第4話 召喚勇者

 …見知らぬ床。コンクリートではなく、フワフワしていてお城とかにありそうな綺麗な赤い絨毯。

 僕らは気が付くと知らない場所に居た。


「…え、どこ?」

「こっ、これはぁっ!? 知ってる、異世界ね!」

「いやそんな訳あるかいな! ありえへんて、そんなこと。きっとここは死後の世界やねん、ウチら死んでもうたんや…」

「お、おおおおおおおおおおおおお落ち着け!! み、み、皆無事か!?」


 有島柚ありしまゆず、空美、新村真耶にいむらまやの順で呟きが聞こえたと思ったら、光先生が活舌絶不調な様子で全員の無事を確認した。…だからあんたが一番落ち着けってば。


「ねえ、葉奈。ここって本当に異世界よね?」

「ぽいよな!」

「悠うるさ…は?」


 とりあえずカンナと悠がいることに安心しつつ、悠を叱…ろうと思って、固まった。

 待て、コイツら誰だ? 声と性格は一緒っぽいが、見た目が全くの別人だ。いや、ちょっと面影はあるかもしれない。

 一体何が起こって…。


 見回すと騎士のような甲冑を着た人たちが無言でレッドカーペットに沿って突っ立っていて、剣を持っている人、槍を持っている人と交互に並んでいる。

 後ろを向くとでっかい扉があって、前を向くと、玉座に座ったいかにも王様なおじさんがいた。


「ようこそ、勇者たちよ!」

 混乱している中、威厳のありそうな声を王様が発すると、みんなは一斉に黙った。


 「勇者」かぁ…。

 どうやら本気で異世界に来てしまったらしい。


 王様はリコス・デイヴィスと名乗り、この世界と召喚した事情について話した。


 僕達が呼ばれたこの場所はデイヴィス王国というらしく、ここ最近、魔族の数が増えてきており、市民の不安が大きくなっているとのこと、

 魔族は一般人より魔力量が多く頑丈なので、凶暴な者が多いという。それを騎士や冒険者だけでは抑えきれなくなったので、あれこれ考えた末、僕たちを召喚したのだという。


 あ、これ戦争系のやつだ。


 マジかぁ、冒険系が良かったなぁ…。戦争はしたくない。

 小さくため息を吐くと、近くの兵士にギロっと睨まれた気がした。


 僕はなんて運の悪い奴なんだろう。家庭では小5くらいから育児放棄だったし、(別に嫌というわけではないんだけど)女の子みたいな顔に生まれるし、虐めれるし…。

 挙げ句の果てに、戦争に放り込まれるのかぁ…。

 もう勘弁してくれよ…。


 もう一度ため息を吐く。…今度はクラスのオタク達から睨まれた気がした。

 増えてません?


「まっ、待ってください!! 私たちは帰れないのですか!? こちらにも親や兄弟がいるんですよ!?」

 と、ここで級長の彩織が声を上げる。

「そ、そうだ! 召喚できるってことは、帰し方も分かってるんだよな!?」

 彩織に合わせて眼鏡のガリ勉…三春哲夫みはるてつおが叫ぶ。


 リコス王は悲しそうに首を横に振った。

「…それが…、貴殿らの帰る方法は無いのだ。なにせ、元の世界でもうすぐ死ぬ者どもを基本に召喚したのだ。元の世界に戻っても、貴殿らは死んだことにされて、居場所は無いのだ」


「…」

 級長が押し黙る。

 そらそうだよな。元の世界ではもう死んでると言われたら、どんな反応して良いか分からんよな。

 というか、やっぱり皆見た目が違うな。特徴が少し似てる部分もあるし、見た目以外はそのまんまその人なんだけど。


「…あの、訊いてもいいんか? なんでみんな顔が違うん?」

 同じことを考えたのか、真耶が尋ねた。


「元の世界で死んだとなると、もうその肉体は使い物にはならなくなるであろう? そうなると、貴殿らはこの世界に来た時点で死んでしまう。そのため、魂だけを召喚して、この世界で用意した依り代に憑依してもらうのだ。憑依された依り代は、魂の無い生きた肉体…異世界人がよく言う“ゾンビ”というものだな…それに魂が憑依したと同時に、その魂の生前の特徴に少しだが影響されて形を変える。だから、そうだな…顔は似ておらんが、身長や声、体つきは変わっておらんし、何なら、顔も少しは面影が残っているであろう?」


 説明が長いが、要はこういうことだ。

 魂を違う人の身体に転移させたから、顔が違う。そして、魂に引っ張られて、少しは前世の面影も残ってはいる。

 …体つきは同じでも、身長は皆変わってるんだな。ちなみに、僕は同じ身長だった…いや、ちょっと伸びたか? でも、いじめっ子組は相変わらず背が高いし、…こういうところまで不憫枠にしなくてもええんやで。なあ、神様?


