第49話 急なエンカウント
念の為言っておくと、悠ではない。アイツはオレンジっぽい赤髪に、グレーの瞳のショタ…に見える青年だ。そして近付くにしても、絶対に大声出すし、うるさいからスキル無しでも気付けると思う。
が、今出てきたこの男の子はそうではない。何もしゃべらずに、茂みから出てきたのだ。髪色も瞳も顔立ちも、何もかもが全然違う。明らかに悠ではなかった。
男の子は茂みから出てすぐに、そこら辺にある何かに躓いたのかコロンと転がる。あ、なんか可愛いかも…って、そういう場合じゃないよね?
「誰!?」
目の前のことを処理しきれずに、思わず叫ぶ僕。だって普通、こんな魔物いっぱいな森の中に元気いっぱいな子供なんていないじゃん。しかもめちゃくちゃ無害そう! いや、人を見た目で判断しちゃいけないのは分かってるんだけどね、それでも年齢は偽れな…あれ? そういえば、この世界って普通に超長生き種族もいるんだっけ。やっぱり、この男の子も警戒した方が良いのか?
そんなふうに混乱していると、ミシェルさんがあることに気付いて、男の子の方へ駆けだした。
グゥルゥゥゥゥゥッ!!
それと同時にそんな唸り声がして、白い斬撃のようなものが男の子に向かって飛んで来た。
「…くっ!」
そしてそれは、僕は初めて目にするミシェルさんの剣に弾かれ軌道が逸れる。が、急いだせいで軌道をずらす精度が落ちたのか、ミシェルさんは左肩に傷を負うことになった。
「ミシェルさん!」
「ショウナ君、避けろ!」
「っ!」
慌ててミシェルさんの方に駆け寄ろうとしたら、今度は僕の方に斬撃が飛んで来て、それでもミシェルさんの声掛けのおかげで間一髪後ろに飛び退き、避けることに成功した。
再び男の子の方へ斬撃が飛ぶ。しかし、ミシェルさんは男の子を抱き上げて横に逃げ、事なきを得た。
今度はどう来るのかと考えていると、一旦攻撃が止んだ。
その代わり、ズシン、ズシンと重たい生き物が歩く音が聞こえ、男の子がやって来た方角から大きな魔物が姿を現した。
多分、体長は二足歩行にすると3メートルとかそこら。ブルーデッドベアと同じ見た目のようだが、明らかに大きさや感じる威圧感は桁違いである。
「…何ですかあれ」
無意識に、誰に対してでも無く聞いてしまう。それにミシェルさんが答えた。
「あれはキングブルーデッドベアさ。その名の通り、ブルーデッドベアの王様であり、普通の個体よりも高い能力を有し、とても狂暴。熱帯の森の主と言われているよ」
へ、へぇ…。
それってどうにかなるの? と思いながらミシェルさんの方を見ると、ミシェルさんは普段よりも真剣な表情でキングブルーデッドベアを見ており、なんだかヤバそうな気配を感じ取る。
そしてその後ろで、男の子が状況を分かっていないのか面白そうにキャッキャっと笑っている。そんな場合じゃないんだよ少年ー!
グゥルゥゥゥゥ!!
よそ見してたら再び斬撃攻撃。爪を振り下ろして発生させていたようだ。
今回の対象は僕だったので、下をくぐり避けてそのまま熊に近付いた。とりあえず斬ってみることにしよう。ということで『スラッシュ』を発動させて、熊の首を狙う。
「待て、ショウナく…」
「うおっ!?」
入ったと思ったのだが、その瞬間青熊さんは後ろに避けて、僕が空振った隙を見て今度はコイツが僕の首を目がけて爪を振り下ろす。まさかのカウンター!?
「うぉりゃっ!!」
空振った方向に身をよじって一度回転し、その勢いで爪攻撃を弾く。…流石にキングだわ、力もお強い。
ということで素直に押されて、その力を利用して後退する。明らかにミシェルさんがホッとしているので、こうなることも分かって止めようとしたのだろう。ごめんね、ちゃんと考えずに行動してしまって。
そして少年よ。「おお~」って感じで拍手するのはやめてもろて。
「…どうします、ミシェルさん? これ、流石に僕も攻撃受けて無事でいられる自信無いんですけど」
「撤退するしかないようだね。君も分かったと思うけれど、熱帯の森の主と言われるのは伊達じゃあない。ここは比較的安全な森だとは言われているけれど、ブルーデッドベアが出現した場所では常に行方不明者が後を絶たないのさ。それこそ、Aランクの冒険者でもそのうちに入っていたりするからね」
マジ? 僕達、とんでもない敵に遭遇しているってこと?
「撤退しましょう! 今は戦うべきじゃないですよこれh…」
「ショウナ君!」
はい。
デジャブかな、凄い衝撃が走ったと思ったら、吹っ飛ばされてました。爪攻撃じゃなくても強いわ、この熊さん…。
「ぐへっ」
少し距離が空いて、木に背中を叩きつけられる。ビッグボアの時よりも威力が強くて、背骨が砕けるかと思った。
痛みにうずくまりそうになり、いや、敵の前だと奮い立たせて立ち上がる。それと同時に叩きつけられた木がミシミシと音を立てて、僕がぶつかった場所から折れた。
「えぇ…」
そこまで丈夫だったんだ僕…。
と思っている間にも、ドーンと元の位置から音がして火柱が上がる。やっべ、僕が飛ばされたせいで、ミシェルさんが引くに引けなくなって戦ってる…。
「すぐ行くから!」
まだ背中が痛むが、気合で我慢しキングデッドベアの元へと急いだ。
最悪の事態が、ちょっとだけ脳裏をかする。運が無い僕のことだからなぁ…。「まさかね」なんて、笑って言えないよ…。
急ぐ僕の額を、やけに冷たい汗が流れていった。
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