第40話

「お疲れ様」

「カーラさん!」


 後ろから聞こえた声に振り向くとそこにはカーラさんの姿がある。それに続くようにミシェルさんの姿もあって、三人とも無事であることに安心した。


「大丈夫ですか? 瑠衣は…瑠衣は大丈夫ですよね?」


 何より心配なのは瑠衣のことだ。

 こちらの事情で関係ないことに巻き込んでしまった上にあんな怪我をさせて、さらにテトラの言ってることが正しかったら意識も…!


「大丈夫。信頼できるところに預けてきたわ。怪我も事故ってことでご両親に伝えてある」

「信頼できるところ…?」

「後で説明するわね」


 そう言ってカーラさんは私の頭を撫でた。私より少し背の高い彼女の手は心地いい。


「そういえば、カーラさんも魔法士なんですか?」


 私の言葉に全員がこちらを向く。


「…どうしてそう思ったの?」

「さっきの…たくさん矢が飛ばされてたのって魔法ですよね?」


 ついさっきググの土人形のコアを破壊したのは魔法か魔術としか思えない。だけどその言葉に得意げな顔をしたのはミシェルさんだった。


「それは僕の作った魔道具のおかげだね!」

「魔道具…?」


 また知らない単語が出てきた。


「魔道具は魔術に必要な物事を簡略化するための道具だよ! 魔術を勉強してない人でも使えるし、使用には魔石が必要だけど魔法でできないこともできるよ! もっとすごい『魔術具』っていうのもあるけどね!」


 そして鼻たかだかなミシェルさんからさっきの状況を説明される。さっき飛んできた無数の矢は、魔道具であるカーラさんのボウガンから放たれる魔術で、仕組みまでは…まぁよくわかんなかった。

 みんながつけてるネックレスやピアス、イヤリングも通信器具として作ったらしい。


「僕の本領は魔道具の作成と魔術陣の解除とか解析なの! だから、決して防御魔術とか、まじないとかではないの!」


 ミシェルさんは主にカーラさんとケイオスに力説している。二人はそれに対してシラを切っていた。


「だってあたし魔法も魔術も使えないし」

「俺も結界の類は習得していない」

「だからって僕に任せきりにしないでよね!」


 ミシェルさんの熱い訴えはいつか二人に対して通るのだろうか。


「えと…魔道具とか魔術具ってなにが違うんですか?」

「訊いてくれるのかい? それはね…」

「やめろミシェル。楓が寝る」


 私の言葉に目を輝かせたミシェルさんをケイオスが止めると、ミシェルさんは心底不服そうな顔で「え〜」と駄々を捏ね始めた。そこでまた二人が言い合いを始める。

 私はもう話は聞けなそうだと諦めてカーラさんの方に向いた。


「カーラさんは魔術とかは使えないんですか?」

「あんまり“おつむ”がよくないのよ。戦うのは好きなんだけど」

「じゃああの一瞬で消えたのは?」


 瑠衣を預けた時に一瞬で姿を消してしまったのはなんだったんだろう、とはずっと思っていた。あれも魔道具なのかな?


「あれも魔道具よ。短い距離なら瞬間移動できるの」


 悪戯に笑って「使いすぎると酔うけどね」と話すカーラさんにミシェルさんが「そんなに使う想定なんかしてない」と怒っていた。あの言い合いの中でこちらの会話が聞こえているのは地獄耳かもしれない。


 そういえばケイオスから声が聞こえなくなったな、と徐に振り向くと、


「わぁぁ!?」


 彼の体が降ってきた。

 受け止めきれず彼の体重に圧されて潰される。


 バタン! と大きな音がしたせいか、何やら話しあいになっていたと思しきカーラさんたちが驚いた目でこちらを見てきた。そこからミシェルさんがしゃがみ込んで状況を確認して、カーラさんが重たいはずのケイオスの体をひょいと持ち上げ、私も救出される。


「あーあ、こっちの言葉で言う電池切れだね。やれやれ」

「急に倒れちゃったけど大丈夫なんですか…?」

「大丈夫。マナを変換するには体力を使うって言ったろ? 大技連発したから体力切れ起こして寝てるだけ」

「はぁ…」


 立ち上がってほこりを払う私を見上げてミシェルさんは説明してくれるけど、なんだか納得していいような、なにか危ういような。


「今日は早く帰りましょ。この子運んであげなきゃ」


 カーラさんにおぶられてるケイオスを見ると、一度は治したはずなのにまたあちこちに傷がついている。小石が飛んで当たったりしたんだろうな、帰ったら治療しなきゃ。


「それもそうだね」


 なんて当たり前みたいに返事をしたミシェルさんがしゃがみ込んだまま杖の上部にあるサークルに手を、突っ込む。


「!?」

「あぁ、驚いた? これも魔道具だからね〜」


 なんてのほほんと話しているけど、そこからごろごろと魔石を取り出しているのは驚きが隠せない。


「あぁ〜、範囲が大きいからいくら使うかわかんないなぁ…あ」


 落ち込んだ様子だったミシェルさんが何か気が付いたようにこちらを見ていて、私はその視線にやや後ずさる。


「八朔さん、体力余ってたりしない?」


 

 その言葉で何かを察した。



 

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