第12話

 6層を回っても良かったのだが、6層は休息地ということもあってまた来るだろうということで、今回は大幅ショートカットをしてしまった4層へ向かうことにした。


 少しの休息を取った後、早速4層へとテレポートする。


 4層はマップ全体が山で覆われた標高の高いマップだ。

 7層までの全マップで最も攻略時間が掛かった層でもある。女忍者という職業柄、他人と比べれば楽だったかもしれないが、登山経験があまりない私からすれば非常に難しかった。

 跳躍力が上がったのはこの層の最短経路を進んだからだろう。




 まずこの層にはスタート地点の町をのぞいて大きな町が存在していない。一応転々と小さな村のようなものは置かれているが、規模が多層と比べて小さいのが特徴だ。とは言っても、途中でチラリと見ただけなので実際に足を踏み入れたりしたわけではないのだが。


 スタート地点の町はマップの左上にあり、下層へと下がる階段、ボス部屋は中央付近にある。


 直線距離にしてはあまり離れては居ないものの、途中にそびえ立つ大きな山脈が行く手を阻む。私のように跳躍力が高くなる職業ならば、崖を登って乗り越えることもできるかもしれないが、通常の場合は大きく山を迂回して進むことになる。

 今回はそのルートに則って山を迂回しながら進んでいこうと思う。私の今のレベルと出没するモンスターのレベルを考えると、ただのハイキングと言えるだろう。癒やしを求めて自然を行くのだ。


 町は少し広くなった谷底のような所に長細く形成されていて、山で取れる素材を生かした産業が盛んらしい。鍛冶屋などのNPCショップも多いし、そういった系統のプレイヤーの店もある。

 全体的に熱気があるような町だが、少し遠くに目をやってみれば、山頂付近は雪をかぶった山々が連なっていて、風が吹けば冷たく乾燥している。






 町を抜け、早速街道を歩いて行く。

 この街道は攻略時にも通ったのだが、そのときに多く出てきたモンスターがあまり出てこない。と言うのも、モンスターの種類によってはレベル差が大きいと出てこなかったりするのだ。

 この層はウサギや山羊と言った動物系のモンスターが多く出てきて、8層で出た黒牙狼なんかと比べて気が弱かったりする。従って、レベル差が大きいとあまり出てこないのだ。

 今回はレベル上げを目的としているわけではなく、ただハイキングで自然を堪能したいだけなので、別に気にはしない。


 街道はでこぼことしていて、小石があったりと整備されているような感じではない。途中途中でNPCが荷車を引きながら通っていったりもする。


 そんな荷車はもちろん、すべてがただこうやって通っていくわけではなく……。





「あの、すみません……」

「はい」

「荷車が倒れてしまって、起こすのを手伝ってくれませんか?」


 街道の途中、横倒しになっていた石炭を積んだ荷車があり、その荷車の主は困ったようにその荷車の周辺をくるくると回っていた。

 いや、自分で起こせや。


『クエスト:荷車からの落とし物』


 画面の上部にクエストの表示が出た。

 私がいいですよ。と優しく荷車の主に告げると、受注したことになり、画面左上にクエストの表示が常時表示されるようになった。


「では、私はこっちを持ちますので、どうぞそちらをお持ちください」


 そう言われたので、言われるがままに荷車の後ろ側に回り込むと、よっこいしょと荷車を持ち上げて起こした。

 思ったより簡単に持ち上がったのは、この層の適正レベルと私のレベルが合っていないからなのだろう。


 起き上がると、一瞬で荷車の上に石炭が積み上がり、それと同時にNPCの上に赤いビックリマークが表示された。これはまだクエストに続きがあるというマークだ。


 なので近づいてみると、案の定話が始まった。


「大変!」

「どうしたんですか?」

「石炭が1つ足りないんです! ああ、このままじゃ依頼がこなせない……!」


 そういうと、NPCはわざとらしく頭を抱えた。その様子が無性にムカつく。

 きっとコイツは私が手伝いましょうか? とか言うのを望んでいるわけだ。頼みたいことがあればさっさと言えば良いのに。 


 正直時間に余裕があるからとクエストを受注したわけだが、非常に面倒くさい。やっぱり私はこういうゲームが向いていないのだ。ただ戦闘がしていたくて、こうやってクエストをこなしていきたいわけではないのだ。


「はぁ……。もし良かったら私が集めてきましょうか?」

「いいんですか!? でしたら私は麓の町の『レスクィット商店』におりますので、持ってきてください!」


 いや、取りに来いよ。


「わかりました」


 私がそう言うと、安心したような表情をしながら町に向けて荷車を引いていった。


 ムカつく。


 彼が見えなくなるのを待つなどと言ったことはせず、すぐにフレンドの欄を開いてくろねにメッセージを送る。


『石炭って1個余ってたりしない? クエストで使いたくて……』


 私がそう送ると、すぐに返信が来た。


『全然良いよ! 今商店にいないんだけど、入れるようになってるから1個勝手に持ってって!』


「よしっ」









「うわぁ! もう持ってきてくださったんですね! これで商談が上手くいきます! ありがとうございました」


『クエストクリア:荷車からの落とし物』


 普通にクリア出来た。


「心ばかりのお礼ですが、もし良かったら受け取ってください」


 そういうと、そのNPCは私にクリア報酬のアイテムを渡してきた。

 その中にはこんなものが……。


『石炭×2』


「いや、余分にあんじゃねえか」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る