不明なのに、効果まで上位互換だなんてほんと何なんですか……」
ナミさんはナミさんで、ここまでされると逆にショックなのか頭を抱えてしまった。
と……思ったのも束の間。
「……あっ、良いこと思いつきました」
ナミさんは明暗が閃いたようで、今度はタマにこんなことを尋ねた。
「この薬って、効きの強さを自在に調節できたりするんですか?」
「にゃ〜お(もちろんにゃ)」
「じゃあ……私が7歳児くらいになれる薬を一本作って私にくれませんか? そして動画上でタマちゃんが発明したことにする薬は、私のオリジナルと同じ効果にしてください!」
「にゃ(了解にゃ)」
意味深な密約を交わすナミさんとタマ。
「それはまたどうして……?」
どういう意図か尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「この若返りの薬って、たくさん飲んでも意味が無いんですよ。いや正確には、飲めば飲むほど効果持続時間は伸びるんですが……『たくさん飲むほどより若くなる』ということはないんですよね。でも、効きの強さが違う薬を飲めば、前の薬が効いてる途中でも、追加の薬の方が効果が強い場合、強い方の薬基準まで更に若返ることができるんです!」
「なるほど。とすると?」
「配信開始前に通常の若返り薬を飲んで、カメラを回してから『今から若返り薬を飲んで本物のJKであることを証明します!』と言い、視聴者の前で強化版若返り薬を飲むんですよ。そしてリアルタイムに若返る様を画角に収めれば、強化版の存在を知らない人からすれば、私がガチJKじゃないと辻褄が合わなくなるってわけです!」
……そういうことか。
要は背理法で、「ナミさんが詐称JKだと仮定すると、若返り薬はこれ以上効かないはずなのに、実際は効いたので矛盾が生じた。よって『ナミさんは詐称JK』という命題が偽である」と主張しようってわけか。
確かに、そこまですればアリバイはほぼ完璧と言えそうだな。
上位互換の薬を見せられて一瞬でこのアイデアを思いつくあたり、ナミさんって結構地頭良いんだろうな。
いやしかし……よく考えたら、「前回の配信でマジン・ザ・ランプが使えた」件に関してはどう言い訳するんだろう。
疑惑の大元となった「ナミさん錬金術師説」の方を解消しない限り、根本的に問題が解決したとまでは言えない気がするが……。
「年齢詐称疑惑は晴れると思いますが……マジン・ザ・ランプが使えた件についてはどう釈明するつもりなんですか?」
「あ、そ、そういえばそれが残ってましたね。う〜ん……」
聞いてみると……ナミさんはハッとした後、難しい顔で考え込んでしまった。
「そればかりは……ほんとどうしましょ……」
こっちの解決策はタマありきでもパッとは思いつかないらしく、完全に黙り込んでしまうナミさん。
そんなナミさんに……タマはこう声をかけた。
「ごろにゃ〜ん? (その「マジン・ザ・ランプ」ての、在庫は無いのかにゃ?)」
「あ、ありますけど……」
「にゃあ(ちょっと見せてみるにゃ)」
「え、ええ……はいどうぞ」
タマに言われるがままに、ナミさんは収納魔法でマジン・ザ・ランプのポーションを一個取り出した。
タマはそれをしばらく眺めると……おもむろに肉球を翳し、こう言った。
「にゃ(ほい因果律操作にゃ)」
肉球の近くから魔法陣が放たれ、ポーションが一瞬光る。
それを見て……ナミさんは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
「そ、そ、そんな……」
ポーションを指差し、わなわなと震えだすナミさん。
「本人にしか扱えない制約が……き、消えてる……⁉」
あ、その制約、そんな簡単に外すことできるんだ……。
いやタマがおかしいだけで、本当は全然簡単じゃないんだろうけども。
ともかく、これでナミさんの懸念は100%解消されたな。
あとはこのポーションを、誰が加工したかを隠して紹介すれば完璧だ。
錬金術とは縁遠そうな、例えばネルさんあたりにこれを使わせれば、「この秘密の経路で入手したマジン・ザ・ランプは誰でも使えるから、私が使えたのも当然」とか言ってアリバイを成立させることができる。
「ありがとうございます……。これも有効活用させていただきます……!」
ナミさんはひときわ大事そうに制約解除マジン・ザ・ランプを収納魔法でしまった。
これで後は、俺が若返り薬の紹介動画を作って、ナミさんが他のアイドルとかとの配信でコラボ相手に制限解除マジン・ザ・ランプを使わせるだけだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます