第4話

 翌朝、朝日が差し込みすっきりとした寝起きであった。

 ゲーム内時刻は現在午前8時。12時間以上は寝たということになるだろう。


 これで私がゲームの世界に来てから3日が経過している。リアル時間だと1日半。一般リリースまではあと12日。ゲーム内時間だと24日だ。

 以後日にちはすべてゲーム内時間で統一。


 予定通りのペースで進めば、今日からの1週間で10層まで到達する。

 残りの17日間は10層にてひたすらにレベル上げを行う。そして一般リリースの開始と共に一気に下層まで降りていく。

 まだ101層までは完成していないようで、一般リリース直後は50層までしかいけない。

 101層の解放はそこから2年以上先を予定しているようだ。定期的なアップデートで少しずつ層が広がっていくらしい。


 さくっと宿をチェックアウトし、早速武器屋へと向かう。


 このゲームの商店にはNPC商店とプレイヤー商店がある。現状プレイヤー商店は本当に少ししかないが、もう既に一等地のいいテナントなんかはプレイヤー商店が建っていたりする。

 この宿の近くにあるのはNPC商店だ。


 簡単に両者の違いを挙げるとすれば、前者が量産品の格安製品。後者が手作りの少しいい製品といった感じだ。




 武器屋の近くに行くと、カキンカキンといった金槌の音が聞こえてくる。

 NPC商店は大抵のプレイヤー商店と違って24時間営業なので、こんな早朝でも気兼ねなく入れるのだ。


「おう、いらっしゃい」


 扉を開けると、ベルのチリリンという音が鳴り響いた。

 カウンターにはがたいのいいおじさんが立っていて、腕を組みながらこちらを見ている。


 室内は泊まった宿と比べて全体的に暗くなっている。店内中の壁に様々な武器が立てかけられていて、壁以外の所にも棚が置かれて武器が並べられている。


 私が今回欲しい武器は良い感じのメイン武器とクナイ、それから手裏剣だ。


 女忍者用の初期装備にはクナイや手裏剣と言ったサブ武器をいくつか、それから小さめのメイン武器を装備出来るところがある。

 アイテムボックスにしまっておいても良いのだが、服に忍ばせておけばいちいちアイテムボックスを開く必要がないため、取り出す速度が速くなるのだ。

 また、アイテムボックスから取り出した武器は20秒ほど攻撃力が下がるというデメリットがある。それは装備に付いている武器をしまうところを使わせるための運営側の考えだ。


 女忍者くノ一にはいくつか武器がある。このお店にあってびびっときたものをメインで使おうと思っているのだが、例を挙げるとすれば忍者刀や双剣、鎖鎌と言ったところだろう。

 鎖鎌は物騒な感じがして怖いので、剣が良いなと思っている。




 このお店はいくつかの区画に分けられているみたいで、その中の忍者、侍向けエリアを見る。

 そこには和風な武器がいくつか並んでいた。


「おお、いっぱいあるね」


 よくある手裏剣やクナイが並んでいた。

 正直違いがわからないので、その中から見た目が気に入ったものをいくつかピックアップしてかごに入れた。

 スキルで回収ができるので、投げ物でもあまり買わなくていいというのが便利だ。


 後欲しいのはメイン武器だ。


 双剣……、もいいのだがやはり忍者刀だろうか。

 双剣は別に双剣使いという職業が存在していて、それらとかぶってしまって少し面白くない。

 ただ、忍者刀なら忍者と女忍者の2つの職業しか基本的には使用しないので、あまりかぶらなくていいだろう。


 忍者刀は通常の日本刀に比べて刀身が短く反りがない。忍者のプレイスタイルに合わせて作られている非常に扱いやすい武器だ。

 やはり忍者刀が良いだろう。


 色は反射しないような地味な色になっているのだが、これがまた良いのだ。やはり忍者はクールでかっこいい。

 Japanese Ninja!! と言う奴だ。




「ん? これは……?」


 一通りの武器をかごに入れ、カウンターへ灯っていこうと思っていた最中、視界の端の方にあるひとつの武器を発見した。


「なるほど、仕込み刀か……」


 仕込み刀とは、忍者刀を日常的な道具にカモフラージュさせたものだ。

 通常時には通常の忍者刀で良いのだが、例えば今後あるであろうチーム戦なんかで隠密行動をするときには、刀をどこかに仕込んで行動をしていた方が動きやすいし相手の油断を誘える。


「うん、ひとつ買っておこう」


 幸いなことに、ひたすらに狩りをしてたくさんのお金を入手している。今の私のゲーム内マネーは現実世界の所持金を優に超している。

 5万Gもあればこの仕込み刀を購入してもおつりが来る。思い切って買ってしまう。


 仕込み刀にもいくつか種類があって、かんざしタイプやキセルタイプ、杖タイプといった感じだ。だがそのいずれも私は使用しない。

 かんざしは髪の長さ的に使わない。タバコは吸わない。杖はつかない。

 そうなってくると必然的に、


「扇子だね」


 私は扇子の扇側に忍者刀が仕込まれている仕込み扇子を購入することにした。







「扇子とか使わないけど、これから平安貴族目指そうかな……。いとおかしいとおかし」


 あまり翼使い道のわからない扇子をパタパタしながら道を歩く。

 既に最初の町、ヘシタタウンからエルネタウンへとテレポート機能で移動している。私はエルネタウンの中央テレポーターから第2層への入り口、ダンジョンの入り口へと足を運んでいる。

 層によるのだが、ダンジョンといっても洞窟になっているというわけではない。しっかりと空があって、雨が降ったりとかするようだ。

 もちろん洞窟になっているような層もあるはずだが。


 エルネタウンはヘシタタウンと比べて建築物が石製で、全体的に要塞のような作りになっている。

 この町の周りはぐるっと一周塀のようなもので囲まれていて、一般的にこのような塀は外側からの侵略に備えるようにできているのだろうが、この町は違う。

 大砲からなんやらはすべてダンジョンの入り口、2層への入り口の方向へと向いている。


 この時点で既に運営がやろうとしていることが推測出来る。

 おそらくゲームが始まれば不定期にダンジョンの氾濫のようなものが起きるのではないだろうか。それをプレイヤーで抑えろ! 見たいな感じのゲリラクエストが出そう。


 まあ推測だが。


「さぁ、待ってろ2層。今行こう」

「おお、嬢ちゃん大分気合いが入ってるなぁ」

「う゛ぇっ?!」


 誰もいないかと思ってかっこつけ発言をしたところ、どうやら周りに人がいたらしい。

 そのおじさんは私のことを痛々しい憐れな子、というよりは己の娘を見るかのような目で見てきた。

 こういうときは盛大に笑い散らしてほしい。微笑ましい物を見る様に見られると余計に心に来るのだ。

 穴があったら入りたい。私は足早に2層へ向けた穴へ駆け込んでいった。


(ああ、耳が熱い……!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る