第4話 再会

(結局、彼女は何者だったんだろう?やっぱり夢だったのかな?)


 侑は、昨日出会った別世界から来た魔法少女を名乗っていた少女のことがずっと気がかりだった。

 昨日はあの後、警察官に事情を聴かれた。警察官には暴漢から何とか自力で逃げ切れたと誤魔化した。また、うっかり魔法少女のこと口にしてしまったことについては、疲れて公園のベンチで寝てしまってそのときに見た夢に魔法少女が出てきたので、寝ぼけて出た言葉だと説明しておいた。警察官は一応それで頷いてはいたが、信じてもらえたか侑にはわからない。

 そして日付が変わり、今日は月曜日。

 普段通りに学校に登校し授業を受けたわけだが、彼女のことが気になって、一日中どこか上の空だった。


(あの子、これから仲良くしていきたいって言っていたけど…)


「…ーい!おーい!侑、家帰ろう!」


 公園で昨日呼ばれたときと同じような声が、侑の思考のうちに入り込んできた。そこではっとして声の方に注目すると、誠が隣に立っている。


「今日はずっとぼーっとして、どうした?また、憧れの青柳あおやぎさんのことでも考えてたのかい?」


「そういうわけじゃないけど…」


「ふーん。本当かなあ?」


「本当だよ!そういう、誠くんこそさんB組の東浦ひがしうらさんとはお近づきになれそうなの?」


 誠のからかい交じりの発言に、侑は少々粘りつくような視線を送って訊き返す。


「いやあ、全然。まだ、挨拶しかしたことないし」


「誠くんならいけると思うんだけどなぁ。顔だけはイケメンだし」


 侑は、『だけ』の部分を強調して言った。


「ほっ!本当か!?それなら今度…、ってその言い方だど性格はイケメンじゃないみたいじゃないか!」


「だって、本当のことだし。少なくとも心は、僕に女装をさせて写真や動画を撮りまくってる変態さんじゃない!」


「ほーん?まるで嫌々女装させられている被害者風の言い方だけどさぁ、侑だって最近は満更でもなさそうなのでは?」


「うっ、それは…」


 誠に痛いところを突かれて反論できない侑。確かに、侑は最近女装をすることに対して抵抗感が薄くなってきている、いや、むしろどこかワクワクしている部分さえ感じ始めていた。だからこそ、昨日は誠から勧められた女子用の制服を着て出かけることを強く断れなかったのだ。


「ちょっと、誠!帰る準備が終わったなら早く帰りなよ!あんたの班は掃除当番でもないんだし、それにそこにいたら掃除の邪魔になるでしょ!」


 その時、甲高い声が2人の間に割り込んできた。声がした方を見ると、険しい表情をしたポニーテールの女子が立っていた。右手には、毛の部分がモップのように幅が広く、柄の長い箒を持っている。


「げっ、りんじゃん」


「げっ、とは何!げっ、とは!」


「別に俺を避けて掃除すればよくない?それに何で俺だけにそんな強く当たるんだよ」


「うるさいっ!あんたの図体がデカすぎるから掃除の邪魔になるの!」


 誠の身長は175cmを超えていて、中学1年生にしてはかなり身長が高い。だが、体型としては引き締まった筋肉を持つものの、どちらかといえばスリムな方だった。


「図体がデカいって、確かに身長は高いけどさあ…」


「ほら、さっさと帰った帰った!!」


 そう言いながら凛と呼ばれた少女は手に持っていた箒を、誠の足をめがけて槍を突くように動かした。誠の足に箒の頭の部分が衝突する。


「わかった!わかった!帰るからっ!」


 誠は今にも走り出しそうなポーズを取って、侑に声を掛ける。


「侑、早く逃げないとこの凶暴大魔王に俺たち殺されちまうぜ!」


「誰が凶暴大魔王だコラっ!」


 凛は今度は、箒の柄の先端を誠の背中を突き刺した。だが、誠はそれを寸前で躱して教室から走り去った。


「まったく、逃げ足が速い奴め…」


 凛は渋い表情をして、悔しがっている。


「あなたもあんなのが友人で大変じゃない?」


「あはは…」


 侑は、苦笑いするしかなかった。


 ☆☆☆☆☆


「まったく、凛の奴、最近ツンツン度が増してきてやがる」


「そ、そうだね…」


 侑は凛と分かれて教室を出た後、学校の自転車小屋で誠と合流した。


「せっかく綺麗な顔してるのに、あんな険しい表情ばっかして…。昔はあんな感じじゃなかったのになあ」


 誠の家は凛の家と近い場所に建っており、昔から家族ぐるみでの交流がある。要するに、誠と彼女は所謂幼馴染の関係なのだ。


「確かに、前はあそこまでツンツンしていなかったかも…。僕がここに引っ越してくる前のことはよくは知らないけど」


 侑は、小学3年生の時にこの街、雅峰市がほうしに引っ越してきたのだった。そのため、それより前の誠に関する情報についてはあまり詳しくないのである。

 二人は自転車を押しながら、校門に向かって歩き始めた。


「それにしても、今日は暑すぎだあ。38℃まで上がるって、今朝の天気予報で言ってたし。マジで今年の夏は暑すぎでしょ」


「本当にね。僕たちの体温より高いのは勘弁してほしいよ」


「それなー」


 誠も同感のようで、気だるげに賛成の返事をした。


(もしかすると、僕は最近の暑さのせいで頭がおかしくなってしまってたんじゃ…)


 侑は、昨日の出来事が暑さのせいで見た幻覚だったのではないかと思い始めた。


(でももし、幻覚じゃなかったら、ちゃんとお礼をしたいなぁ…こうして、誠くんといつものような会話ができてるのだって、あの子のおかげだし)


 侑は律儀な人間である。助けられたお礼に、何かお返しをしたいとも思っていた。


「おい、侑。あそこに誰かいる…」


 少し下を向きながら考え事をして歩いていると、隣の誠が小声で声を掛けてきた。


「ん?」


 前を見ると、十数メートル先の校門の支柱の陰に誰かがいた。その人物はよく見ると、昨日侑が着させられていた制服を着ているようにも見える。


「あっ!」


 その人物は、こちらに気づいたからなのか声を上げた。侑にとっては聞き覚えのある声だった。


「おかえりー!侑くんと、邪な魔気の人!」


 快活な声を上げてこちらに向かってくるその姿を見て、侑は思わず自転車のハンドルから手を放してしまった。

 ガシャン。

 自転車の倒れた音が、2人の間に鳴り響く。

 その音と倒れた自転車の振動はきっと現実のものに違いないと、侑には感じられた。


























































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