第15話 子犬的可愛さ
そこから物語が進み、居候をすることになった九尾の少女、華凛が主人公の通う学園に編入学することになった。
あっという間にクラスの注目の的になった彼女は質問攻めに遭い、そしてとある発言を起爆剤に主人公がばっちり食らうという展開に。
「同棲は大げさすぎるだろうに」
「それくらいクラスメイトは気が気でないってことですよ。考えてみてもください。ある日やってきた美人な転校生が、実はクラスの男子と同じ屋根の下一つで暮らしているとなれば、嫌でも興味を持たないなんてことはないでしょうに」
「気にならないといえばウソにはなるがさぁ」
そっとしておいてやりなさいよとは思いますよ。別になんだやましいことがあるわけでもないでしょうに。
ただでさえ華凛の正体についてを喋ってはならないという緊張感を持っているところにこんなことされちゃあ、増々気が気でなかろうて。
「年頃の学生なんて、少なからず恋愛沙汰には興味を持つものですよ」
「あなたも同じ年頃でしょうに」
「これはこれは」
大人が子供に対して言いそうな常套句でもこぼしたいのかと思いつつもさりげなく話題を流そう。今はテキストを読むのに集中――、
「ところでですが、やっぱり詩音さんとは何もないんですの?」
「なんでそれを今聞くんだよ」
「気になるからに決まっているじゃないですか」
できないんですがこの。
この前まだそういうご関係じゃないんだって説明してあるんだが。って言っても説得力のない光景が今本多さんの視界に広がっているんだったよおい。今すぐ真横に王生さんが引っ付くんじゃないかってくらい近寄っているんだってことを、つい夢中になっていたら忘れてたじゃないか。
「時々紡希が言うんですもの。兄さんとのご関係はどんなもんなんだーって」
「それをさぁ。今この場で聞くかね」
「なんとなくこっそり聞きたくなりまして。紡希なら向こうで氷見山さんとゲームしてますから多分聞こえてませんよ」
「うん俺が気にしてんのはそこじゃ無くてそれ以前のな」
あの二人が聞いていなくとも、当人である王生さんが近くにいるんだ。こっそり教えてくれよなんて聞けるときじゃなかろう今は。
それに今の状況がどうであれ、この前否定したばっかりなんだからすぐさま掘り返して聞き直さないでくださいお願いなんで。
「少なくともまだそういう関係だなんだってのははひゃいと思うんだよ」
「動揺して噛んでません?」
「そういうのは気づいていてもそうではないふりしてさりげなく流すのが大人ってもんだ」
ともかく。まだ早い。
これまでも恭輔然り小中時代の友人こそあれど、自分の趣味楽しみについてここまで楽しく話せる相手は、王生さんが初めてだった。四柳さんともそういった会話はあれど、あの人は委員会での年上の先輩であり委員長だ。どうしても上下関係というものが絡みついてしまう。
でも王生さんとの場合はそうでもなくて。先輩後輩という同じような関係でも、それ以外にしがらみとかどこか遠慮するようなこととかもなくて。気が付けば夢中になって話しているなんてことはよくあって。
しかしだ。それでもだ。出会ってまだ一か月も経ってはいないんだ。お互いに内なるものを知らないことなんて多くあるだろう。同じ趣味を共有できる友達のような関係であっても、そのさらに先を行く恋人というところまで行くのはまだ踏みとどまるべきだ。
「まだそんなんじゃねぇよ」
「そうにも見えませんけどね。でもそうですね。流石に早すぎましたか」
「そうそう」
わかってくれたならそれでいい。今度こそ続き読もうか――、
「いきなり彼氏彼女は言いすぎましたがなんかその……飼い犬と主人みたいで」
「そういうこと言う?」
だからってその表現はどうなんです。ペット扱いはあかんだろ。
恋人というランクから遠ざけたんだろうけども、それにしたって関係性がお友達よりひどいのはどうなんだよ。さっきからずっと黙り込んでいるっぽいけど、飼い犬と言われちゃあさすがの王生さんでも――、
「せ、先輩、の……飼い犬……」
王生さん? そのまんざらでもないというような、否定ではないような素振りは何なんです。
「何と言いますかね。お兄さんといるときの詩音さんは、私や紡希と話している時とは雰囲気がちょこっとばかしか違うのですもの。私としましては、それが人懐っこい子犬のように見えたものですから」
「だからってなぁ」
「あの、いいんです蔦町先輩。何といいますかその、中学の時にも、クラスの子から似たようなこと、言われたことありまして。なのでその……」
「納得するんじゃないよお願いだから」
『子犬っぽくて可愛い!』 とかいう誉め言葉ならわからんでもないよ。無邪気なとことか元気っぽさとか、あとは単純に見た目がそれっぽいとかさ。
でもさぁ。『ご主人に懐いてる飼い犬みたいだね』 って言われて普通喜ぶもんじゃないと思うんだが。少なくともそれは誉め言葉ではないと思うぞ。完全に人未満に見られてるから。
「頭とか顎下とか撫でてみてはどうです?」
「なんで絵になりそうみたいなキラキラ顔でこっち見てんだ。やらないから。やらないからね」
「……」
このままだと本多さんの独壇場だ。これでは増々収まりがつかなくなってしまう。最初に会った時は見た目に合わず礼儀正しいと思っていたが、こうも生意気じゃないが取り扱いの難しい性格してるとは。
ともかくこんなこと聞かなくともよいと王生さんにほださねば……王生さん?
「顎を上げるんじゃないの。というか従順になるんじゃないよ弱み握られてない大丈夫?」
「そんなことをするわけがないじゃないですか」
「その笑顔が逆に怖いんだよあんた」
でもって王生さん。ちょっと期待に満ちながらも恥ずかしそうな顔をするんじゃありません。
マジで弱み握られているのか。それとも触られることに抵抗がないのか。はたまた本心でそうされることを懇願してるのか。
下らぬ本音を申し上げるなら、興味はある。最初に見かけたときや食堂で会った時のこと。見た目がなんかそんな感じじゃないかと思いましたとも。だから邪な情を抱いてしまう。他者から見てもそう思うのならばそういうものなのかと。
だから気が付けば少しづづ手が王生さんの方に――、
「兄さん?」
「っ!」
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