慈愛

 まだ巣にこもっていたい

 寒さに 冬の朝の訪れの遅さに

 背を丸めながら幼児おさなごは眠る


 火鉢は音を立てながら

 その家の梁と柱を蒸らし

 あなたがたの目覚めを待つだろう


 木漏れ日が森に落ち

 草履で岩を蹴ると 蝉は飛ぶ

 清らかなせせらぎは唸りを上げる


 日が傾く前に風は届き

 バケツに鮎を踊らせながら

 あなたは引かれつつ家路に着くだろう


 菜の花や 月は東に 日は西に


 語りかける情景と 

 黙する天体の佇まいとが

 消える命も 病める命も 羊の群れを抱き抱えている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る