第43話 幽…霊…?
「いえ、大丈夫です」
あの光が危険じゃないと思えたのは、光が自らこっちに向かって来ないからであって、決して「完全に無害だから」という訳じゃない。
つまり、僕達の方から光に向かってみるというのは論外だ。そんなこと、やりたくないに決まっている。
「しかし、君は気になるのだろう?」
「気になるけど、僕は大丈夫です」
そう、アレがお化けじゃないか? という点に関しては、めちゃくちゃ気になる。気になりすぎて逆に怖くなってきた。
でもそれは、近付きたいということじゃないぞ。本当に。
「…ふむ。怖いのかい?」
「えっ!? そ、そそそそんな訳ないじゃないですか~も~! あ、あははは…」
やべぇ、反射的に否定してしまったけど、完全にバレたなこれは。再三言うが、僕は嘘が下手くそだ。自分でも目が泳いでるのが分かるし、ミシェルさんも「あーなるほどー」って顔してるもん!
「そうは言っても、この調子では君の冒険は長続きしないだろうからね。ここは君に慣れてもらう為にも、近付いてみようか!」
「ひぃっ…ミシェルさん!?」
何言ってるんですか!! そして僕の手を取って光の方へ向かわないでください!
「幽霊系はマジ勘弁! 勘弁ですよ!!」
「ふふふふふ…大丈夫さ! 見てみれば案外なんてことはなかった…というのも、よくあることだろう?」
「そうですけどっ! …そうですけどぉっ!!」
待って、ミシェルさん案外力強い。これ本当にヤバいな、この人意外と強引だし悪乗りも好きだってさっき知ったから、本気で僕を連れて行こうとしているのが分かる。
「ミシェルさんは悪い人だぁ! ホントもうっ…酷い人だぁっ!!」
「おやおや、駄々をこねてはいけないよ。…ここら辺かい? 君が見えた光というものは」
「聞かないで! 僕に確認させないでぇ!」
だいぶ情けない状態になっているのは自覚しているけど、それでも怖いものは怖い。というか、ミシェルさんが思いの外鬼畜過ぎる。町の中では紳士的だったけど、外に出てからは僕のビビりを軽減させるために振り回して、荒療治も良い所だよ…。
「ショウナ君、目を開けてごらん。何もいないだろう?」
「ひぃぃ…」
僕としても、ずっとこうしている訳にもいかないと思ってるんだけど、それでもやっぱり怖くて目が開けられない。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね、ミシェルさん。今深呼吸するので。そんで目を開けるから…!」
何度も深呼吸をして、何とか覚悟を決める。よし、行くぞ…。
「…ん?」
目を開けると、そこには…!
「…な、何も無い…?」
僕が見ていない間に光が消えたのか、ちょっと薄暗い森の景色しか見えない。
「おや。ということは、ただの気のせいだったということだね」
「そ、そうなんですかね…」
もしくは実際にいたけど、ミシェルさんの言う通り、実はそんなに怖いものじゃなかったのかもしれないし。
どっちにしろ、この幽霊騒ぎは一件落着ということでいい、のかな?
「はぁ…だいぶカッコ悪いことになって恥ずかしかったけど…まあ、ただの杞憂ならいっか…」
じゃあ、元の方向に戻るか…と思って振り返る。
「……ん?」
なんか…いますねぇ。
光ってるよ? 明らかにさっきの光と同じものだよ!? あるぇ…?
「どうしたいんだい?」
再び固まった僕に、ミシェルさんが尋ねる。
「…ミシェルさん、もう帰りません?」
「ふふ、まだ明るいのだから、帰るには早いんじゃないかい?」
おいコラ、絶対察したうえでそれ言ってるでしょ。本当に悪い人だ、ミシェルさん。
「…………じゃあ、今度は目を開けて光に近付けるよう努力するので、僕がそれ達成出来たら帰る…にしません?」
正直めっちゃ迷ったけど、僕より生粋の冒険家っぽいミシェルさんを説得するには、こう言う他無いと思ったので、僕も覚悟を決めて幽霊案件を片付けることにした。…もう既に幽霊がいた場所に来ちゃってるんだし。それに、面白がっているミシェルさんを止める術は、今のところ僕には無い。
「ふむ。ショウナ君がそう言うのならば、私はそれを尊重しようじゃないか」
…お、ミシェルさんが言うこと聞いてくれた。
「ただし、二言は無いことだよ。君が冒険者であるならば、何があっても自分の意見を持ち、他人に流されるのは最小限にするべきさ。自分にとって重要な判断を、他人に任せてしまうようになってはいけないからね」
「…はい」
え何この人。急に真面目な話するじゃん。まあ、僕も今の話に納得しない訳では無いから、別に良いんだけどね。
ということでもう一度深呼吸をして、僕達は光(僕にしか見えない)がある場所へと向かう。めっちゃ怖いけど、もうこの際お化け屋敷に居ると思って頑張ろう。背に腹は代えられないもん。
「…あ、あれー…?」
この言葉使ったの、この森に入ってから何度目だろう。結構使った気がするけど、今はそれを考える時じゃない!
「あの、ミシェルさん…いや、やっぱ何でもないデス」
これ言ったらミシェルさんは大喜びするだろうな。
だって、僕が歩くと光の方は距離を等間隔に保ちながら、同じように遠ざかって動くんだから。
「まさかあの光、意思がある?」
まさかと言わなくともマジな気がひしひしとするけど、それは認めたくない。認めたくないなぁ…。ここに来て、本物の幽霊説が浮上してきたか。
「おや、そうなのかい? ということは、その光は動いているということかな?」
僕の呟きから現状を理解したのか、やっぱりちょっと面白がってそうな調子で言う。
それにしても、どうしよう。
あの光が永遠に動くから、僕がミシェルさんに言った提案が永遠に達成できないよ…。
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