2話 わたしの好きな人【Side:荻那 馨】
1 青城と有馬
「それじゃあ確かに好きになったとしてもつき合いづらいわね」
荻那は隣を歩く【
自分が初めて彼と出逢ったのは中等部の時の図書館。当時の自分は地味で目立たなかったと思う。それというのも初等部の時にちょっとしたいじめにあったからだ。
それまでの自分はどちらかと言うと『可愛い』ともてはやされ、友達も多い方であったと思う。いや、自分が一方的に皆を友達と思っていたに過ぎない。
親友だと思っていた子の好きな人が荻那に気があると噂になり、親友に『わたしの好きな人を取った』と言いがかりをつけられたのがいじめに発展したきっかけ。
あんなことになるのはもう嫌だと思った荻那は、中等部時代には地味で目立たないやつに徹した。
──初めて出逢った時から青城くんは変わらない。
『荻那さんはどうして図書委員になったの?』
彼とは同じ学年だったため当番が重なることが多く、よく一緒に帰ったものだ。
『地味の極みだから、かな?』
『なにそれ』
荻那の返事に紅はさも可笑しそうに笑ったが、初等部時代に起きたことを話すとその表情は変わった。
『自分らしくいられないのは辛いね』
いじめに同情してくれる人や『荻那は悪くない』と味方してくれた人はたくさんいたが、自分に寄り添った言葉をくれた人は初めてだったのだ。
だから高等部入学をきっかけに変わろうと思った。胸を張って彼の隣に立てるように。
高等部の入学式で久しぶりに会った彼は一瞬驚いたのち、親指を立ててこちらに向けるとこう言った。
『you are shining the brightest. It's very nice.(あなたは最高に輝いている。とても素敵だ)』
自分らしくいようと覚悟を決めた荻那に対する
『何故に英語?』
荻那が素朴な疑問を口にすると、紅は伊達メガネをくいっと指先で持ち上げ。
『俺はインテリを目指している』
どや顔で。
──やっぱり大好きだなって思ったんだよね。
紅はモテるが相手の好意を全く受け取らない。鈍感なのかと思い、ある日思い切ってそれについて訪ねてみた。
『青城くんって他人の好意に鈍感な人?』
その質問に対して彼からは塩な返答が返ってきたのである。
『人というものは、優しくすれば優しくした相手に好意を抱かれるものだし、冷たくすれば嫌われるものだ』
つまり自分の行動によって相手の好悪は変わるということ。だからその好意は純粋なものではないと言う。彼らしいなと思った。
だが告白されてもつき合わないのには別な理由があることを今回知ったのである。紅に好きだと言う相手は100%と言っても過言ではないくらい、彼の親友【有馬 拓】の好きな相手なのだ。
『有馬の好きな相手とはつき合えない』
彼ははっきりそう言った。
その有馬が今、想いを寄せる相手は【
荻那にとって蜜花は高等部で出逢った友人であり、親友と言っても過言ではなかった。確かに蜜花は良い子であり、可愛い。だが荻那とはまったくタイプが違う。文学少女で現実主義の荻那とは違い、蜜花はアニメやゲームを好む夢見がちな女の子。少し天然で、初恋の男の子のことをいまだに思っているような子なのだ。
──有馬はモテる方だと思う。爽やかでカッコいいしね。
でも青城くんを好きな子ばかり好きになるってどういう状況なのかな。
実のところ、自分も有馬には好きだと言われたことがある。あの時、自分は有馬に対してあることを打ち明けた。
『有馬の好きは信じられない、こめん』
そう前置きをして。
有馬と紅は幼いころから仲が良いらしい。家も近所で。
なので当然、よく委員会で紅と一緒になっていた荻那のことも知っていたはずなのだ。なのに当時の有馬は自分に全く興味を示さなかった。
それなのにイメチェンしたから興味を示すという部分に不信感しかない。紅の態度はずっと変わらないのに。
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