「なんで死ぬ直前の人なん? 別に生きてる人間でもいいんちゃう?」

「もともと、前の世界に帰す方法がまだどこの国でも見つかっていなくてな。それなら、もし勇者を召喚するなら、死期が近い者どもをべ、そうすれば踏ん切りがつくという暗黙の了解が出来たのだ」


 それで魂だけ召喚って…それはそれで器用だな。


 結局、みんなは今回の魔族討伐の件を呑み、全員でステータス確認をしようという話になった。

 もはや異世界物ではお約束だよねー。

 んで、僕は友人二人の話からいくと無能ポジになるらしいけど、どうなんだろうか。


 大々的に行うステータス確認はそれ用の魔水晶というものとプレートで行うらしく、それに触れたらプレートにその人のステータスが浮かび上がるらしい。

 本来なら、心の中で「ステータスオープン」と唱えると、ウィンドウのようなものが出て、それにステータスやらスキルなどの説明やらが載っているんだとか。…もうそれでよくね?


 そして確認してみた結果。


ショウナ ソトウチ Lv1 職業:剣士

HP 560 MP 150

STR 200 VIT 660 DEX 780 LUK 150 MID 450 INT 455

スキル

【収納】【鑑定】【言語理解】

耐性

【精神異常耐性】【物理攻撃耐性】【魔法攻撃耐性】【火魔法耐性】【水魔法耐性】【苦痛耐性】【熱耐性】【寒気耐性】

称号

【召喚勇者】


剣士なのに耐性系がめちゃくちゃ多い。そして、器用さが一番高い。

 ホワァイ?

 いや、理由は分かってんだけどさ。いじめと趣味のせいだって。でも言いたくなるじゃん、こんなの。

 おかしいよ、僕ただのサンドバックじゃん…。


 今更だが、ステータスは本人の前世の能力が反映され、この世界に来たときに少しだけ強化されるんだという。少しとは一体…。


 そして悠とカンナのステータスはこうであった。


ユウ ヒュウガ Lv1 職業:拳闘士

HP 640 MP 100

STR 890 VIT 770 DEX 680 LUK 780 MID 910 INT 360

スキル

【収納】【鑑定】【言語理解】【調合】【料理】

『突き』『蹴り』『火炎拳』

耐性

【精神異常耐性】【物理攻撃耐性】【熱耐性】【寒気耐性】

称号

【召喚勇者】



カンナ シノギリ Lv1 職業:魔法使い

HP 870 MP880

STR 210 VIT 330 DEX 670 LUK 810 MID 835 INT 760

スキル

【収納】【鑑定】【言語理解】【火魔法】【土魔法】【風魔法】

『フレイム』『ファイアボール』『ファイアウォール』『ファイアニードル』『ウォール』『アースニードル』『ウィンドウ』『ウィンドウカッター』

耐性

【精神異常耐性】【魔法攻撃耐性】【熱耐性】【寒気耐性】

称号

【召喚勇者】


 はい。

 明らかに僕より攻撃能力が高い=強い。

 友人二人の予想が当たってしまった…。

 そして他のみんなとも、比べれば火力がダントツ弱いのは僕だった。


「うわっ、葉奈くん、よっわ~!! ププッ、女子よりステータス低いのね~」

「……」

 柚に嘲笑された。解せん。


「まあいいじゃない! 鍛えたら強くなれるわよ、きっと!」

 ちょっとカンナさん? 笑ってますよね?

 ちなみに、やっぱり級長が勇者の素質があったらしく、職業が「勇者」となっていたし、その他の内容もとんでもない数値が叩き出されていた。


 僕って、本当に運が無いんだなぁ…。


 僕は静かに撃沈した。

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