ダンジョン跡地冒険譚
徘徊堂
第1話 地面から現れた少女
「ふへへ、ついに追い詰めたぜ」
「ちょこまかと逃げ足の速い奴だな。手間かけさせやがってよ」
時は夕暮れ。ヒグラシの鳴き声が、茜色に染め上げられた空間に響き渡っている。
とある寂れた公園の片隅で、どこかの学校の制服を着た1人の女子生徒らしき人物が2人の男に囲まれていた。最初に喋った男は長身で筋肉質な体型で、髪を金色に染めている。続けて話した1人は小太りで、身長は追い詰められている人物と同じくらいでスキンヘッドである。対照的な二人ではあるが、両者ともにサングラスを掛けているという共通点がある。
(あああ、まずい、やばいよ。どうしよう。こんなことになるのなら女装させられるのを断固として拒否すればよかったよ…)
追い詰められた女子生徒、否、女装させられた男子生徒、
それに、彼は恐怖でうまく声が出せなくなっていた。
「ほら、俺らと楽しい遊びしようぜ、嬢ちゃんよぉ」
長身の男が、ねっとりとした口調でそう言いながら、侑の白く細い腕を掴んだ。
「た、あ、あ、た、ああ、あ…」
助けを呼ぼうと口を開いたものの、彼は言葉にならない途切れ途切れの音声を絞り出すので精一杯だった。
そのとき、長身の男の足元の地面が静かに突如青白く発光し始めた。
「おお?なんだ?」
少し離れて二人の状況を見ていた小太りの男のその一声で、三人が皆その光に注目する。その異変を目の当たりにして、長身の男は掴んでいた男子生徒の腕を思わず離し、後ろへ飛び退いた。
直後のことだった。
青白い光が天に伸び、光に包まれながら地面からが何かがヌーっと上がってきた。そのシルエットは人型をしているように見える。
「やっと着いたー!!」
光りに包まれた何かから溌溂とした声がした。
そして数秒で光が消滅する。声の主の姿が露わになった。
侑からは、その後姿が見えている。
光の中から出てきたのは、奇妙な服装をした人物だった。全体的にヒラヒラした印象の薄ピンク色の衣服を身に纏っている。まるで絵本やアニメに出てくる魔法少女のような出で立ちである。肩の少し上で切り揃えられた髪型やその服装から女性のように思われた。
「お、お前はいったい何だあ?」
小太りの男が震え気味の声で問いかけた。突然の奇妙な出来事に驚いているようである。
その人物は少し首を動かしてチラりと侑の方を一瞥し、すぐに暴漢たちの方に向き直った。
(女の子…?)
わずかに見えたその人物の顔から、侑は自分と同じくらいの年齢の少女ではないかと推測した。
「わたし?わたしは魔法少女!」
「は?ふざけてるのか!?」
長身の男は動揺を隠せない様子で、そう叫んだ。
「全然ふざけてないよ!」
魔法少女風の人物は、明るくはきはきとした調子で返答する。
「チッ!馬鹿にしてんのか!!」
小太りの男の方が舌打ち交じりに声を荒げる。そして、間髪入れずに右手を振り上げて突然彼女に殴りかかった。
しかし、彼の拳が彼女に届くことはなかった。
なぜなら、小太りの男が突如後方へ2mほど飛ばされたからだ。そして、勢いのまま地面に倒れこんでしまった。
「おい!何が起こった?」
焦りながらそう言ったのは、隣で見ていた長身の男だ。
「風を操る魔法だよ。突然殴られそうになったから、ビックリしてつい発動させちゃった」
彼女は少し申し訳なさそうに答える。
「クソッ、得体の知れないヤツだ。ここは一旦退くか…」
長身の男は、地面に倒れている小太りの男に小走りで近づいて、抱きかかえるようにして小太りの男の体を起こした。二人は何か小声で短く言葉を交わすと、「覚えていやがれ!」と捨てセリフを残して公園の出口の方へ走り去っていった。
夕暮れの公園には静寂が戻り、ヒグラシの鳴き声が響き渡る。
「ふぅ、危なかったー」
彼女はそう言いながら、体の向きを変えた。侑と向かい合う格好になる。
彼の目に、あどけない表情の少女の顔が映った。
その瞬間なぜか恥ずかしいような、落ち着かないような、変な気分になって侑は少し目を伏せた。
「あ、ありがとうございます…。助けていただいて」
彼は目を伏せながら、お礼を述べた。
「いいよいいよ、っていうか、わたしがびっくりして魔法を発動させちゃっただけだし…。それよりもっ!」
彼女は突然、ピョンという音が鳴りそうな勢いで侑の体の間近に飛び込んできた。そして、伏し目がちの侑を下から覗き込むような体勢になる。
今度は彼女としっかり目が合った。
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